一般競争入札と指名競争入札は、それぞれ代表的な入札形式として知られています。そのどちらにもメリットとデメリットがあるため、入札に参加する事業者はそれぞれの特徴をよく理解して、上手に使い分けなければなりません。
この記事では一般競争入札と指名競争入札の違いとメリット・デメリット、具体的な事例についてわかりやすく解説していきます。
一般競争入札と指名競争入札は、どちらも事業者同士が入札によって契約獲得を競う「競争入札」です。おおまかな仕組みはどちらも「入札書の提出→開札→落札者の決定→契約」という流れになっていて、入札金額やその他の条件を考慮して契約者が選ばれます。
とはいえ一般競争入札と指名競争入札は同じものではありません。それぞれに特徴があるうえ、契約の性質や目的によって使い分けられているため、特にこれから初めて入札に参加する事業者は
「自社が参加できるのはどちらか」
「自社にとって有利なのはどちらか?」
「自社の強みを出せるのはどちらか?」
といったことを事前にしっかり検討する必要があるでしょう。
ちなみに一般競争入札と指名競争入札は、国や地方公共団体といった官公庁が民間企業と交わす契約方式のごく一部です。法令(会計法、地方自治法など)によると、官公庁が民間企業と交わす契約方式には以下のものがあります。
区分 | 契約方式 |
---|---|
一般競争契約 | ①一般競争入札 |
②オープンカウンター(見積り) | |
指名競争契約 | ③指名競争入札 |
④公募型指名競争入札 | |
随意契約 | ⑤随意契約 |
⑥プロポーザル方式入札(企画競争入札) | |
⑦公募 |
今回の記事では①の「一般競争入札」と③の「指名競争入札」に特化して説明していきますが、それ以外の契約方式についてもこれまでの記事で取り上げていますので、ぜひ参考にしてください。
参考記事:
『代表的な入札方式をわかりやすく解説!特徴からメリット・デメリットまで』
『一般競争入札とは?他の入札との違いや流れ、落札のコツまで解説』
『特命随意契約とは?他の契約との違いや法令上の根拠、随意契約理由書について解説』
『指名競争入札とは?他の入札との違いや入札の流れ、具体的な入札案件の事例を紹介』
一般競争入札は、公共工事などの契約で広く利用される入札方式(契約方式)です。一般競争入札の手続きは以下の流れで行われます。
①発注内容の公告 → ②入札書の提出 → ③落札者の決定 → ④契約
一般競争入札に参加できるのは「不特定多数の事業者」です。
ただしどのような事業者でも無制限に参加できるというわけではなく、たとえば公共工事であれば「建設業許可を受けている」など一定の資格が必要です。
さらに地理的な条件、技術的な条件、同種工事の実績などが求められる一般競争入札もあり、これらは特に「制限付一般競争入札」と呼ばれます。
契約者に選ばれるのは入札で最も有利な条件を提示した事業者です。
「最も有利な条件」には二通りの判断方法があり、入札金額だけを評価するものを「価格競争方式」、入札金額に加えて他の要素(工事の安全性や環境への影響など)も含めて評価するものを「総合評価落札方式」と呼びます。
現在、一般競争入札を導入している官公庁は以下の通りです。
官公庁の種類 | 一般競争入札の導入状況 |
---|---|
19の国の機関 | すべて |
124の特殊法人 | すべて |
47都道府県 | すべて |
20の指定都市 | すべて |
1,721の市区町村 | 1,426団体(82.9%)※うち本格導入が1,263団体、試行導入が163団体 |
※令和3年5月21日発表の「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律に基づく入札・契約手続に関する実態調査の結果について」より
上の表の通り一般競争入札は入札方式の「主流」です。市区町村以外の官公庁では「すべて」、市区町村でも8割以上が一般競争入札を導入しており、実質的に「ほぼすべての官公庁」が採用しているといっても差し支えないでしょう(現在未導入の市区町村でも、一般競争入札を導入するところは年々増加しています)。
詳しくは『一般競争入札とは?他の入札との違いや流れ、落札のコツまで解説』をご覧ください。
指名競争入札とは、あらかじめ官公庁によって指定された事業者だけが入札に参加できる入札方式です。指名競争入札の手続きは以下の流れで行われます。
①資格審査 → ②事業者への通知→③入札書の提出 → ④落札者の決定 → ⑤契約
資格審査の基準(指名基準)はさまざまです。発注機関となる官公庁ごと、あるいは入札案件の種類ごとに基準が異なり、場合によっては事前に指名競争入札への参加申請書などを提出させるケースもあります。
いずれにしても、入札に参加できるのは官公庁から指名された事業者だけで、それ以外の不特定多数の事業者が自ら参加を希望することはできません(指名を受けた事業者が参加を辞退することは可能です)。
入札書の提出以降の流れは一般競争入札と同じで、基本的には入札で最も有利な条件を提示した事業者が落札者となり、発注者と契約を結びます。
「最も有利な条件」の判断方法に「価格競争方式」と「総合評価落札方式」の二通りがあるのも一般競争入札と同じです。
一般競争入札が一般的になるまで、指名競争入札は入札方式の主流でした。しかし談合につながりやすいことが次第に問題視されるようになり、現在では「売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合」は一般競争入札が原則とされています(会計法第29条の3)。
指名競争入札が認められるのは主に以下のケースです。
このように実施条件は限られるものの、実際には(一般競争入札ほどではないにせよ)まだまだ指名競争入札は広く活用されています。
なお指名競争入札と一般競争入札の中間のような入札方式といえるのが、指名競争契約の一種である「公募型指名競争入札」です。
公募型指名競争入札では最初に「事業者の側から応募」を行い、官公庁は応募者の中から要件を満たす事業者を指名して入札に参加させます。
詳しくは『指名競争入札とは?他の入札との違いや入札の流れ、具体的な入札案件の事例を紹介』をご覧ください。
一般競争入札と指名競争入札のどちらが自社にとって有利かを判断するには、それぞれのメリットとデメリットをしっかり理解することが重要です。
一般競争入札の最大のメリットは、実績のない(少ない)中小企業や零細企業であっても入札に参加できることです。基本的な入札参加資格を満たしている限り、不特定多数の事業者に入札参加の資格と落札のチャンスがあります。また指名競争入札を含む他の入札方式と比べ、透明性や公正性が高いのもメリットです。
これに対しデメリットとしては、「競争が激しくなりがち」で「厳しい価格競争になりやすい」ことが挙げられます。もちろん参加できる事業者が多ければ多いほど競争が激しくなるのは仕方のないことです。しかし結果として、体力のない零細企業や創業したての事業者にとっては落札のチャンスが少なくなり、仮に落札できてもほとんど利益が残らないことになります。
一般競争入札は、利益よりも実績作りを重視する事業者に向いた入札方式といえるでしょう。
指名競争入札のメリットは、参加可能な企業が限定されるため落札できる可能性が高くなることです。不特定多数が参加する一般競争入札と違って過剰な価格競争になるおそれが少なく、また一度指名を受けるとその後も継続して指名される機会が増えるため、官公庁と長期的な付き合いが見込めるのも大きなメリットといえます。
ただし、そもそも発注者である官公庁から指名を受けない限り指名競争入札には参加できません。つまり「誰でも参加できるわけではない」「事業者側から参加を希望できない」ことが指名競争入札のデメリットです。特に実績のない(少ない)事業者にとっては、入札に参加できるチャンスはほとんどありません。
指名競争入札は、実績豊富で官公庁の指名基準を満たしている事業者にとっては落札しやすく、利益を確保しやすい入札方式といえるでしょう。
最後に、一般競争入札と指名競争入札の具体事例をいくつか紹介します。ここに挙げるものはすでに公募が終了したものばかりですが、同じような案件は毎年定期的に公募されているため、今後の参考にしてみてください。
横浜市(工事):市道十日市場第435号線歩道整備工事
横浜市(物品・役務):ごみと資源物の分け方・出し方パンフレット200,000部の印刷
さいたま市(工事):高沼用水路東縁舗装改修工事(南河R3)※制限付き一般競争入札
さいたま市(物品・役務):広報紙「市報さいたま」の印刷
千葉市(工事):更科浄水場ろ過水流量計修繕 ※制限付き一般競争入札
千葉市(物品・役務):学校・家庭間連絡システム整備事業賃貸借契約
茨城県南水道企業団(工事):鉛給水管布設替工事
文化庁(物品・役務):芸術家等の活動基盤強化及び持続可能な活動機会の創出 持続可能な活動・運営に関するモデル事業(リーフレットの制作)
横浜市(工事):金沢土木事務所外構修繕委託 ※公募型指名競争入札
横浜市(物品・役務):令和4年度横浜市立図書館和雑誌の購入
さいたま市(工事):道路修繕工事(R3市道21916号線)
さいたま市(物品・役務):さいたま市青少年宇宙科学館ポスター・チラ シ等印刷業務
千葉市(工事):千葉市ハーモニープラザピロティー庇修繕
千葉市(物品・役務):ガスクロマトグラフ一式
茨城県南水道企業団(工事):利根配水場送水ポンプ動力設備更新工事
茨城県南水道企業団(物品・役務):水道用次亜塩素酸ナトリウム購入
今回は一般競争入札と指名競争入札について、それぞれのメリット・デメリットについて説明しました。公共工事などの入札案件を積極的に受注していく場合、まずはチャレンジしやすい一般競争入札をいくつか受注したり、その後に指名競争入札に参加するのがお勧めです。「入札ネット+α」では地域や業種、発注機関ごとにさまざまな入札情報を掲載していますので、ぜひ活用してみてください。