入札談合とは?禁止される理由やペナルティについても解説

ニュースなどでときおり耳にする「入札談合」という言葉。入札談合は法律に違反するだけでなく、その後の経営にも大きな悪影響を与える行為です。

この記事では入札談合がなぜ禁止されているのか、入札談合をすることで具体的にどのようなペナルティを受けることになるのか、わかりやすく解説していきます。

入札談合とは?

「入札談合」とは入札時に行われる談合行為です。談合には「話し合い」という意味もありますが、この入札談合はただの話し合いではありません。

本来であれば公正に競争すべき事業者同士が事前に、秘密裏に相談して、あらかじめ受注する企業や受注金額を決めてしまうことを指しています。

なお事業者同士だけでなく、発注側の公務員が談合に参加する「入札談合関与行為(官製談合)」も入札談合の一種です。

入札談合が「悪質」な理由

スムーズな落札に向けて事前に話し合うことは、一見すると良いこと(少なくとも悪いことではない)ように思えるかもしれません。しかし実際のところ、入札談合は公正な競争を妨げ、税金の無駄づかいにつながる悪質な行為です。

そもそも入札談合は「確実に落札する・できるだけ高額で落札する」ために行われます。そのために落札者を「持ち回り」で決め、発注者が決めた最低落札価格よりも「大幅に上乗せした金額」で入札するように取り決めるのです。

結果として事業者同士が入札で競う必要がなくなり、技術向上やコストの削減といった経営努力へのモチベーションも失われます。本来の入札より落札額が高くなるため、税金もそれだけ余分に使われることになります。

このように入札談合は業界の発展を妨害し、公共のメリットを損なう非常に悪質なルール違反行為なのです。

入札談合は刑法で規制される

入札談合は単なるルール違反ではなく、刑法に規定された犯罪行為です。

刑法 第96条(公契約関係競売等妨害)
第1項 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第2項 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。

第1項については後ほどの「官製談合」で説明しますが、続く第2項が「談合罪」に関する規定です。この談合罪は事業者同士が「話し合いをした」時点で成立し、談合に参加した事業者が実際に行動を起こしたかどうかは関係ないとされています。

談合罪の罰則は、3年以下の懲役か250万円以下の罰金、またはその両方です。

入札談合は独占禁止法でも規制される

入札談合は、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)でも禁止されています。

独占禁止法 第2条第6項
この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
独占禁止法 第3条
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

第2条 第6項にある「不当な取引制限」とは入札談合のことで、さらに第3条ではっきりと禁止されています。ただし「不当な取引制限」の成立には話し合い(意思の連絡)だけでなく「共同実行」も必要とされている点が、刑法の談合罪との違いです。

なお入札談合だけに適用されるものではありませんが、次のような条文もあります。

独占禁止法 第45条
何人も、この法律の規定に違反する事実があると思料するときは、公正取引委員会に対し、その事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができる。

もし誰かが入札談合に気付いた場合、それが「何人」つまり他の事業者であっても一般人であっても、その談合について公正取引委員会に通報できます。

入札談合が「不当な取引制限」と認められた場合の罰則は次の通りです。

独占禁止法 第89条
次の各号のいずれかに該当するものは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
一 第三条の規定に違反して私的独占又は不当な取引制限をした者
独占禁止法 第95条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。
一 第八十九条 五億円以下の罰金刑

独占禁止法による罰則は5年以下の懲役か500万円以下の罰金のいずれかで、刑法の罰則より期間も金額も厳しくなっています。

また「両罰規定」により、法人に対して5億円という巨額の罰金が科されるのも特徴です。

入札談合に時効はある?

入札談合を行ったものの何らかの理由で起訴されなかった場合には、5年で控訴時効が成立します。

とはいえ時効が成立したからといって、過去に談合をした事実は消えません。談合が発覚したことで会社の評判が傷ついた場合、その傷は控訴時効よりも長いあいだ会社にダメージを与え続けるかもしれません。

入札談合関与行為(官製談合)について

ここまで説明した入札談合は主に事業者同士のものでしたが、発注側の公務員による入札談合関与行為、つまり官製談合も法律によって厳しく取り締まられます。

本来であれば住民のために働く公務員が業界の発展を妨害したり、住民のメリットを損なうわけですから、これは当然のことです。

官製談合防止法(入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律)によると、官製談合には次の4つのパターンがあります。

官製談合防止法 第2条第5項
この法律において「入札談合等関与行為」とは、国若しくは地方公共団体の職員又は特定法人の役員若しくは職員(以下「職員」という。)が入札談合等に関与する行為であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 事業者又は事業者団体に入札談合等を行わせること。
二 契約の相手方となるべき者をあらかじめ指名することその他特定の者を契約の相手方となるべき者として希望する旨の意向をあらかじめ教示し、又は示唆すること。
三 入札又は契約に関する情報のうち特定の事業者又は事業者団体が知ることによりこれらの者が入札談合等を行うことが容易となる情報であって秘密として管理されているものを、特定の者に対して教示し、又は示唆すること。
四 特定の入札談合等に関し、事業者、事業者団体その他の者の明示若しくは黙示の依頼を受け、又はこれらの者に自ら働きかけ、かつ、当該入札談合等を容易にする目的で、職務に反し、入札に参加する者として特定の者を指名し、又はその他の方法により、入札談合等を幇ほう助すること。

第1号は事業者に談合を行わせる「談合の指示」

第2項は入札前に受注者を指名したり希望する業者について伝える「意向の表明」

第3項はあらかじめ入札価格や参加する事業者の情報をリークする「秘密情報の漏洩」

第4項は依頼を受けて特定の事業者を入札参加者に指名する「談合の幇助」です。

これらの犯罪を犯した公務員には、5年以下の懲役または250万円以下の罰金が科されます。

第8条
職員が、その所属する国等が入札等により行う売買、貸借、請負その他の契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他の者に談合を唆すこと、事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは、五年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金に処する。

加えて、先ほど引用した刑法の「公契約関係競売等妨害(96条)」も官製談合に適用されます。

刑法第96条第1項
偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

ここにある「偽計」には、入札に関する情報(最低価格など)を事業者にリークする行為が含まれるとされています。

入札談合にはどのようなものがある?

過去に行われた入札談合には、被害を受けた発注機関や談合の対象となる入札案件などさまざまなパターンがあります。

入札談合の被害を受ける発注機関

まず被害を受ける可能性があるのは、競争入札を実施するすべての発注機関です。具体的には、

  • 国や自治体
  • 地方公共団体の教育委員会
  • 国公立病院や地方公共団体が設置している特別養護老人ホーム
  • 地方公共団体の出資している公社
  • 独立行政法人

など、あらゆる行政機関や公的施設、行政が出資する法人が含まれます。

入札談合の対対象と案件

入札談合の対象となる案件も公共工事に限りません。業務や物品など、入札談合はさまざまな分野で発生する可能性があります(以下「入札談合等関与行為防止法について」リーフレットより引用)。

業務の例・建築物の清掃等の衛生管理業務
・ごみ焼却施設に係るダイオキシン類測定分析業務
・国立病院等の受付業務等の特定医事業務
・建設コンサルタント業務
・国立病院等における臨床検体検査業務
・建設資材の実例価格の調査業務
・水又は土壌の環境測定分析業務
・林道調査測量設計業務
・車両の運転等の車両管理業務
・浄水場の排水処理施設運転管理作業
物品の例・国民年金等の支払通知書等貼付用シール
・地方公共団体等が発注する贈答品、被服、防災品等
・国立大学等が発注する医療用エックス線フィルム
・下水処理場向け低食塩次亜塩素酸ソーダ
・学校向け理科教材・郵便番号自動読取区分機類
・医療用エックス線装置に係る検診車
・地方公共団体が売却する溶融メタル等
・机、いす、収納家具(ロッカー,書庫等)等の什器類
・消防救急デジタル無線機器・個人防護具
・特定活性炭・警察官用制服類

近年の入札談合事例

実際に公正取引委員会から「排除措置命令及び課徴金納付命令等」が出された入札談合の事例について、最近のものをいくつか紹介します。

事例1

タイトル山形県が発注する警察官用制服類の入札等の参加業者に対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について
命令発布日令和2年6月11日
発注者山形県
入札内容物品(警察官用制服類)
違反事業者5社
命令内容3社に排除措置命令、1社に課徴金納付命令(141万円)
引用元URLhttps://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/jun/200611.html

事例2

タイトル東日本地区又は近畿地区に所在する地方公共団体が発注する活性炭の販売業者に対する排除措置命令及び課徴金納付命令について
命令発布日令和元年11月22日
発注者東日本地区に所在する地方公共団体(55団体)と特定浄水場等(126施設)
入札内容物品(定活性炭、特定粒状活性炭)
違反事業者特定活性炭:16社特定粒状活性炭:11社
命令内容特定活性炭:12社に排除措置命令、11社に課徴金納付命令(計3億2,927万円)特定粒状活性炭:8社に排除措置命令、8社に課徴金納付命令(計1億533万円)
引用元URLhttps://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/nov/191122_1.html

事例3

タイトル東京都が発注する浄水場の排水処理施設運転管理作業の見積り合わせ参加業者に対する排除措置命令及び課徴金納付命令,東京都に対する改善措置要求等について
命令発布日令和元年7月11日
発注者東京都
入札内容業務(東村山浄水場、玉川浄水場、小作浄水場、金町浄水場、三郷浄水場、朝霞浄水場及び三園浄水場の排水処理施設運転管理作業)
違反事業者4社
命令内容3社に排除措置命令と課徴金納付命令(計7,418万円)
引用元URLhttps://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/jul/190711.html

入札談合のペナルティ

入札談合に参加する事業者の動機は「契約が欲しい」「他の事業者もやっている」「業界から干されたくない」などです。

確かに古い風習が残っている地域などでは業界ぐるみで、慣例として入札談合を行っているケースも残っているかもしれません。しかしこれまで説明してきた通り「入札談合は犯罪」ですし、発覚すれば厳しい刑罰が科されます。

また国による刑罰の他にも、入札談合には以下のような、さまざまなペナルティが伴います。

監督行政庁からのペナルティ指示処分営業停止処分許可の取り消し
発注機関からのペナルティ指名停止違約金
その他のペナルティ信用失墜評判の下落(風評)

これらはペナルティはいずれも、事業者にとって深刻なものです。場合によっては数年以上、あるいは廃業するまでダメージを引きずる可能性もあります。

入札談合による一時的なメリットよりも長期的なデメリットをしっかり考えて、違反行為に手を染めないようにしてください。

関連記事:『指名停止になるとどうなる?処分の基準や公表の有無についてポイント解説

まとめ

競争入札が行われる限り入札談合の誘惑もなくなりません。しかし入札談合に参加し、それが発覚すれば、刑事罰や指名停止など深刻なペナルティを受けることになります。自社の安全のため、そして業界の発展と公共のメリットのために、公正な入札参加を心がけるようにしましょう。

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