指定管理者制度のメリット・デメリットとは?PFIとの違いについても解説します

指定管理者制度とは、民間企業やNPO法人を公共施設の管理者に指定する制度です。この記事では制度の仕組みや目的に加え、PFIや従来の管理委託制度との違いについて説明していきます。

指定管理者制度とは

指定管理者制度は、地方自治体が公共施設の管理を民間に委任するための制度です。この制度は、公共サービスの効率性と品質を向上させる目的で、2003年の地方自治法改正によって導入されました。

制度の目的

指定管理者制度の主な目的は、公共施設の効率性とサービス品質の向上です。民間の知識や技術を活用することで、公共サービスの提供方法を革新し、その品質と効率を向上させることを目指しています。

また、公共施設の運営に民間企業を巻き込むことで、地方創生や地域活性化にも寄与すると期待されています。

制度の流れ

地方自治体は公共施設の運営に適した民間企業やNPOを「指定管理者」として選出し、指定された管理者は、定められた期間のあいだ公共施設の運営と管理を行い、自治体との間で締結される契約に基づいて報酬を受け取ります。

指定管理者制度の流れは次の通りです。

公募

公募は指定管理者制度の最初のステップです。自治体は指定管理者となりうる民間企業を公募します。公募要項には、事業の内容、選定基準、提出書類などが明記されます。応募企業は、これらの要件を満たす提案を作成し、自治体に提出します。

審査

次に、自治体は提出された提案を審査します。審査は一般的に、提案の内容、民間企業の経営能力、事業計画の信頼性などを基に行われます。この段階で最も適切と判断された提案が選ばれ、その企業が指定管理者となります。

指定運営・管理

選ばれた民間企業(指定管理者)は、自治体から指定された公共施設やサービスの運営・管理を行います。指定期間は通常数年で、その間、指定管理者は施設の運営やサービスの提供を担当します。

評価・改善

指定期間の終了に向けて、自治体は指定管理者の業績を評価します。評価基準は事前に設定され、サービスの品質、利用者の満足度、運営の効率性などを考慮に入れることが一般的です。評価結果に基づいて、次回の公募や運営方法の改善点を見つけることができます。

指定管理者制度と他の制度の違い

指定管理者制度と似たような制度としては、事業委託、PFI事業、管理委託制度があります。それぞれの違いについて簡単に説明します。

事業委託との違い

事業委託は、公共施設の業務の一部を民間民間企業に委託するものです。施設の所有権は自治体、事業主体も自治体のままで、業務の一部を民間に任せます。

しかし、予算の都合などから契約が単年であることが多く、単年で業務を請け負う形が一般的です。

PFIとの違い

一方、PFI(Private Finance Initiative)事業は、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して公共施設の整備を行うことが主な目的です。民間企業が主体となって設備設置を行い、自治体が主導するよりも費用対効果を高めることができます。契約は複数年度契約になることも多く、民間企業もその事業に対して包括的に関わることができます。

具体的には、民間企業が資金を投入してその施設の作成から運営まで全てを行い、そのサービスを自治体が購入する形をとります。施設の所有権は最初から自治体に引き渡すか、一定の運営期間を経てから自治体に譲渡するケースもあります​。

従来の管理委託制度との違い

管理委託制度はこれらとは異なり、すでに設置されている施設の管理運営をアウトソーシングする形です。管理委託制度は指定管理制度とよく似ていますが、以下のような相違点があります。

指定管理者制度 管理委託制度
運営を委任される民間企業 法人など(特に制限なし)公共性のある団体
自治体と民間企業の関係 指定、もしくは協定委託契約
入札 対象にならない対象になる
議会による議決必要不要
利用者からの料金徴収 可能不可

なお細かい違いは上記の通りですが、根本的な違いは「民間企業が公の施設を使って営利活動を行う」ことを認めるかどうか、という点です。

指定管理制度はこれを認める代わりに、そのノウハウを住民サービスの向上に役立てようとしています。

民間企業にとっての指定管理者制度のメリット

指定管理者制度には、自治体にとっても民間企業にとってもメリットがあります。ここでは主に「民間企業にとってのメリット」を紹介します。

経営が安定する

指定管理者制度により、民間企業は一定期間、公共施設の運営を担当します。この制度を活用することで民間企業は安定した収益源を得て、経営の安定化につながります。また公共施設の運営という「信頼性の高いビジネス」を担当することで、金融機関等に対する民間企業の信用力も向上します。

実績になる

指定管理者制度を通じて公共施設の運営に成功すれば、民間企業にとっては大きな実績になります。自分たちが効率的な運営運営を行い、高品質なサービスを提供できると証明することは、民間企業が新たなビジネスチャンスを掴むきっかけにもなるでしょう​。

信頼性が上がる

公共施設は地域社会にとって重要なサービスを提供しているため(たとえば図書館など)、指定管理者として公共施設を運営することは、民間企業の信頼性と認知度を高めます。民間企業の名前が公共施設と関連付けられることで地域での認知度が増し、その後の事業展開や新たなビジネスチャンスを得るための重要な要素となるでしょう。

民間企業にとっての指定管理者制度のデメリット

一方、指定管理者制度にはデメリットもあります。

ノウハウが引き継がれない可能性がある

指定管理者制度では、ある期間が終わった後に再度競争入札が行われ、新たな民間企業が選ばれることもあります。もし新たに選ばれた民間企業が前の企業とは異なる方針を持っていたり、特定のノウハウの引き継ぎが困難な場合、蓄積したノウハウや経験が新しい民間企業に十分に引き継がれないことも珍しくありません

サービスが低下する可能性がある

指定管理者制度は公共サービスの効率化とコスト削減を目指していますが、その過程でサービスの品質が低下するリスクがあります。例えば、コスト削減のために人員を削減し、その結果サービスの質が低下するというケースです。

また、新たに選ばれた民間企業が前の民間企業と同等またはそれ以上の品質のサービスを提供する能力を持っていない場合も、サービスの品質が低下する可能性があります。

指定管理制度の活用事例

指定管理制度はすでに全国で活用されています。ここではその中から3つの事例を簡単に紹介します。

東京都パラスポーツトレーニングセンター

東京都調布市の「東京都パラスポーツトレーニングセンター」は、東京都が整備する室内型のスポーツ施設です。2023年3月にオープンしたばかりですが、同年3月1日から5年間、都内の公益社団法人(公益社団法人東京都障害者スポーツ協会グループ)が指定管理者に指定されました。

ちなみに公益社団法人の構成団体は「株式会社東京スタジアム」です。これまでに障害者スポーツ施設について十分な指定管理の実績があることから「安定的で堅実な運営が期待できる」「近接スポーツ施設や周辺施設と連携した一体的なイベントの開催を提案している」ことなどが指定の主な理由となっています。

参考リンク:東京都パラスポーツトレーニングセンター

大和市文化創造拠点シリウス

神奈川県大和市の「大和市文化創造拠点シリウス」は、芸術文化ホール、図書館、生涯学習センター、屋内こども広場といった複数の機能が融合した公共施設です。2021年4月1から5年間、複数の企業で構成される事業共同体「やまとみらい」が指定管理者として運営しています。

指定にあたっては、やまとみらいを構成する各企業(サントリーパブリシティサービス株式会社、株式会社図書館流通センター、株式会社小学館集英社プロダクション、株式会社明日香、株式会社ボーネルンド、横浜ビルシステム株式会社)の実績と、それぞれの強みを生かした事業提案が評価されています。

参考リンク:大和市文化創造拠点

道の駅八王子滝山

東京都内で唯一の道の駅「道の駅八王子滝山」も指定管理制度によって運営されています。現在の指定管理者は中日本エクシス株式会社で、指定管理機関は2022年4月1日から5年間となっています。

新たな選定にあたっては、中日本エクシス株式会社がすでに同施設の指定管理者として実績とノウハウを積み重ねていることと、同社が(コロナ禍による)「新しい生活様式」に対応した提案をしていることが評価されています。

参考リンク:八王子滝山

まとめ

指定管理者制度は、公共施設の運営を民間に委託することにより効率性とサービス質の向上を目指す制度です。制度には大きなメリットがあるものの、適切に運用しないと企業自身にとっても、公共施設を利用する住民にとってもデメリットとなりかねません。指定管理制度に関心がある企業は、ぜひこの記事などを参考に制度への理解を深め、関係者すべてにとってメリットになるような形で制度を利用していきましょう。

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