国や自治体が行う契約には「予定価格」が設定されています。予定価格は発注者にとっても入札者にとっても重要なもので、その決め方や取り扱いには細心の注意が必要です。
今回は予定価格の計算方法と取り扱い方法について、わかりやすく解説していきます。
予定価格とは、入札や随時契約を行う国や自治体にとっての「見積金額」にあたるものです。予定価格は必ず決めるよう法律で義務付けられています。
予定価格は原則として「予定価格調書」に記載しますが、一定金額を超えない契約の場合は予定価格調書の省略が認められることもあります(官公庁の場合は一般に100万円が目安)。
予定価格は原則として、工事原価に人件費などを加えた「総額」で作成されます。ただし新聞や雑誌などの定期購読料金、光熱費、水道料金、電話料金のように一定期間継続する契約の場合、例外的に「単価」で予定価格を決めることも可能です。
予決令 第80条(第1項) 予定価格は、競争入札に付する事項の価格の総額について定めなければならない。ただし、一定期間継続してする製造、修理、加工、売買、供給、使用等の契約の場合においては、単価についてその予定価格を定めることができる。 |
国や自治体が予定価格を作成するのは「適切な契約」を行うためです。
国や自治体の契約は、民間同士の契約以上に「適切である」ことが求められます。財務省通達『公共調達の適正化について(平成18年8月25日)』でも「公共調達については、競争性及び透明性を確保することが必要であり、いやしくも国民から不適切な調達を行っているのではないかとの疑念を抱かれるようなことはあってはならない。」と強調している通りです。
予定価格は国民にこのような「疑念」を抱かれないために、つまり国や自治体が事業者と適正な契約を行うために作成されます。なお競争入札では事前に予定価格が知られないよう、原則として予定価格は公開されません。
予決令 第79条 契約担当官等は、その競争入札に付する事項の価格(第91条第1項の競争にあつては交換しようとするそれぞれの財産の価格の差額とし、同条第2項の競争にあつては財務大臣の定めるものとする。以下次条第1項において同じ。)を当該事項に関する仕様書、設計書等によつて予定し、その予定価格を記載し、又は記録した書面をその内容が認知できない方法により、開札の際これを開札場所に置かなければならない。 |
予定価格は契約金額の基準としても利用されます。特に競争入札では予定価格が入札金額の上限となり、予定価格を超えた金額での落札・契約はできません。
会計法 第29条の6(第1項) 契約担当官等は、競争に付する場合においては、政令の定めるところにより、契約の目的に応じ、予定価格の制限の範囲内で最高又は最低の価格をもつて申込みをした者を契約の相手方とするものとする。 ただし、国の支払の原因となる契約のうち政令で定めるものについて、相手方となるべき者の申込みに係る価格によつては、その者により当該契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認められるとき、又はその者と契約を締結することが公正な取引の秩序を乱すこととなるおそれがあつて著しく不適当であると認められるときは、政令の定めるところにより、予定価格の制限の範囲内の価格をもつて申込みをした他の者のうち最低の価格をもつて申込みをした者を当該契約の相手方とすることができる。 |
予定価格の決め方には「原価計算方式」と「市場価格方式」という二つの計算方法があります。
原価計算方式は、公共工事や製造・役務などの予定価格計算に使われる計算方式です。具体的には「仕様書」や「設計書」を基準に作業内容や人員を算出し、それらの積算して予定価格が決定されます。
原価計算方式の予定価格(公共工事の場合)= 材料費・労務費・機械費・経費・外注費などの合計
なお以前は積算価格の「歩切り」により予定価格を引き下げるケースが一般的でしたが、平成17年に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が改正され、「歩切り」の禁止が明記されました。現在では上記の合計額をそのまま予定価格として使うことが義務付けられています。
市場価格方式は主に物品購入契約などに活用される計算方式です。過去の同様の契約(納入実績や取引実例)や見積書などを参考に、定価から一定金額を値引きした金額を予定価格とします。
市場価格方式の予定価格 = 定価(希望小売価格)− 値引額
予定価格は国や自治体の契約内容に大きな影響を与えます。予定価格が事前に流出すると事業者同士の競争に悪影響を与えかねませんし、もし予定価格に限りなく近い落札が繰り返されているなら、そのような情報流出が疑われます。
こうした事態を防ぐため、予定価格の取り扱い方法は法令によって決められています。
予決令第79条によると、予定価格を記載した書面(予定価格調書)は「その内容が認知できない方法により、開札の際これを開札場所に置かなければならない」とされています。
最近は電子入札による競争入札が増えていますが、入札会場で入札が行われる場合はA4サイズの紙で作成された予定価格調書を封筒に入れ、密封・封印した上で金庫に入れるなど「厳重に保管」しておかなければなりません。
予定価格が秘密にされている場合、競争入札では自然に「競争原理」が働くため落札金額は一定の割合に抑えられます(予定価格の80%程度で落札されるのが一般的です)。
予定価格が秘密にされているかどうかは、「入札金額が予定価格からある程度離れているか」「事業者ごとの入札金額が適度にバラけているか」「再入札の度に最低価格の事業者が変動するかどうか」などを目安に確認できます。
これに対し、予定価格が事前に漏洩している入札では競争原理が十分に働きません。結果としてどの事業者も上限価格(予定価格)に近い金額で入札を行い、予定価格に近い金額で落札者が決まることがほとんどです。
加えて、あらかじめ予定価格がわかっていると談合が起きやすくなり、経済的な損失や犯罪行為を助長してしまう可能性もあります。場合によっては国や自治体の担当者が贈賄事件などに巻き込まれるなど、事業者にとっても発注機関にとってもリスクが大きいといえるでしょう。
ちなみに1回目の入札で落札者が決まらず再入札が行われる場合に、もし1回目と同じ事業者が最も安い金額を再び提示するようであれば、予定価格が漏洩している可能性が大です。
予定価格は「秘密」が原則ですが、自治体によってはあえて予定価格を公表するケースもあります。たとえば東京都では次のような規定を設けています。
東京都契約事務規則 第12条 契約担当者等は、一般競争入札により契約を締結しようとするときは、その競争入札に付する事項の価格を、当該事項に関する仕様書、設計書等(当該仕様書、設計書等に記載すべき事項を記録した電磁的記録を含む。)によつて予定し、その予定価格を記載した書面(別記第一号様式)を封書にし、開札の際これを開札場所に置かなければならない。ただし、財務局長が別に定める契約においては、当該入札執行前にその予定価格を公表することができる。 |
このように予定価格を事前公表する目的は、主に「入札の透明性を高める」ことや「贈賄事件を未然に防ぐ」ためです。
とはいえ、事前に予定価格を公表してしまうと落札金額が高止まりになることが避けられません。実際に東京都では「豊洲市場や五輪関連施設で高額の落札が続いた」ことから、入札ルールを見直す動きも出ています(参考記事:小池知事主導の入札制度、見直しへ 工事手続きに滞り:朝日新聞デジタル)。
もし自治体の入札に参加したい場合は、対象となる自治体のルール(独自の条例や規則など)や個別の入札公告を確認して、事前に予定価格を公表しているかどうかしっかり確認することが重要です。
予定価格は原則として非公開ですが、計算方法が分かれば「ある程度」の予想は可能です。過去の同種の事業などを参考にしてみるのも良いでしょう。また発注機関(自治体)によっては予定価格を事前に公表しているケースもあります。他の入札参加者との競争で不利になってしまうことがないよう、しっかり情報収集するようにしてください。 「入札ネット+α」では1994年度から入札結果を掲載していますので、 過去の同種の事業 を見つけることができます。ぜひ活用してみてください。