建設業界では、プロジェクトの効率化やコスト削減が常に求められています。そんな中、注目を集めているのが「設計施工一括発注方式(DB方式)」です。従来の「設計施工分離発注」とは異なり、設計と施工を一括して一つの業者に委託するこの方式は、発注者と受注者の双方にメリットをもたらす可能性を秘めています。
本記事では、DB方式の基本から、他の発注方式との違い、メリット・デメリット、そして具体的な導入事例まで、わかりやすく解説していきます。
設計施工一括発注方式(DB方式)とは、その名の通り、建設プロジェクトの設計と施工を一括して一つの業者(ゼネコンなど)に発注する方式です。従来の設計施工分離発注方式では、設計と施工が別々の業者によって行われていますが、DB方式ではこれを一体化することにより、プロジェクト全体の効率化やコスト削減を目指します。
公共事業において、DB方式はPPP(Public Private Partnership:官民連携)の一種です。また設計・施工だけでなく、その後の施設運営までを委託するDBO(Design Build Operate)方式も存在し、近年ではこうした包括的な事業形態も注目を集めています。
DB方式では、事業者を選定する際に技術力や実績、提案内容などを総合的に評価するプロポーザル方式を採用するのが一般的です。より優れた提案を行う業者に発注することで、プロジェクトの成功確率を高めることができます。
DB方式に注目が集まる背景には、建設業界を取り巻く様々な課題、たとえば深刻化する建設業界の人手不足や、大規模な再開発に伴う建設ラッシュ、そして災害復旧のニーズなどがあります。工程の短縮やコスト削減、そして品質向上にもつながると期待されるDB方式は、今後ますます導入が進んでいくことでしょう。
DB方式の特徴は、従来の設計施工分離発注方式とは大きく異なります。ここでは発注方式の種類から、DB方式と他の発注方式との違いまで解説していきます。
設計施工の発注方法は、大きく「仕様発注」と「性能発注」に分けられます。
このうち、DB方式が分類されるのは後者(性能発注)です。発注者は求める建物の性能や機能を提示し、それを実現するための設計・施工を一括して業者に委ねます。これにより、業者の技術力やノウハウを最大限に活かした、より良い建物が生まれることを期待できます。
設計施工分離発注方式は、設計と施工を別々の業者に発注する方式です。設計は設計事務所、施工はゼネコンなどが担当します。専門性の高い設計と施工をそれぞれ専門業者に委託できるため、高い品質を期待できる点が強みです。
一方、DB方式は設計・施工を一括発注するため、工程間の連携がスムーズになり、工期短縮やコスト削減につながる可能性があります。
引用:国土交通省|DB(設計施工一括発注方式)を導入した経緯と取組
ECI(Early Contractor Involvement)方式とは、設計の初期段階から施工者を参画させる方式です。施工者の技術力やノウハウを設計に活かすことで、コスト削減や工期短縮、品質向上などを目指します。
ECI方式とDB方式は設計段階から施工者が関与する点で共通していますが、DB方式は設計・施工を一括契約するのに対し、ECI方式は設計段階と施工段階で別々に契約します。またDB方式は施工者の責任範囲が設計段階から発生するのに対し、ECI方式は限定的(施工段階のみ)という点も大きな違いです。
DB方式の採用は、発注者と施工者のそれぞれにメリットがあります。ここでは、それぞれの立場から見たメリットについて詳しく見ていきましょう。
DB方式を採用することで、発注者は以下のようなメリットを得られます。
設計と施工の窓口を一本化することで、発注者側の調整業務が大幅に軽減されます。
従来の設計施工分離発注方式では、設計者と施工者の間で調整が必要となる場面が多く、発注者側の負担が大きくなりがちでした。DB方式では設計者と施工者が同一であるため、発注者はプロジェクト全体の管理に集中することができます。
設計と施工が一体化することで、効率化によるコストの縮減と工期の短縮を期待できます。
設計と施工の発注先が異なる設計施工分離発注方式では、設計変更に伴う手戻りや、工程間の連携不足による遅延といったリスクが付きものです。これに対しDB方式では、設計段階からコストや工期を意識した提案を行えるため、より効率的なプロジェクト遂行が期待できます。
なにか問題が発生した場合に、スムーズなトラブル対応が可能になる点もDB方式のメリットです。
従来の設計施工分離発注方式では、問題発生時に責任の所在が曖昧なことが多く、対応が遅れるケースが少なくありません。これに対しDB方式では設計・施工の責任が一元化されるため、問題が発生した場合でも責任の所在が明確で、迅速な対応が可能となります。
DB方式は、施工者にとっても以下のようなメリットがあります。
施工者が設計段階からプロジェクトに参画することで、自社の技術力やノウハウを活かした提案を行い、より付加価値の高いものを提供することができます。また、設計変更のリスクを最小限に抑えることも可能です。
発注者と密接に連携することで信頼関係を構築し、長期的な受注機会獲得につながる可能性があります。また、プロジェクトを通じて得られた経験やノウハウは、今後の事業展開にも活かすことができます。
DB方式の有効活用には、デメリットについて知ることも欠かせません。DB方式を導入する際にはこれらのデメリットを十分に理解し、対策を講じることが重要です。
まず発注者側にとってのデメリットとしては、以下のようなものが考えられます。
設計が完了していない段階で施工者を選定するため、初期段階での正確なコスト把握が困難です。予算超過のリスクがあるため、予算管理には特に注意が必要でしょう。
一括発注となるDB方式では複数の業者による競争が起きにくく、これがコスト増加や技術革新の停滞につながる可能性も否定できません。発注者としては、透明性の高い選定プロセスを確保し、適切な契約条件を設定することが重要となります。
設計・施工を一括して委託するため施工者への依存度が高くなり、発注者側の裁量が制限される可能性があります。そのため施工者との信頼関係の構築や、適切なコミュニケーションが不可欠です。また、施工者の技術力や経験を見極める能力も求められます。
次に、施工者側の主なデメリットとしては以下が挙げられます。
発注者からの設計変更が頻繁に発生するプロジェクトでは、コスト増加や工期遅延など施工者側の負担が大きくなる可能性があります。このため契約の段階で、設計変更に関する取り決めを明確にしておくことが重要です。
設計・施工を一括して請け負うため、高い技術力・設計力に加え、プロジェクトマネジメント能力も求められます。また、設計変更や予期せぬ事態にも柔軟に対応できる能力が必要です。DB方式を受注するためには、これらの能力を備え、発注者からの信頼を得ることが重要となります。
DB方式のメリットを最大限に引き出し、デメリットを軽減するためには、CM(コンストラクション・マネジメント)方式の導入が有効です。CM方式とは、発注者の代理人または補助者として、専門的な知識や経験を持つコンストラクション・マネージャー(CMR)がプロジェクト全体のマネジメントを行う方式です。
CMRは、プロジェクトの各段階において、以下の役割を果たします。
CM方式とDB方式を組み合わせることで、以下のようなメリットが期待できます。
このようにCM方式を導入することで、DB方式のメリットを最大限に活かしつつデメリットを軽減し、プロジェクトの成功確率を高めることができます。特に大規模で複雑なプロジェクトや、発注者側のノウハウが不足している場合などには、CM方式の導入が効果的です。
DB方式は、大規模な公共事業でもその効果を発揮してきました。ここでは、具体的な事例をいくつか紹介します。
「基本設計から竣工まで2年」という制約のもと、プロジェクトにDB方式を導入。従来の設計施工分離発注と比較して工期の大幅な短縮に成功し、2019年4月14日に開庁しました。
旧庁舎を東京五輪の拠点施設とするため、「2020年6月末までに開庁」という制約のもとDB方式を導入。施工における品質管理と、発注段階からのコスト管理を徹底することで性能発注方式のリスクを克服し、2020年1月に竣工しています。
塩害により劣化した鉄筋コンクリート床版の交換工事について、「対面通行規制期間の短縮に関する技術的提案」を広く募集するためDB方式を採用。床版撤去から新規床版設置まで30日で施工し、工期の短縮を実現しました。
今回の記事では、DB方式の内容やメリット・デメリットについて説明しました。DB方式は、すでに多くの公共事業や民間プロジェクトで導入され、その効果を発揮しています。今後も建設業界におけるDB方式の導入はさらに拡大し、業界の活性化に貢献していくことでしょう。