国や自治体など、公的機関が工事を発注する場合、一般には「入札」が行われます。一方、特定の条件を満たす案件では「見積合わせ」という方法が使われることもあります。この記事では見積合わせと入札の違いについて、わかりやすく解説していきます。
見積合わせとは、発注者(公的機関)があらかじめ複数の企業を指名して見積書を依頼する契約手法です。指名された企業はそれぞれ提示された条件に基づいて見積書を作成・提出し、発注者側はそれぞれの仕様や金額、信頼度などを比較検討して契約相手を決定します。指名される企業は、過去に発注者との取引実績がある企業や、地元で大きな信頼を得ている企業などです。
ちなみに「見積合わせ」という言葉は、民間企業同士の契約ではあまり使われません。
これに対し入札は、発注者が公募を行い、不特定多数の企業に応募させる(競わせる)契約手法です。応募する企業は入札書(入札金額を書いた書類)を一斉に提出し、発注者側は原則として一番安い金額を提示した企業を契約相手に選びます。
なおここで説明したのは、主に「一般競争入札」の特徴です。入札には他にもさまざまな種類があります。主な種類やその特徴については、関連記事もぜひ参考にしてください。
関連記事:代表的な入札方式をわかりやすく解説!特徴からメリット・デメリットまで | 入札成功のための基礎知識
関連記事:一般競争入札とは?他の入札との違いや流れ、落札のコツまで解説
見積合わせと入札の特徴について上で簡単に紹介しましたが、それぞれの違いについて、もう少し詳しく説明していきましょう。
公的機関が行う契約では、入札が基本です。ただし一定の金額(少額)の案件では、「少額随意契約」として見積合わせを利用できます。この金額は法令(予算決算及び会計令と地方自治法施行令)で規定されています。
国の場合:予算決算及び会計令第99条(一部省略)
2 予定価格が250万円を超えない工事又は製造をさせるとき。 3 予定価格が160万円を超えない財産を買い入れるとき。 4 予定賃借料の年額又は総額が80万円を超えない物件を借り入れるとき。 5 予定価格が50万円を超えない財産を売り払うとき。 6 予定賃貸料の年額又は総額が30万円を超えない物件を貸し付けるとき。 7 工事又は製造の請負、財産の売買及び物件の貸借以外の契約でその予定価格が100万円を超えないものをするとき。 |
自治体の場合:地方自治法施行令 別表第5
1 工事又は製造の請負 | 都道府県及び指定都市 250万円 |
市町村(指定都市を除く。以下この表において同じ。) 130万円 | |
2 財産の買入れ | 都道府県及び指定都市 160万円 |
市町村 80万円 | |
3 物件の借入れ | 都道府県及び指定都市 80万円 |
市町村 40万円 | |
4 財産の売払い | 都道府県及び指定都市 50万円 |
市町村 30万円 | |
5 物件の貸付け | 30万円 |
6 前各号に掲げるもの以外のもの | 都道府県及び指定都市 100万円 |
市町村 50万円 |
上の規定によると、国と都道府県・指定都市の工事なら250万円以下、市町村の工事なら130万円以下の工事で見積合わせを利用できることになります。
参加できる企業は、見積合わせの場合は「指名を受けた企業」、入札(一般競争入札)の場合は「不特定多数の企業」です。ちなみに見積合わせで指名される企業の数については、予算決算及び会計令にこう書かれています。
予算決算及び会計令第99条の6 契約担当官等は、随意契約によろうとするときは、なるべく2人以上の者から見積書を徴さなければならない。 |
「なるべく」という表現は付いているものの、見積合わせの相手は2社以上です(実際には3社程度が指名されています)。なお予算決算及び会計令は国の案件に適用されますが、各自治体にも同様の規定があります。
提出する書類にも違いがあります。見積合わせの場合は「見積書」、入札の場合は「入札書」です。見積書には金額の他に内訳や提案内容も書かれますが、入札書は原則として入札金額のみを記載します(入札の種類にもよります)。
契約相手を決定する際、見積合わせでは金額に加え、見積書の内容が総合的に判断されます。これに対し入札では、入札金額が一番安い企業が選ばれます(こちらも入札の種類によります)。
言いかえると、見積合わせでは見積金額がいくら安くても内容が伴っていなければ(=信頼性や実現可能性がなければ)選ばれません。しかし入札の場合は比較基準が入札金額しかないため、結果として粗悪な工事を行う企業が選ばれてしまうリスクがあります。
見積合わせとよく似た契約手法に「オープンカウンター方式」があります。これは「発注したい案件の見積条件を公開して、複数の事業者から見積りを募る」という点で見積合わせと同じですが、「見積相手を事前に特定しない」つまり不特定多数から見積を募集する点が大きな違いです。見積合わせと入札(一般競争入札)の中間のような手法といえるでしょう。
見積合わせ | オープンカウンター方式 | |
---|---|---|
見積を依頼する相手 | 指定した2社以上 | 不特定多数 |
契約条件の公開 | なし(指定した企業にのみ通知) | あり |
関連記事:オープンカウンター方式とは何か?参加条件から流れまでわかりやすく解説
見積合わせにも入札にも、それぞれのメリットがあります。ここでは特に、見積合わせのメリットに注目して説明していきましょう(入札のメリットについては関連記事をご覧ください)。
見積合わせでは2社以上が見積書を提出します(一般には3社程度)。つまり競争相手は1社か2社ということです。これに対し入札は不特定多数が応募できるため、競争相手は多数に上ります。競争相手が少なければ、それだけ契約のチャンスが大きくなるといえるでしょう。
見積合わせでは見積書の内容が総合的に評価されます。一般競争入札のように「金額のみ」で選ばれるわけではないため、技術力はあっても資金力が乏しい(=資金力のある大企業と価格競争ができない)中小企業にも十分なチャンスがあります。
発注者側にとっても、金額が安いだけで質が低い粗悪な業者と契約するリスクが減る、という点がメリットです。
見積合わせでは無理な価格競争をする必要がありません。応募企業は、自社の利益をきちんと確保できる適正価格を提示できます。契約を取れても利益が出ない、契約をするほど赤字になる、といった事態を避けられる点がメリットです。
発注者である国や自治体の担当者にとって、見積合わせは入札よりも手間や時間、そしてコストがかかりません。契約にともなう負担が軽減される点がメリットといえます。
見積合わせの流れは、入札と比べてシンプルです。ここでは5つのステップに分けて簡単に説明します。
最初に仕様書を作成します。具体的にはどのような工事を行うのか、要求される仕様はどのようなものかといった内容で、各企業が見積金額を算出する際の基準となるものです。
仕様書を作成したら、それに基づいて見積合わせの候補となる企業を選びます。選定方法はさまざまですが、一般には過去に同様の契約実績がある企業や、同様の内容で信頼を置ける地元企業などが選ばれることが多いようです。
候補となる企業を選んだら、実際に見積書の提出を依頼します。依頼方法は電話、メール、FAXなどが一般的です。依頼を受けた企業に契約の意思がある場合、指定された期間内に見積書を提出します。
依頼した企業から見積書が出そろったら、それぞれの内容を比較します。すでに説明した通り、金額だけでなく提案の内容や実現可能性なども比較の対象となります。
見積書を比較して契約相手を決めたら、その結果をすべての参加企業に通知します。クレーム対策として、通知の順番は「選ばれなかった企業」を先にするのが一般的です。すべての企業へ通知したら、選定した企業と正式な契約を行います。
少額な案件に限られるものの、見積合わせは参加企業にとっても、発注者にとってもメリットの大きな契約手法です。企業側はできるだけ実績や信頼を積み上げておき、見積合わせの相手に選ばれるようにしましょう!
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