建設業法によると、建設工事の元請負人は下請負人に見積を依頼する際、一定の見積期間を設けることが義務づけられています。この記事では、見積期間の意味や目的、日数の具体的な数え方、そして見積依頼時に元請負人が明示する事項についてわかりやすく解説していきます。
建設業法には、建設業の基本となるさまざまなルールが規定されています。今回の記事で取り上げる「見積期間」もそのひとつです。まずは見積期間のルールがどのようなものか、なぜ法律によって決められているのかについて説明しましょう。
見積期間というのは、下請負人が見積を作成・交付するための期間です。
建設業法第20条第4項には、建設工事を発注する際のルールについてこのように規定されています。
建設工事の注文者は、請負契約の方法が随意契約による場合にあっては契約を締結するまでに、入札の方法により競争に付する場合にあっては入札を行うまでに、第19条第1項第1号及び第3号から第16号までに掲げる事項について、できる限り具体的な内容を提示し、かつ、当該提示から当該契約の締結又は入札までに、建設業者が当該建設工事の見積りをするために必要な政令で定める一定の期間を設けなければならない。 |
条文の後半にある通り、発注者(元請負人)は請負契約を締結するまでに「見積りをするために必要な政令で定める一定の期間」を設ける必要があります。
言いかえると、下請負人に対して「出来るだけ早く見積を出してほしい」と依頼したり、期間を定めずに見積依頼したりすることはルール違反です。
見積期間が定められている目的は、下請負人を保護し、それによって取引の適正化を図ることです。
仮に契約内容について十分に検討する時間が与えられない場合、下請負人は元請負人に言われるまま、自社にとって不利な条件で見積書を作成してしまうかもしれません。
元請負人と下請負人の双方が納得できる見積を作成するには、余裕を持った検討期間が必要です。
見積期間の意味と目的がわかったところで、次に具体的な見積期間と、期間(日数)の数え方を見ていきましょう。
先ほど引用した建設業法第20条第4項には「見積りをするために必要な政令で定める一定の期間」とあります。ここでいう政令とは「建設業法施行令第6条」のことです。そこにはこのように書かれています。
法第20条第4項に規定する見積期間は、次に掲げるとおりとする。ただし、やむを得ない事情があるときは、第2号及び第3号の期間は、5日以内に限り短縮することができる。 1 工事1件の予定価格が500万円に満たない工事については、1日以上 2 工事1件の予定価格が500円以上5,000万円に満たない工事については、10日以上 3 工事1件の予定価格が5,000万円以上の工事については、15日以上 |
1号〜3号によると、見積期間は「工事1件の予定価格」に応じて3パターンに分けられます。
工事1件の予定価格 | 見積期間 | |
---|---|---|
1号 | 500万円未満 | 1日以上 |
2号 | 500万〜5,000万円未満 | 10日以上(やむを得ない事情があるときは5日以上) |
3号 | 5,000万円以上 | 15日以上(やむを得ない事情があるときは10日以上) |
一般に工事規模が大きくなるほど、見積の検討には時間がかかります。見積期間の長さが予定価格の大きさに比例しているのは、そのためです。
なお建設業法施行令第6条の見積期間は最低基準なので、これより長い期間を設定する分には問題ありません。建設業法令遵守ガイドライン(第9版)によれば、「元請負人は下請負人に対し十分な見積期間を設けることが望ましい」とされています。
見積期間の日数には「見積依頼日」と「見積提出日」が含まれません。
たとえば300万円の工事を4月1日に依頼した場合、翌日の4月2日を「1日目」と数えます。下請負人が元請負人に見積書を提出するのは、さらにその翌日の4月3日です。
例1:300万円の工事の場合
見積期間に土日などの休業日が含まれる場合、それらの日は見積期間に含めなくても問題ありません。
たとえば1,000万円の工事を4月1日に依頼した場合を考えてみましょう。上で説明した例と同じく、見積期間のカウントは4月2日から始まります。単純に計算すれば4月11日が10日目です。ただし、その10日間のなかに土日が1回挟まる場合は4月13日を10日目と数えることができます。
例2:1,000万円の工事の場合(土日が各1日ずつの場合)
建設業法施行令第6条によると、「やむを得ない事情があるとき」は見積期間の短縮が可能です。具体的には、500万〜5,000万円未満の工事と5,000万円以上の工事は、5日以内に限り短縮できます。
ただし「やむを得ない事情」の具体的な基準は挙げられていません。あくまでケースごとに個別に判断することになります。少なくとも、明確な理由もないのに見積期間を短縮することは許されません。
見積を作成するには、あらかじめ下請契約の具体的な内容を決めておく必要があります。この「具体的な内容」についても、建設業法のなかでしっかり指定されています。
ここでは建設業法令遵守ガイドライン(第9版)をもとに、工事内容について元請負人が最低限明示すべき事項を紹介します。
① 工事名称
② 施工場所
③ 設計図書(数量等を含む)
④ 下請工事の責任施工範囲
⑤ 下請工事の工程及び下請工事を含む工事の全体工程
⑥ 見積条件及び他工種との関係部位、特殊部分に関する事項
⑦ 施工環境、施工制約に関する事項
⑧ 材料費、労働災害防止対策、建設副産物(建設発生土等の再生資源及び産業廃棄物)の運搬及び処理に係る元請下請間の費用負担区分に関する事項
上で挙げた各事項について、具体的な内容を示さないまま見積を要求するのは原則として建設業法違反です。もし見積依頼時に具体的な内容が確定していないなら、元請負人はその旨を明確に伝える必要があります。
また工事を行う場所の地盤や土壌に問題がある場合や、騒音・振動などについて配慮が必要な場合は、それらの情報も提供しなければなりません。
最後に、下請負人に求められる「見積の内訳」について説明しましょう。建設業法第20条第1項には次のように書かれています。
建設業者は、建設工事の請負契約を締結するに際して、工事内容に応じ、工事の種別ごとの材料費、労務費その他の経費の内訳並びに工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を明らかにして、建設工事の見積りを行うよう努めなければならない。 |
この条文のとおり、下請負人が見積書を作成・提出する際は「工事の種別ごとの材料費、労務費その他の経費の内訳」を明らかにする必要があります。
なお「その他の経費」には、法定福利費、労働災害防止対策や建設副産物の適正処理にかかる費用も含まれます。
建設業法の見積期間は、下請負人の保護や取引の適正化を目的としたルールです。すべての建設事業者が見積期間の知識を身に付け、それを守ることは、建設工事をスムーズに進めるうえで欠かせません。建設業界全体の健全な発展のためにも、建設業法について積極的に理解していきましょう。