「官公需適格組合」は中小企業の味方?制度の概要とメリット・デメリットについて解説

中小企業者のために設けられた「官公需適格組合」制度。要件を満たす組合に中小企業庁の証明を与えて、小規模な事業者にも官公庁と契約するチャンスを広げるのが狙いです。

この記事では官公需適格組合の概要をはじめ、制度のメリット・デメリット、契約の流れなどについてわかりやすく解説していきます。

官公需適格組合とは

官公需適格組合とは、一定要件を満たす事業協同組合などを中小企業庁(経済産業局長)が「証明」する制度です。

証明を受けた組合は官公庁の入札案件で優遇されるため、そこに加入する中小企業にとっては、公共工事や調達案件などを受注する大きなチャンスとなります。

「官公需」について

そもそも官公需適格組合の「官公需」とは、国や独立行政法人、地方自治体などが発注する物品・役務の調達や工事のことです。官公需の契約は一般競争契約をはじめ、指名競争入札や随意契約などの形式を経由して結ばれます。

官公需と中小企業について

官公需の発注に関連して、国は中小企業の振興・発展を促進するために以下のような制度を設けています。

中小企業基本法

中小企業の振興・支援策についての理念や方針を定めた法律です。たとえば国の発注案件については、次のように規定されています。

第23条 国は、中小企業が供給する物品、役務等に対する需要の増進に資するため、国等の物品、役務等の調達に関し、中小企業者の受注の機会の増大その他の必要な施策を講ずるものとする。

官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律(官公需法)

中小企業基本法の方針を発展させて、国に対してはより具体的な取り組みを、地方公共団体に対しては国に準じた努力義務を定めた法律です。

第3条 国等は、国等を当事者の一方とする契約で国等以外の者のする工事の完成もしくは作業その他の役務の給付または物件の納入に対し国等が対価の支払をすべきものを締結するに当たっては、予算の適正な使用に留意しつつ、新規中小企業者をはじめとする中小企業者の受注の機会の増大を図るように努めなければならない。この場合においては、新規中小企業者及び組合を国等の契約の相手方として活用するように配慮しなければならない。
第4条 国は、毎年度、国等の契約に関し、国等の当該年度の予算及び事務又は事業の予定等を勘案して、中小企業者の受注の機会の増大を図るための基本的な方針(以下「基本方針」という。)を作成するものとする。
第8条 地方公共団体は、国の施策に準じて、中小企業者の受注の機会を確保するために必要な施策を講ずるように努めなければならない。

中小企業者に関する国等の契約の方針

官公需法に基づき、官公需における中小企業との契約目標や中小企業の受注機会を増大する措置事項について定めた基本方針です。

毎年10月頃に閣議決定され、経済産業省のニュースリリースや中小企業庁HP「官公需施策」で公表されます。

官公需適格組合証明制度

官公需法や国の基本方針に基づく制度です。個々の中小企業では受注が難しい発注案件を組合の共同事業として受注するため、「受注体制が確立している組合」であることを中小企業庁が証明します。

官公需適格組合証明基準

組合が官公需適格組合の証明を受けるには、以下の「官公需適格組合証明基準」を満たす必要があります。

対象となる組合

中小企業が加入する事業協同組合・事業協同小組合・協同組合連合会・商工組合・商工組合連合会・商店街振興組合・商店街振興組合連合会、および企業組合・協業組合で、設立後1年以上のもの。

ただし、

  • 共同受注する事業について必要な許可・認可・登録・届出を受けていない(行っていない)組合
  • 大企業や実質的に大企業の支配を受けている中小企業が構成員の3分の1以上を占めている組合
  • 証明の取り消しを受けてから2年を経過していない組合

は対象となりません。

「物品」・「役務」関係の証明基準 

  1. 共同事業が、組合員の協調裡に円滑に行われていること。 
  2. 官公需の受注について熱心な指導者がいること。
  3. 常勤役職員が1名以上いること。 
  4. 共同受注担当役員及び共同受注委員会が設置され、かつ適正な運営が行われていること。
  5. 共同受注した案件に関し役員と担当組合員が連帯して責任を負うこと。 
  6. 検査員を置くなど検査体制が確立されていること。 
  7. 組合運営を円滑に行うに足りる経常的収入があること。

といった証明基準を満たす必要があります。

「工事」関係の証明基準 

「物品」・「役務」関係の証明基準に加えて、

  1. 共同受注事業を1年以上行っており、相当程度の受注実績があること。
  2. 工事1件の請負代金の額が3,500万円以上の物件を受注しようとする組合は、常勤役職員が2名以上おり、当該役職員のうち1名が技術者であること(標記金額未満の場合は、常勤役職員1名以上)。
  3. 組合専従技術者が工事を監理・監督・指導等をするとともに、総合的な企画及び調整を行う企画・調整委員会が現場ごとに設置され、工事全体が契約どおり施工される体制が整備されていること(工事1件の請負代金の額が3,500万円以上の物件を受注しようとする組合のみ)。

を満たす必要があります。

なお証明の有効期間は2年間で、期間の満了時に更新申請が可能です。

官公需適格組合の役割

官公需適格組合は「共同受注規約」の作成と「共同受注委員会」の設置により、組合員が発注者の信頼に十分応えるための体制(仕事の分担や連帯責任体制)を整えます。

また受注した案件で万一事故などがあった場合に備え、組合の役員が連帯して保証を行います。

加えて、組合員の技術力を向上させるための指導・支援、受注した工事などが適切に行われているかどうかのチェックなども官公需適格組合の役割です。

官公需適格組合への加入方法

中小企業が官公需適格組合に加入するためには、各組合が独自に用意した審査基準を満たす必要があります。

具体的な審査基準や加入審査の手順は組合ごとに違うため、加入を希望する組合に直接確認してください。

官公需適格組合のメリット・デメリット

官公需適格組合への加入は中小企業にとって大きなメリットがある反面、加入によるデメリットはそれほどありません。

メリット

加入による最大のメリットは、これまで単独では参加できなかった大規模な案件にも参加できるようになることです。

受注後は原則として他の組合員と共同もしくは分担で仕事を行うため、単独で受注するより心強いというメリットもあります。

なお官公需適格組合の証明を受ける組合は、いずれも各種法定手続きを経て設立認可された団体です。内部統制の仕組みがしっかり作られているうえ、必要があれば国や都道府県の指導監督も入るため安心して加入できるでしょう。

デメリット

加入によるデメリットはそれほどありません。強いて挙げるとすれば、加入審査に多少の手間がかかること、そして加入時の出資金や毎月の分担費用が発生することくらいです。なお具体的な審査手順や費用は組合ごとに異なります。

官公需適格組合の成果事例

官公需適格組合の証明を受けている組合は、現時点(令和3年6月30日現在)で897件です。※中小企業庁HP「官公需適格組合名簿」より

ここでは全国中小企業団体中央会「令和元年度官公需受注促進事業報告書」に掲載されている組合の「官公需共同受注に向けた工夫と成果」から、関東エリアのものを一部引用します。

 栃木県北建設業協同組合

組合員建設業者
官公需共同受注に向けた工夫と成果共同受注委員会で行う業務配分は、那須地域を9つに分け各地域のリーダーが中心となり組合員の立地、実績、得意業務等を加味し決定している。
役員及び事務局職員が受注拡大に向け、官公需適格組合のPRや行政との意見交換、組合員向けの技術・安全講習等を通じての品質向上及び現場環境の改善に取り組んでおり、これまで国・県から継続的に業務を受注し、トラブルもなく順調に実績を重ねている。
また、高い完成度を要求される官公需に取り組むこと自体が、必然的に組合と各組合員が協調・団結して工期の厳守や品質向上に努めることとなり、結果的に業界・組合の信用向上にもつながっている。

 千葉県測量設計補償協同組合

組合員測量業・補償コンサルタント業・測量コンサルタント業および地質調査を行う事業者
官公需共同受注に向けた工夫と成果公共事業費の削減や入札契約制度改革が進む中で、組合の共同受注事業を推進するために道路情報管理事業以外にも業務領域を拡大し、新たな受注業務の確保に努めてきた。
現在は、県の道路台帳関連業務及び河川台帳関連業務を組合員が受注できるように組合で営業・要望活動を実施するほか、組合員が受注した業務に関し組合が品質管理や業務支援システムによる業務管理支援を行うという形で共同受注事業を推進している。

 都市再生調査事業協同組合

組合員東京都杉並区内に事業所がある測量業者
官公需共同受注に向けた工夫と成果東京都杉並区では地理データの整備が進んでいるため、新たな受注に向けて、航空写真の三次元化やドローンによる被災現場撮影体制の整備、車載レーザスキャナの導入等、新技術の活用に積極的に取り組んでいる。
例えばドローンを自動で飛ばす実験や遠隔操作の実験、AR・VR技術との融合等、技術研鑽を重ねることで、杉並区との連携強化や新たな提案につながると考えている。
組合の運営面は、技術委員会を毎月開催し、効率的な作業体制や工程の調整を行っているほか、委員会や理事会等を高い頻度で開催している。
組合事業には組合員が関わることを徹底しており、組合員一丸となって組合の発展に向けて取り組んでいる。

 神奈川県住宅保全協同組合

組合員かながわ電子入札システムの入札参加資格を持ち、建設工事業の資格を有する事業者、建物サービス業の資格を有する事業者
官公需共同受注に向けた工夫と成果共同受注等の委員会活動の他に業種ごとの部会活動が活発であり、そうした雰囲気作りを組合が行うことで、貴重な情報交換の場となっている。
部会には事業主だけでなく後継者の参加も多く、世代が変わっても組合に愛着を感じており、相互扶助の精神が根付いている。組合員の事業承継が円滑に進んでいることも安定した共同受注業務の遂行に寄与している。

官公需適格組合の受注の流れ

官公需適格組合として案件を受注する手順は、一般的な入札の場合とそれほど変わりません。ここではおおまかな流れを説明します。

入札案件情報の入手する

入札を行うには情報収集が欠かせません。入札案件は発注者ごとに公示されますが、中小企業庁が運営する「官公需情報ポータルサイト」を利用すれば全国の官公需情報を効率的に収集できます。

入札参加資格を登録する

実際に入札に参加するには、発注者に「一般競争参加資格審査申請書」を提出して、入札参加資格を登録する必要があります。申請に必要な申請書や添付書類など、手続きについての詳細は国や自治体の官公需相談窓口で確認すると良いでしょう。

まとめ

官公需適格組合は中小企業にとって、単独では受注できないような入札案件に参加できるチャンスです。これまで入札に参加した経験がほとんどない事業者も、組合員として案件を受注することで経験を積むことができます。自社が参加できそうな官公需適格組合が見つかったら、ぜひ加入を検討してみてはいかがでしょうか。

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