さまざまな入札形式・発注形式のうち、特に業務の内容が技術的に高度なものや、専門的な技術が要求されるものに利用されるのが「プロポーザル方式(企画競争)入札」です。高い知識や企画力を要求されるぶんハードルは高めですが、提示した価格だけで落札者が決まるわけではないため、受注すれば大きな利益が見込めます。
今回はプロポーザル方式(企画競争)入札に挑戦してみたい方のために、制度の仕組みや他の入札形式との違い、入札の流れについてわかりやすく説明していきます。
プロポーザル方式(企画競争)入札というのは、「技術的に高度」もしくは「専門的な技術が要求される」業務の発注に使われる発注形式です。業務を受注したい事業者は一定のテーマに基づいて金額や方針を提案し、発注者は提案された内容を総合的に評価して受注者を決定します(なお募集方法によって「公募型」と「指名型」がありますが、これについては「公募型プロポーザル方式とは」で詳しく説明します)。
プロポーザル方式(企画競争)入札のメリットは、他の入札形式と比較して「利益が出やすい」ことです。原則として入札金額の安さが基準となる一般競争入札などと違い、選定にあたっては「質の高さ」や「事業者の経験」などが判断材料となる可能性もあるためです。ちなみにプロポーザル方式(企画競争)入札は発注者にとっても、「粗悪な業者が安い価格で入札する」ことを避けられるというメリットがあります。
一方で、高い知識や企画力が求められることは、プロポーザル方式(企画競争)入札のデメリットです。受注の経験が少ない、あるいは企画力に自信のない事業者にとって、プロポーザル方式(企画競争)入札はハードルの高い発注形式といえるでしょう。
実際にプロポーザル方式(企画競争)入札で発注される事業としては、主に以下のようなものが挙げられます。
代表的な入札形式である一般競争入札や指名競争入札と、プロポーザル方式(企画競争)入札との間には多くの違いがあります。
まず大きな違いとして、プロポーザル方式(企画競争)入札はいわゆる「競争契約」ではなく「随意契約」の一種です。ただし一般的な随意契約では発注者が「任意」に選んだ相手と契約を結ぶのに対し、プロポーザル方式(企画競争)入札は任意ではなく「提案」に基づいて契約相手を選抜します。
次に、一般競争入札が原則として「誰でも」参加できるのに対し、指名競争入札に参加できるのは発注者に「指名された者だけ」です。一方プロポーザル方式(企画競争)入札には誰でも参加できる「公募型」と「指名型」の両方があります(後ほど「公募型プロポーザル方式とは」で詳しく説明します)。
契約者(落札者)の決定方法も、大きな違いのひとつです。一般競争入札と指名競争入札では入札金額の安さによる「価格競争方式」か、金額以外の要素も総合的に判断する「総合評価落札方式」によって落札者が決まります。これに対しプロポーザル方式(企画競争)入札は、提案金額と提案内容の総合判断によって契約者を決定します。
ちなみに総合評価落札方式とプロポーザル方式(企画競争)入札は「総合的に評価する」という点で似ていますが、それ以外はまったくの別物です。総合評価落札方式では「契約相手と契約条件」を決めますが(決定後は変更不可)、プロポーザル方式(企画競争)入札では「契約交渉の相手と交渉の優先順位」を決めます。このため協議・交渉によっては契約内容の変更が可能です。また交渉が不調に終われば、あらためて次点の相手と交渉を行います。
下の表はプロポーザル方式(企画競争)入札と他の入札形式の違いをまとめたものです。
一般競争入札 | 指名競争入札 | プロポーザル方式(企画競争)入札 | |
---|---|---|---|
契約方法 | 一般競争契約 | 指名競争契約 | 随意契約 |
参加者 | 参加資格があれば誰でも可 | 発注者から指名された企業のみ | 発注者から指名されるケースや、参加者を公募するケースなど、さまざま |
契約者の決め方 | 最も安い価格で入札した者が落札する「価格競争方式」と、価格と価格以外の側面を総合的に評価する「総合評価落札方式」がある | 最も安い価格で入札した者が落札する「価格競争方式」と、価格と価格以外の側面を総合的に評価する「総合評価落札方式」がある | 提案価格と提案内容を総合的に勘案し、優先交渉権者を選定する 優先交渉権者との交渉が不調の場合、次点の交渉権者と交渉する |
こちらは総合評価落札方式とプロポーザル方式(企画競争)入札それぞれの特徴とメリット・デメリットです。
総合評価落札方式 | プロポーザル方式(企画競争)入札 | |
---|---|---|
概要 | 競争入札の落札者を「入札金額」と「提案内容」で総合的に評価する | 随意契約の交渉相手を「提案金額」と「提案内容」で総合的に評価する |
契約内容の変更 | 入札公告後の条件変更は原則として変更不可 入札後の入札金額や提案内容は変更不可 | 契約の内容、提案金額、提案内容とも協議・交渉が可能 |
交渉が不調の場合 | 再入札 | 次点の相手と交渉 |
メリット | 落札から契約までがスムーズ | 協議・交渉によって契約内容の’変更が可能 |
デメリット | 原則として契約内容の変更ができない | 選定後に契約交渉が必要(時間がかかることがある) |
プロポーザル方式(企画競争)入札と同じように「企画内容によって事業者同士が競争」する契約方法に「コンペ方式」があります。
この二つの違いは、主に「評価対象」です。プロポーザル方式(企画競争)入札では提案内容に基づいて「設計者(提案した事業者)」が評価・選定されるのに対し、コンペ方式では具体的な「設計案」が評価・選定されます。
(引用:国土交通省大臣官房官長営繕部「プロポーザルを始めよう!」)
プロポーザル方式(企画競争)入札とコンペ方式にはそれぞれメリットとデメリットがあります。以下の表はそれぞれの特徴をまとめたものです。
コンペ方式 | プロポーザル方式(企画競争)入札 | |
---|---|---|
提案内容 | 具体的な設計案 | 技術提案(具体案までは不要) |
評価対象 | 設計案 | 設計者 |
メリット | ・複数の具体的な設計案から優れたものを選べる ・実績がなくても設計案が優れていれば選ばれる可能性がある | ・提案段階で設計案を求めないため発注者・設計者双方の負担が軽い ・発注者と設計者の協働で設計するため発注者の要望を反映させやすい ・設計者が評価されるため、契約後は初期の技術提案に拘束されない |
デメリット | ・発注者側の負担が大きい(募集時点で詳細な要件・条件を設定) ・設計者側の負担が大きい(具体的な設計案を作成する必要がある) ・設計案を評価するために、発注者側に専門知識が必要 ・設計案が評価対象となるため、契約後も初期の設計案に拘束される | ・具体的な設計案ではなく設計者を評価するため、選定の公平性や透明性が問題とされることがある |
プロポーザル方式(企画競争)入札には「公募型」と「指名型」があります。
公募型は一般競争入札と似た仕組みで、あらかじめ具体的な要件を掲示やWEBサイトで公告し参加者を募るものです。公告される「具体的な要件」には以下のものがあります。
指名型は指名競争入札と似た仕組みで、発注者側であらかじめ3〜5社を選定し、企画競争に参加するよう指名するものです。公募はしませんが、指名された企業には参加の「具体的な要件」が提示されます。
以下は「公募型」と「指名型」の比較です。
公募型 | 指名型 | |
---|---|---|
参加者 | 参加資格があれば誰でも | 発注者から指名された3〜5社 |
募集方法 | 掲示板やWEBなどによる公告 | 参加者に直接連絡 |
提示される要件 (主なもの) | ・案件の名称 ・募集する業務内容 ・履行期間 ・金額の上限 ・参加資格 ・提案書の評価基準 ・選定のスケジュール |
国土交通省所管の標準的な「建設コンサルタント業務等」の発注形式を例に、プロポーザル方式(企画競争)入札の流れを説明します。他の発注者の案件も同じようなステップで実施されるため、参考にしてください。
発注する案件の参加資格条件を決定します。選定するのは主に発注者内部で組織する「建設コンサルタント選定委員会」(国土交通省の場合は事務所長や課長など)ですが、必要に応じて「総合評価審査委員会」などに意見聴取する場合もあります。
発注する案件について掲示やWEBサイト上で公示し、具体的な参加要件を記載した「説明書」を交付します。参加を希望する事業者は、決められた日時(公示から10日程度)までに「参加表明書」を提出します。
参加表明書の締切から10日以内を目安に、建設コンサルタント選定委員会が3〜5社程度の参加者(技術提案書の提出者)を選定します。選定の基準は「管理技術者の経験及び能力」「業務の実施体制」「その他の選定基準」などです。
選定された事業者に「選定通知」を送付し、受注意思を確認すると同時に技術提案書の提出を要請します。技術提案書の納期は通知から10〜20日程度です。
技術提案書の提出から20日以内を目安に、
を実施し、結果を参加者に通知します。
なお予定価格が1000万円を超える場合、建設コンサルタント選定委員会による評価の後に「入札・契約手続運営委員会」による評価決定が行われます。
発注者と優先交渉権者とで、予定価格の範囲内で交渉を行います。交渉成立した場合は契約を締結します。契約締結までの目安は技術提案書の特定・通知から15日程度です。
(参考:国土交通省「建設コンサルタント業務等における プロポーザル方式及び総合評価落札方式の 運用ガイドライン」)
今回はプロポーザル方式(企画競争)入札について説明しました。高度な技術や専門性が必要な案件で使われる発注形式ということで参加のハードルは高めですが、受注できれば大きな利益も期待できます。経験や実績、企画力に自信がある方は、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。