入札価格だけでなく、工事の質や内容なども評価対象となる総合評価落札方式。2022年からは「賃上げ」をした企業を評価時に優遇する制度も開始され、ますます注目を集めている入札方式です。
この記事では総合評価落札方式の評価項目や評価方法について、標準ガイドラインに基づいてわかりやすく解説していきます。
2022年度より新しい入札優遇制度が導入されます。総合評価落札方式の入札に参加する企業が賃上げを行う場合に「技術評価点」を5〜10%程度加点するというもので、企業に積極的な賃上げを促すのが狙いです(読売新聞オンライン『賃上げしたら入札優遇…新年度から、公共事業で「技術点」加点 : 経済』より)。
この新制度について詳しく知る前に、まずは総合評価落札方式の仕組みを振り返ってみましょう。
総合評価落札方式とは、入札価格に加えて工事の質や内容などの「技術提案」も評価対象とする入札方式です。このため一番低い入札金額を提示した事業者が落札者になるとは限らず、むしろ技術力の高い事業者の方が高く評価され、入札において有利になります。
総合評価落札方式についてはこちらの記事(「総合評価落札方式」をわかりやすく解説!メリット・デメリットは?選定の流れは?)でも詳しく紹介しています。ぜひ参考にしてください。
総合評価落札方式ではさまざまな項目が評価対象となります。国土交通省の「関東地方整備局における 総合評価落札方式の適用ガイドライン (令和3年度版) 」によると評価項目は次の通りです。
簡易な施工計画 | 特に重要と考えられる工種に係る施工計画又は環境対策等 特に配慮すべき事項 |
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施工計画 | ・工程管理に係わる技術的所見 ・材料の品質管理に係わる技術的所見 ・施工上の課題に対する技術的所見 ・施工上配慮すべき事項・安全管理に留意すべき事項 ・上記以外の項目 |
施工計画(ヒアリング) | ・技術者の専門技術力 ・当該工事の理解度 ・取り組み姿勢 ・技術者の応答の的確性 |
VE提案等の技術提案 | ・ライフサイクルコスト ・性能・機能 ・環境の維持・交通の確保 ・特別な安全対策 ・省資源・リサイクル ・個別テーマの施工計画 |
工事全般の施工計画 | 施工上配慮すべき事項等の技術的所見 |
ヒアリング | ・技術者の専門技術力 ・当該工事の理解度 ・取り組み姿勢 ・技術者の応答の的確性 |
企業の施工能力 | ・同種工事の施工実績 ・工事成績 ・工事成績(減点要素)(65点未満の場合) ・優良工事等表彰(優良工事表彰) ・国土技術開発賞の受賞 ・優良工事等表彰(安全管理優良受注者表彰) ・事故及び不誠実な行為 ・地理的条件及び技術的適正(施工体制の評価) |
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地域精通度地域貢献度 | ・地域精通度(近隣地域での施工実績) ・地域精通度(緊急時の施工体制) ・地域貢献度(災害協定の有無) ・地域貢献度(災害協定に基づく活動実績の有無) |
自由設定項目 | ・工事成績優秀企業認定 ・優良下請企業の活用 ・本発注工事の関連分野における技術開発実績の有無及び有用な新技術の活用 ・ICT施工技術の活用(ICT土工、ICT舗装工、ICT浚渫工、ICT舗装工 (修繕)) ・ISO認証取得状況 ・難工事施工実績 ・難工事功労表彰、災害工事功労表彰、事務所独自の功労 ・貢献表彰、災害関連感謝状、 新技術活用実績表彰等のいずれか ・登録基幹技能者等の活用 ・地域貢献度(災害時の基礎的事業継続力の認定の有無) ・若手技術者(35歳以下)の活用及び資格 ・本発注工事に対応する工事種別の手持ち工事量 ・ワーク・ライフ・バランス関連認定制度 ・「週休2日制適用工事」の施工実績 ・女性技術者の活用 ・「労務費見積り尊重宣言」促進モデル工事 ・自由項目 |
配置予定技術者の技術力 | ・同種工事の工事経験 ・同種工事の工事成績(資格要件で求めた実績) ・優秀工事技術者表彰 |
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自由設定項目 | ・資格・過去の同種工事の工事経験 ・継続教育(CPD ・ CPDS)の取組状況 ・難工事施工実績 ・難工事功労表彰、事務所独自の功労、貢献表彰等のいずれか ・高度なマネジメントの経験(事業推進PPP、PM/CM、技術協力業務) |
プロポーザル方式も総合評価落札方式と同様、入札時の提案内容を評価する入札方式です。
ただし総合評価落札方式が基本的に「除算方式(※)」と呼ばれる方法で評価を行うのに対し、プロポーザル方式では提案内容を評価項目ごとに点数化して、その合計点で落札者を決定するのが主な違いです。
※除算方式については後ほど説明します
総合評価方式では、評価点の計算に「除算方式」と「加算方式」という2つの方式が使われます。
除算方式が総合評価方式で一般的に使用される計算方式です。
まず入札価格以外の要素を「技術評価点」として数値化し、それを入札価格で割ります(除算します)。計算結果は「評価値」と呼ばれ、この数字が大きい業者ほど高い評価を受ける仕組みです。なお技術評価点は「基礎点もしくは標準点」と「加算点」の合計ですが、これについては後ほど説明します。
評価値=技術評価点((基礎点もしくは標準点)+加算点)/入札価格
加算方式は国土交通省の一部案件で試行的に採用されている計算方式です。入札価格以外の要素を数値化(技術点)するのは除算方式と同じですが、入札価格を「価格評価点」として数値化し、その両方を合計する点が大きな違いです。価格評価点は入札価格が低いほど大きくなります。
評価値=技術評価点+価格評価点
先ほど、技術評価点が「基礎点もしくは標準点」と「加算点」の合計であることを説明しました。それぞれの具体的な内容は次の通りです。
なお基礎点と標準点は100点満点、加算点は工事の技術的難易度や評価項目の重要度に応じて10〜50点の範囲内で満点を設定するのが標準的です。
ここまでは従来の技術評価点の計算方法ですが、2022年度からはこれに加えて「賃上げをした企業」が加算点に加点を受けられる制度がスタートします。
要件となる賃上げの上げ幅は、大企業で全従業員の平均給与の3%以上、中小企業で給与総額の1.5%以上です。要件を満たした場合は加算点が「5%」の加点となります。
加点を受けた企業が実際に賃上げを行ったかどうかは、税務署に提出する書類などにより確認されます。
もし賃上げが行われていなかったことが判明した場合、その後1年間の入札で加点分を上回る減点(国交省の基準では加点割合より1点大きな配点で減点)が行われるため注意が必要です。
新たに導入される入札優遇制度は、総合評価方式の入札に参加する企業にとっても、その企業の従業員にとっても大きなメリットとなり得ます。公共工事の入札に初めて参加する事業者はもちろん、これまで実績を積み重ねてきた事業者の皆さんも、ぜひこの機会に賃上げを検討してみてはいかがでしょうか?