建設業許可にはいくつもの「種類」があります。今回は特に、一定金額以上の下請けを出す場合に必要となる「特定建設業」について、その内容と取得要件を説明していきます。
建設業許可の一種である「特定建設業」とは、1件の建設工事につき4,000万円以上(建築一式工事の場合は6,000万円以上)の工事を下請けに出そうとする建設業者(元請業者)に取得が義務付けられている許可資格です。
具体的に説明すると、発注者から1億円の工事を請け負った元請業者Aが下請業者Bに5,000万円の下請契約を結ぶ場合、Aは特定建設業の許可を取得しなければなりません。
建設業許可には「一般建設業」という種類もありますが、この一般建設業許可で4,000万円以上の工事を下請けに出すことはできません。
逆にいうと、受注した工事をすべて自社で施工する(下請けに出さない)のであれば一般建設業の許可で構わないということになります。
また下請けに出す工事の金額が4,000万円未満だったり、そもそも自社が下請業者の立場にある場合も一般建設業許可で差し支えありません。
すでに一般建設業許可を受けている建設業者が、(全29種類のうち)別の業種で追加で特定建設業許可を取ることは可能です。たとえば塗装工事で一般建設業の許可を受けていても、防水工事の特定建設業許可を追加で取得できます。
ただし同一の業種で一般建設業許可と特定建設業許可の両方を取得することはできません。
4,000万円(建築一式工事では6,000万円)という金額については注意が必要です。
たとえば1つの建設工事で2つ以上の下請工事を発注する場合、その「合計金額」が4,000万円以上になるかどうかが判断されます。
もし元請業者Aが2億円の工事を受注して、そこから下請業者Bに2,000万円、下請業者Cに1,000万円、下請業者Dに1,000万円の下請工事を発注する場合、合計金額が4,000万円となるため元請業者Aは特定建設業許可を取得しなければなりません。
一方で元請業者が下請業者に建設資材を提供する場合、その価格(市場価格や運搬費など)を4,000万円に含める必要はありません。
特定建設業の許可が必要なのは「元請業者」です。下請業者は金額にかかわらず特定建設業許可を取得する必要はありません。
また元請業者Aから6,000万円の下請工事を受注した下請業者Bが、さらに下請業者Cに孫請工事を発注する場合も、「金額に関係なく」特定建設業許可は不要です。
特定建設業許可の取得要件は一般建設業許可よりも厳しめです。ここでは一般建設業許可の要件と対比しながら5つの要件について見ていきましょう。
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特定建設業許可(および一般建設業許可)を受ける「主たる営業所(本店など)」には、以下の条件を満たした「経営業務の管理責任者」が1名以上必要です。
要件(以下のいずれかに該当) | 要件(以下のいずれかに該当) | |
---|---|---|
法人で許可を受ける場合 | 常勤の役員(代表取締役や取締役)※他の企業との兼業はNG | 1)許可を受けようとする業種で5年以上の経営経験 2)許可を受けようとする業種以外の業種で6年以上の経営経験 3)いずれかの許可業種で6年以上の補佐経験 ※注1 |
個人で許可を受ける場合 | ・事業主本人・支配人登記した支配人 |
※注1 工事の施工に必要な資金調達、技術者や技能者の配置、下請業者との契約締結などの業務経験のこと
営業所ごとに1名以上設置する専任技術者については、特定建設業許可の方が一般建設業許可よりも要件が厳しくなっています。
許可の種類 | 要件(以下のいずれかに該当) |
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特定建設業許可 | 1)国家資格者(注1) 2)一般建設業許可の専任技術者に該当し、さらに許可を受けようとする建設業で発注者から直接請け負う4,500万円以上の工事で2年以上の指導監督的な実務経験を有する者(注2) 3)大臣特別認定者(特別認定講習を受けて効果評定に合格した、もしくは国土交通大臣が定める考査に合格した者)(注3) ※指定建設業(土木工事業・建築工事業・電気工事業・管工事業・鋼構造物工事業・舗装工事業・造園工事業)については、上記1もしくは3のいずれかを満たすこと |
一般建設業許可 | 1)指定学科修了者で高卒後5年以上もしくは大卒後3年以上の実務の経験を持つ者 2)指定学科修了者で専門学校卒業後5年以上実務の経験があるか、専門学校卒業後3年以上実務の経験に加えて専門士か高度専門士の称号を持つ者 3)許可を受けようとする建設業に係る建設工事で10年以上実務の経験を持つ者 4)国家資格者(注1) 5)複数業種に係る実務経験を持つ者(注4) |
(注1)国家資格の種類については国土交通省「営業所専任技術者となり得る国家資格等一覧」を参照
(注2)指導監督的な実務経験とは、建設工事の設計や施工の全般で工事現場主任や現場監督者のような資格で工事の技術面を総合的に指導監督した経験のこと
(注3)特別認定講習と国土交通大臣が定める考査は、現在は実施されていない
(注4)複数業種に係る実務経験については国土交通省「指定学科一覧」を参照
誠実性の要件とは請負契約の際に不正や不誠実な行為をするおそれがない、あるいは法令に違反するようなことをしないという意味で、特定建設業許可と一般建設業許可で共通に求められています。
誠実性が求められるのは、
といった人たちです。
財産的基礎の要件は、特定建設業許可の方が厳しくなっています。
建設業では労働者の賃金や資材・機材の購入費など、まとまった額の資金が必要です。このため建設業許可を受けるためには「一定以上の財産を持っていること」を証明しなくてはなりません。
具体的には以下のような要件を満たす必要があります。
許可の種類 | 要件 |
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特定建設業許可 | 以下の「すべて」に該当すること ・欠損の額が資本金の20%を超えていないこと ・流動比率が75%以上であること ・資本金の額が2,000万円以上で、自己資本の額が4,000万円以上であること |
一般建設業許可 | 以下の「いずれか」に該当すること ・自己資本が500万円以上であること ・500万円以上の資金調達能力を有すること ・許可申請直前の過去5年間許可を受けて継続して営業した実績を有すること |
このうち「欠損の額」とは、資本剰余金や利益剰余金、利益積立金などを「マイナスの繰越利益剰余金」が上回る場合に、その上回った額のことをいいます。
また「流動比率」とは流動負債(1年以内に返済する負債)の合計額のうち、流動資産(1年以内に現金化できる資産)が占める割合のことです。
欠格要件に当てはまると特定建設業許可(および一般建設業許可)を取得できません。欠格要件は主に以下の通りです。
特定建設業者には「9種類の義務」があります。
ちなみに一般建設業者の場合、上記の①〜⑥までが義務付けられています(⑥については「発注者から支払いがあった時から1か月以内」)。
特定建設業許可は「元請業者として」「4,000万円以上の下請契約を結ぶ」場合に必要な許可です。一般建設業許可と比べて許可要件が厳しいため、もし許可を受ける場合(許可が必要となる下請工事を発注する場合)は、十分に注意しながら申請準備を行うようにしましょう。