公共工事において、工事費の積算に欠かせない「公共工事設計労務単価」。設計労務単価は建設労働者の賃金単価を表す数字で、農林水産省と国土交通省が毎年実施する公共事業労務費調査によって決定されます。
この記事では、設計労務単価が決まる仕組みや最新(令和2年3月以降)の設計労務単価について説明していきます。
公共工事設計労務単価(以下、設計労務単価)とは、公共工事における「建設労働者の賃金単価」のことです。設計労務単価は工事費を積算する際の基礎となるため、公共工事に参加するすべての会社にとって重要な指標といえます。
設計労務単価の基準となるのは、農林水産省と国土交通省が実施する「公共事業労務費調査」です。
公共事業労務費調査から設計労務単価の決定までの大まかな流れは以下の通りです。
なお調査対象となる公共工事は、農林水産省と国土交通省、独立行政法人や事業団、都道府県、政令指定都市などが所管する公共工事です。
また調査対象となる職種は、以下に挙げる51種類です。
特殊作業員 | さく岩工 | 左官 |
普通作業員 | トンネル特殊工 | 配管工 |
軽作業員 | トンネル作業員 | はつり工 |
造園工 | トンネル世話役 | 防水工 |
法面工 | 橋りょう特殊工 | 板金工 |
とび工 | 橋りょう塗装工 | タイル工 |
石工 | 橋りょう世話役 | サッシ工 |
ブロック工 | 土木一般世話役 | 屋根ふき工 |
電工 | 高級船員 | 内装工 |
鉄筋工 | 普通船員 | ガラス工 |
鉄骨工 | 潜水士 | 建具工 |
塗装工 | 潜水連絡員 | ダクト工 |
溶接工 | 潜水送気員 | 保温工 |
運転手(特殊) | 山林砂防工 | 建築ブロック工 |
運転手(一般) | 軌道工 | 設備機械工 |
潜かん工 | 型わく工 | 交通誘導警備員A |
潜かん世話役 | 大工 | 交通誘導警備員B |
公共事業労務費調査は原則として、調査会場で書類を提出し、対面で聞き取りを行う「会場調査」によって行われます。しかし令和2年度は新型コロナ対策の一環として、例外的に書類の送付と電話での聞き取りによる「書面調査」が実施されました。
(参考:「公共事業労務費調査(令和2年10月調査)のご案内」)
設計労務単価には、建設労働者が受け取る「所定内労働時間8時間あたりの日額」に加えて「労働者個人が負担する法定福利費相当額」も含まれています。
これに対し「事業主が負担する法定福利費相当額」や「労務管理費」「現場作業にかかる安全管理費」など、事業主が支払う人件費は含まれていません。
このため工事を下請け業者に発注する際などに、下請代金に必要経費分を計上しなかったり、下請代金から必要経費を値引くことは不当行為とされています。
ここでは最新の設計労務単価について、国土交通省が公開している「令和2年3月から適用する公共工事設計労務単価について」から説明します。
設計労務単価を決定するポイントは社会情勢や政策によって変化します。たとえば建設投資の減少(建設労働者の需要が減少)にあわせて労務単価を引き下げたり、社会保険の加入を徹底させるために法定福利費相当額を上乗せしたり(労務単価の引き上げ)、といった具合です。
令和2年3月から適用される設計労務単価のポイントは、以下の3つです。
特に②のポイントは平成25年度から導入されており、この結果、平成25年度から一貫して設計労務単価の上昇傾向が続いています。
令和2年3月から適用される新しい設計労務単価は、全国平均で「20,214円」です。設計労務単価が2万円の大台に乗るのは今回が初めてで、前年(平成31年/令和元年)と比較して2.5%、上昇傾向が始まる前の平成24年度と比較すると51.7%もの上昇となります。
なお被災3県(岩手県、宮城県、福島県)の設計労務単価は平均で「21,966円」となり、これは前年比2.9%増、平成24年度との比較で68.8%の増加です。
ここでは「東京都」の設計労務単価と、東京都が独自に設定している「設計材料単価」について説明します。
令和2年3月から適用される東京都の設計労務単価は、以下の通りです。
「タイル工」などいくつかの職種ではデータ不足のために設計労務単価が設定されていないものの、それでも以下のように、多くの職種が全国平均と比較して2,000〜3,000円ほど高く設定されています。
職種(一例) | 全国平均 | 東京都 |
---|---|---|
特殊作業員 | 22,137円 | 24,600円 |
普通作業員 | 18,895円 | 21,500円 |
大工 | 23,315円 | 25,600円 |
左官 | 24,202円 | 27,700円 |
なお東京都の設計労務単価は、東京都財務局のサイト「東京都工事設計単価表について」で公開されているほか、
でも閲覧できます。
東京都では、設計労務単価と一緒に「設計材料単価」を公開しています。これは東京都が物価調査機関に委託して独自に調査し、市場の実勢取引価格をもとに設定しているものです。
具体的には公共工事に使われる「共通資材」のほか「建設資材」「港湾資材」「水道資材」「下水道資材」「建築資材」について、工事費の積算基準となる単価を設定しています。
東京都の設計材料単価も、設計労務単価と同じく東京都財務局のサイト「東京都工事設計単価表について」からと、
で閲覧できます。
今回の記事では「設計労務単価」制度について、制度の目的と仕組み、そして最新(令和2年3月〜)の設計労務単価のポイントについて説明しました。特に東京都の設計労務単価についてピックアップしましたが、他の地域の設計労務単価も、それぞれの自治体のサイトなどから閲覧できます。公共工事の入札を検討する際は、ぜひ参考にしてください。