建設業に関するさまざまな課題を解決する手段として、国や建設業界が注目する「建設DX」。
この記事では建設DXの概要とメリット、中小企業の具体事例などについてわかりやすく解説していきます。
建設DXとは何か?について考える前に、そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは何かについて理解しておきましょう。
経済産業省が公開していた『DX推進ガイドライン』によると、DXとは次のようなものです。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。 |
簡単に言うとデジタル技術を使ってビジネスのやり方から企業文化まで変えてしまうのがDXで、それを建設業界において実行するのが建設DXです。
建設DXの取り組みは大手建設会社から始まりましたが、最近では中小企業の中にも建設DXに取り組んでいるところが数多くあります。後ほど詳しく説明しますが、国もこうした流れを積極的に後押ししています。
官民を挙げて建設DXが注目される理由は、日本の建設業界が抱えているさまざまな課題にあります。
建設業界が抱える大きな課題のひとつが「労働生産性の低さ」です。
紙などを使ったアナログな作業が多く、しかも発注案件ごとに異なる構築物を建設することが多いため、作業効率化による生産性の向上は容易ではありません。
また元請け、下請け、孫請けなど多くの関係者が工事に加わるため、そのうちの一社だけが作業効率化に取り組んでも、全体の生産性にほとんど影響しないケースもあります。
少子高齢化は日本社会全体の課題ですが、特に建設業界では深刻な問題となっています。
総務省統計局の「労働力調査」によると建設業に携わる労働者の数は1997年をピークに減少する一方で、2021年にはピーク時の70%まで落ち込みました。
労働者の年齢構成も50代以上の割合が多く、逆に若手の就業者が少ないため技術の継承も難しくなっています。
建設業界で使用されるシステムの老朽化も課題です。
2018年に経済産業省が公表したレポート(DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~)によると2025年までにシステム保守のIT要員が大きく不足し、システム障害やデータ損失のリスクが年間最大12兆円にまで膨らむと予想とされています。
これが『2025年の崖』です。
国が推進する働き方改革は建設業界も例外ではありません。建設現場では土日祝日に関係なく工事が行われることが多く、他業種と比べて労働時間も延びがちです。
しかし2024年4月からは時間外労働の罰則付き上限規定が適用されるため、業務の効率化と生産性の向上は待ったなしの課題となっています。
建設DXは上記の課題の解消につながると期待されています。ここでは具体的なメリットをいくつか紹介します。
最先端のデジタル技術を導入することで、これまでアナログで行われてきた作業の仕組みが大きく効率化されます。
たとえば3次元データで建設生産や管理システムを効率化するBIM/CIMを導入すれば、遠隔地からリモートで打ち合わせを行ったり、工程の変更や追加が発生した際の情報共有などが容易になります。
結果として作業全体の品質が改善され、業務を効率化できます。
デジタル技術は人手不足の改善にも効果的です。
ドローンの活用や重機の遠隔操縦によって危険な現場作業に大勢の人手を割く必要がなくなりますし、AIを導入すれば作業員に代わって機械が自ら考え自律的に作業を行えるようになると期待されています。
若い人材がタイムリーに入ってこなくても、熟練作業員のノウハウをデジタル化することで技術を後の世代に伝えることができます。
人間の作業員ではなくAIがノウハウを学習すれば、さらなる省人化にもつながることでしょう。
現時点で建設DXを導入している建設会社はそれほど多くありません。特に中小企業ではデジタル技術に対応できる人材を確保することが難しく、本格的な普及はこれからの課題です。
このため、先行して建設DXを導入している企業は他社に対して大きな強みを持つこととなり、自社の競争力強化につながります。
建設DXの普及は国にとっても重要な課題です。ここではそのための主な取り組みを紹介します。
DX認定制度とは建設業界を含むさまざまな業界で、DX推進の準備が整った企業を国が認定する制度です。制度の運用は2020年11月から始まっており、ひと月ごとに新たな認定が行われています。
なお最新の認定企業は、独立行政法人情報処理推進機構のホームページ『DX認定制度 認定事業者一覧』で確認できます。
i-Constructionとは、デジタル技術の導入によって「建設生産システム全体の生産性向上」を図り、魅力ある建設現場を目指す取り組みです。
旗振り役の国土交通省では、具体的な施策として以下の3点を挙げ、2025年までに建設現場の生産性を「2割向上させる」ことを目指しています。
参考サイト:国土交通省『i-Construction』
2021年4月1日に発足したインフラDX 総合推進室は、国土交通省が進める建設業のDX推進体制です。
この取り組みでは本省・研究所・地方整備局等が一体となって、インフラ分野のDX推進に向けた環境整備や実験フィールドの整備、3Dデータを活用した新技術の導入促進、人材育成などを強化していきます。
参考サイト:国土交通省『インフラDX 本格始動! ~インフラDX ルーム・建設DX 実験フィールド開所式の開催’』
建設DXの目玉とされる「BIM/CIM」の普及を促進するため、国土交通省では2023年までに全ての公共工事(小規模を除く)でのBIM/CIM原則適用を目指しています。
特にオンライン電子納品やリモートでの監督などはすぐにでも導入し、3Dデータの活用や3D技術に対応する人材育成などは段階的に進めていく予定です。
参考サイト:国土交通省『令和5年度の BIM/CIM原則適⽤に向けた進め⽅』
建設DXにはさまざまなデジタル技術が関係しています。ここではそのうちの代表的なものを紹介します。
BIM/CIMとは、3次元データの活用によって建設工事の計画、調査、設計、施工、維持管理の効率化を図る技術です。
従来の図面では伝わりにくかった詳細情報を共有できるため、コニュニケーションの精度向上と時間短縮に大きく貢献します。
また3次元データによるシミュレーションで設計品質が向上するため、コスト削減にも役立ちます。
AIとは人工知能(Artificial Intelligence)のことで、簡単にいうと「学んで思考するコンピューター」です。
建設DXでは、たとえば工事現場の画像から工事の進捗状況を判断したり、図面や3次元データからシミュレーションを行って構造上の問題点を検証するといった用途が考えられます。
IoTはモノのインターネット(Internet of Things)のことで、さまざまなモノ、たとえば工場の機械や建設機器などをインターネットに接続して情報を収集したり、遠隔操作をすることができます。
収集したデータを蓄積しAIによって分析すれば、技術の保存や承継にも役立ちます。
5Gは2020年より導入された次世代移動通信規格のことで、従来の通信規格と比べてはるかに大容量のデータを高速で通信できます。
通信の安定性が高く同時に接続できる機器の数も多いため、特にIoTを活用する場面で効果的です。
最後に、DX認定を取得して建設DXに取り組んでいる中小企業の事例を紹介します。
山形県米沢市の後藤組は、DX推進プロジェクトとして6つの行動計画を策定しています。
特に⑤の「次世代型建設DXの推進」では、現場書類のペーパレス化やBIM/CIM、IoT、ICT建機の活用をはじめとするi-Constructionの適用促進に取り組み、生産性の向上や新たな顧客価値の創造を目指しています。
参考サイト:DXへの取り組み | 後藤組
千葉県成田市の平山建設は、クラウド(Google Workspace)を活用した情報共有により業務の大幅な効率化を実現しました。
同社ではDX推進による働き方改革をさらに進め、時間外労働の削減を進めて「学生が求める企業」となることで、引き続き継続的な採用を目指しています。
参考サイト:DX認定取得について|平山建設
富山県富山市に本社を置く新日本コンサルタントは、IoTやAIなどの活用やi-Constructionへの取り組みを進めています。
これにより「橋梁・河川・下⽔道事業等⽐較的強みのある分野の技術⼒の強化」と「基幹事業への付加価値創造」を実現し、土木設計業からインフラ技術サービス業へと進化することが同社の目標です。
参考サイト:デジタル・ニックスの推進 | 株式会社新日本コンサルタント | NiXグループ
建設DXは建設業界が抱えるさまざまな課題の解決につながります。特に人材不足に悩む中小企業にとって、建設DXに取り組むことは「生き残り」や「他社との差別化」につながる重要なカギといえるでしょう。すでにDX認定を受けている他社の事例も参考にしながら、自社ならではの建設DXに取り組んでみてください。