建設業を営む上で必ず作成しなければならない書類のひとつが「完成工事原価報告書」です。
今回は完成工事原価報告書の内容や用途、製造原価報告書との違いなどについて、わかりやすく説明します。
完成工事原価報告書とはその名の通り「完成工事に要した原価の内訳を記載する書類」のことです。株式会社など法人の建設業者に作成が義務付けられていて、
の各項目ごとに原価の内訳を記載します。
完成工事原価報告書の用途は大きく分けて2つあります。
まず建設業者が毎年行う「決算変更届」で財務諸表類の一部として提出するという用途、そしてもうひとつは「建設業許可申請」の一部として提出するという用途です。
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完成工事原価報告書は、株式会社が事業年度ごとに作成する「製造原価報告書」と似ています。ただし製造原価報告書が製造に要したすべての原価を記載するのに対し、完成工事原価報告書は「完成した工事の金額のみ」を対象とする点が大きな違いです。
また完成工事原価報告書の様式は「第16号」としてあらかじめ決められているため、製造原価報告書をそのまま流用することはできません。
基本的には製造原価報告書をベースに、必要事項を抜き出して完成工事原価報告書を完成させます。
完成工事原価報告書は、材料費・労務費・外注費・経費の4つの要素で構成されています。
なお製造原価報告書では未完成の工事にかかった原価を期末仕掛品として記載しますが、完成工事原価報告書に未完成工事の原価は記載されません(これが製造原価報告書をそのまま流用できない理由のひとつです)。
材料費とは、工事を行うため直接購入した材料の費用のことです。基本的には製造原価報告書に記載される材料費(素材・半製品・製品・材料貯蔵品勘定など)をベースに、未完成工事の原価を引いた金額を記載します。
なお「在庫」として持っていた材料を工事に使った場合(事業年度内に新たに材料を購入していない場合)、その事業年度の完成工事原価報告書に記載される材料費は「0円」です。
労務費とは、工事に携わった作業員の賃金・給料・手当・法定福利費(社会保険料等)などの合計金額です。作業員の雇用形態(正社員かアルバイトか)は問いませんが、直接雇用されていなければなりません。
この項目も製造原価報告書がベースになりますが、製造原価報告書の金額には現場代理人や配置技術者、作業現場事務所の事務員といった「作業員以外」の人件費も含まれます(完成工事原価報告書ではそれらをいったん差し引き、後で説明する「経費」に含めます)。
なお第16号様式の労務費欄には「(うち労務外注費)」という項目がありますが、ここには外注費のうち「大部分が労務費であるもの」を記入します。
社長自らが作業員として現場に出ている場合は「工事現場で働いた部分」が労務費です。たとえば勤務時間の半分を現場作業、残り半分を管理職業務に費やしているなら、役員報酬の半分は労務費として計上します。
外注費とは、工事の素材や半製品・製品などの製造を外注した場合にかかる費用です。原則として自社の作業員が関わったものについては労務費で、他社の作業員が関わったものは外注費となります。
ちなみに、材料費を自社(発注側)が負担して製造作業だけを外注する場合や、人手不足を理由に他社から応援の人材を受け入れたような場合は労務費の「(うち労務外注費)」に記載するのが原則です(このあたりは厳密に区別されていないため、都道府県によって判断が異なることがあります。詳しい取り扱いについては県の担当者に相談・確認してみてください)。
なお完成工事原価報告書に記載される金額のほとんどが外注費だと「他力本願な事業者」とみなされる恐れがあるため、できるだけ(振り分けられるものは労務費などに振り分けて)各要素にバランス良く金額を配置するのが完成工事原価報告書作成のコツです。
経費とは、完成工事に直接関連して発生・負担したさまざまな費用のうち、材料費・労務費・外注費に含まれないものの合計金額です。労務費から除外された「現場代理人や配置技術者、作業現場事務所の事務員など作業員以外の人件費」もここに含みます。
一般的な経費の具体例は次の通りです。
なお第16号様式の経費欄にある「(うち人件費)」に記載するのは、作業現場事務所の給与手当や退職金、法定福利費、福利厚生費などの合計額です。
本来は経費に含めるべきなのに意外と見落としがちなのが、重機の使用料金や工事関係の光熱費、現場代理人や現場事務所の事務員に払う給料・保険料、警備関係の費用などです。これらの完成工事に直接関係している限り、完成工事原価報告書に含めなくてはなりません(一般管理費に含めるミスが散見されます)。
逆に事務所の賃貸費用や光熱費、役員に支払う報酬(現場作業分以外)や管理部門の給料などを完成工事原価報告書の経費に含めてはいけません。
最後に注意点ですが、上記①から④の合計額は、損益計算書の完成工事原価と一致していなくてはなりません。費用の見落としや記載ミスがないよう注意してください。
完成工事原価報告書はそれほど複雑な書類ではなく、作成も決して難しくありません。ただしベースとなる製造原価報告書とは「似て非なる部分」もあるため、金額を記載する際は「どの部分をどの項目に振り分ける必要があるか?」を意識することが大切です。