SDGs(持続可能な開発目標)との関係から、日本の建設業界でも注目が高まっている「グリーンインフラ」。この記事ではグリーンインフラの概要から建設業界にとってのビジネス上のメリット、グリーンインフラの具体的な取り組みなどについて詳しく解説していきます。
グリーンインフラとは、自然環境が有する機能を社会のさまざまな課題解決に活用しようとする考え方のことです。
一例として「治水対策としての遊水池の整備」や「津波被害を軽減するための防潮堤の設置」「ヒートアイランド対策としての屋上緑化」などが挙げられます。
グリーンインフラという考え方は30年以上前から存在おり、欧米では当時からさまざまな取り組みが進められていました。日本でグリーンインフラが注目されるようになったのはここ10年ほどで、そのきっかけとなったのは東日本大震災による被災です。
2015年に閣議決定された「国土形成計画」では次のように述べて、各種社会課題への対応策としてグリーンインフラに期待が寄せられています。
社会資本整備や土地利用などのハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能(生物の生息の場の提供、良好な景観形成、気温上昇の抑制など)を活用し、持続可能で魅力ある国土づくりや地域づくりを進めるグリーンインフラの取り組みを推進する |
現在、日本のグリーンインフラが特に力を入れているのは「防災・減災」「地域復興」「環境保全」の3分野です。令和2年度には「グリーンインフラに関する優れた取組事例を表彰し、広く情報発信する」ことを目的とした表彰制度「グリーンインフラ大賞」も創設され、官民挙げて多様な取り組みが進められています。
グリーンインフラには、SDGsの目標達成への貢献も期待されています。
SDGsとはSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略で、2015年9月の国連サミットで採択された国際的な目標のことです。SDGsは「17のゴール」と「169のターゲット」「232の指標」で構成されており、国連加盟国(193か国)は2016年から2030年の15年間で、これらの目標達成に向けた自主的な取り組みをすることとされています。
SDGsの「17のゴール」
SDGsの取り組みは官民に関わりなく進められており、グリーンインフラの取り組みもその一部と考えることができます。一例として『円山川の治水対策/同河川を軸とした生態系ネットワーク形成の取組』について説明しましょう。
兵庫県の円山川は平成16年の台風23号で堤防が決壊し、流域に大きな被害を与えました。こうした被害が再び起きることがないよう急ピッチで進められているのが同河川の「治水対策」です。
同時に、この地域一帯では野生絶滅したコウノトリの野生復帰を目指した「生態系ネットワーク」の構築も目指しており、これらは一体的な取り組みとして行われています。
国土交通省がWEBサイトに掲載している資料『グリーンインフラを取り巻く状況』によると、この取り組みが目指すSDGsのゴールは以下の通りです。
取り組み | SDGsのゴール | |
---|---|---|
① | 治水対策の実施 | 11. 住み続けられるまちづくりを |
② | 流域での官民連携によるマルチステークホルダーパートナーシップの実現 | 17. パートナーシップで目標を達成しよう |
③ | 治水対策とそれに併せた湿地の整備 | 6. 安全な水とトイレを世界中に |
④ | 遊水池等の整備を通じて洪水による自然災害を抑制 | 13. 気候変動に具体的な対策を |
⑤ | 無・減農薬農法等の導入によるコウノトリの生育環境の保全 | 15. 陸の豊かさを守ろう |
⑥ | 環境創造型農業による農作物(米)のブランド化 | 2. 飢餓をゼロに |
⑦ | 小学校の菅教育の場の確保で、質の高い教育環境を形成 | 4. 質の高い教育をみんなに |
上に挙げた取り組みのうち、特に③の「湿地の整備」や④の「遊水池等の整備」は、まさにグリーンインフラの技法を取り入れたものといえます。
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グリーンインフラのメリットというと、一般には地球環境や住環境の改善や魅力増大、それによる地域活性化や不動産価値の向上などが強調されます。
しかしグリーンインフラの手法を取り入れる建設業界にとって、グリーンインフラにはどのような「ビジネス上のメリット」があるのでしょうか?
グリーンインフラに取り組むことで得られる最大のメリットは「企業イメージの向上」です。
地球温暖化など世界規模での環境の変化が問題視される今日、自然環境を有効活用することで社会問題の解決を目指すグリーンインフラは特に「注目」を集めます。グリーンインフラの取り組みが画期的であったり、実際に効果が上がっている場合は企業への評価も高くなり、優秀な人材の採用や新規取引先の開拓、投資家へのアピールにも役立つでしょう。
もうひとつ考えられるメリットは「新規ビジネスの創出」です。グリーンインフラという概念は、特に日本では比較的「新しい」ものです。新しい概念に基づいた取り組みは、そのまま新規ビジネスになる可能性があります。
これまで自社が取り組んでこなかった分野で新たな事業の柱を作ることができれば、利益の幅も広がるでしょう。
一方、建設業界にとってグリーンインフラは「コスト増大」になる可能性があります。従来の安価な工法ではなく新たな技術を開発・採用することは、事業者にとって大きな負担となりかねません。
特に土地利用条件や気候条件が厳しい日本では、その傾向が強いといえるでしょう。
ただし新しい技術のコストはその技術が一般化することで減少しますし、たとえ一時的にコストが増えたとしても、それが自社だけの強みに成長すれば、むしろ大きな利益となります。
建設業界の各事業者としては、グリーンインフラの活用によって得られるメリットとデメリットを中長期的に比較検討したうえで自社の事業方針を決定することが必要です。
日本でもここ数年、グリーンインフラの取組事例が増えています。ここでは「第1回グリーンインフラ大賞」に選ばれた事例のうち、建設業界が積極的に関わったものをいくつかピックアップします。
概要・目的:
植樹帯の雨水の貯留、浸透能力を高めることで道路冠水を防止するとともに、街中に質の高い緑空間を整備する
取組の内容:
概要・目的:
火葬場施設を住宅地からできるだけ見えにくくするとともに、大雨による施設の浸水被害を軽減するため、市域の約4割を占める農地を活かした水田貯留を推進する
取組の内容:
概要・目的:
旧河川敷で発生していた滞水による悪臭や害虫の問題を解決する
取組の内容:
概要・目的:
賃貸住宅やレストランや庭の空間を活かして経済的にも持続可能なコミュニティを地域と共創するとともに、循環型生態系の回復を目指す
取組の内容:
レインガーデンやエディブルガーデン、雨水利用や太陽光発電などの設備をインフラとして導入
概要・目的:
ヒートアイランド現象緩和とクールスポットの創出、および周辺緑地と連携して地域の生物多様性向上に寄与する
取組の内容:
概要・目的:
『荻窪らしさ』を活かした「豊かな緑にふれあえるまち」「生き物が集まるまち」「風が通り抜けるまち」「涼しいまち」「地球にやさしく、人がふれあえるまち」をつくる
取組の内容:
グリーンインフラは、日本をはじめ、世界中の国々で関心を集める重要なテーマです。特にグリーンインフラと関係の深い建設業界には、グリーンインフラへの理解を深めるとともに、グリーンインフラの活用に積極的に取り組むことが期待されています。
この記事や国土交通省の『グリーンインフラポータルサイト』、弊社の『グリーンインフラ特集』や『グリーンインフラ特集・朝日健太郎国土交通大臣政務官インタビュー』などを参考に、自社とグリーンインフラとの関係をぜひ考えてみてください。