建設業では、会計処理の際に独自の勘定科目を使用します。この記事ではその中でも特に重要な「完成工事高」について、他の勘定科目との違いや活用方法について解説していきます。
完成工事高とは、建設業者にとっての収益のことです。
一般的な業種の「売上高」とほぼ同じ意味ですが、建設業者の売上がすべて完成工事高になるとは限りません。たとえば建設工事の他に建設現場で資材販売をしていたり不動産業を営んでいるような場合、本業である建設工事以外の事業で得た売上は完成工事高ではなく、雑収入などの勘定科目で計上されます。
完成工事原価は完成工事高の原価を指す勘定科目で、一般的な業種の「製造原価」に相当します。具体的には労務費・材料費・外注費・経費で構成され、完成工事高から完成工事原価の差額が粗利(完成工事純利益)となります。
受注高は契約を締結した建設工事の請負金額のことで、「元請工事受注高」と「下請工事受注高」の2種類があります。受注高は工事が完成すると完成工事高に変わりますが、受注高の段階でも将来の収入源を表す数値として重視されます。
施工高(出来高)とは、受注高のうち工事が完成した部分の金額です。
後ほど説明する完成工事高の計上基準のうち「工事進行基準」を適用する場合、施工高は当期の完成工事高と同じになります。
一方「工事完成基準」を適用した場合は、当期に工事が完成した場合のみ施工高と完成工事高が同じになります。
手持ち工事高とは受注高から施工高を引いた部分の金額で、「将来」の完成工事高を指します。
次期繰越高は受注済みの請負契約のうち未着工部分の金額で、「来期(次期)」の完成工事高を指します。
次期繰越高が多ければそれだけ来期の完成工事高が多くなるため、収入が安定しているとみなされ、融資を受ける際に高く評価されます。
完成工事未収入金とは、完成工事高として計上している金額のうち受注先から回収できていない金額のことです。一般的な業種の「売掛金」に相当します。
ただし完成工事未収入金として計上するのは未回収の金額のうち「決算期から1年以内に回収する予定」のものだけで、回収が1年より長引くものは投資その他の資産として計上します。
未成工事受入金とは、工事が完成していないうちに(事前に)受け取った金額のことです。未成工事受入金が流動負債として貸借対照表に記載されますが、工事が完成すると完成工事高に振り替えられます。
未成工事受入金とは、完成していない工事の原価のことです。貸借対照表上では流動資産として記載され、工事が完成すると完成工事原価へ振り替えられます。
工事未払金とは、工事資材の購入金額や下請への外注金額の未払部分です。一般的な業種の「買掛金」に相当します。
ここまで紹介してきた通り建設業の勘定科目には、一般的な企業が使う勘定科目と内容がほぼ同じでも呼び方が違うものがいくつもあります。これらは建設業法の中で定められているため、建設業を営む以上は遵守しなければなりません。
このように特殊な勘定科目が使われるのは、建設業界では「数年に及ぶ工事が珍しくない」からです。一般的な取引はその場で終わるか、少なくとも1年以内に完了するものがほとんどです。これに対し建設工事は複数年にまたがることが多く、一般的な会計と同じように扱うと不都合が生じることがあります。
こうした問題を解決するための手段が、建設業ならではの特殊な会計制度です。勘定科目の呼び名が変わっているのも、一般的な会計制度と区別するためと考えられています。
建設工事には完成工事高(売上高)の計上基準が2種類あります。
工事完成基準とは、工事が完成して引き渡しが完了したタイミングで売上を計上する方法です。
工事が長期に渡っても完成工事高の計上が1回で済むため、会計処理がシンプルなのが特徴です。一方で工事が複数年に及ぶ場合、工事が完成するまでは一切の売上を計上できず、支出だけ未成工事支出金として計上していきます。
工事進行基準とは、工事の進捗状況(完成度合い)に応じて売上を計上する方法です。工事全体が完成していなくても「発行済の請求書」を当期分の工事完成高に計上できるのがメリットで、
の両方の要件を満たす建設工事で利用されます。なお工事の原価は未成工事支出金として計上され、工事全体が完成した段階で完成工事原価に振り替えます。
完成工事高は単なる勘定科目ではありません。ここでは完成工事高の「用途」として2つのケースを紹介します。
完成工事高は公共工事の受注に必要な「経営事項審査」の審査項目です。
経営事項審査は「総合評定値(P)」と呼ばれる点数が評価の基準となっており、その点数は
の4つの要素によって決まります。
経営規模(X)はさらにX1とX2に分けられ、このうちX1が許可業種別の完成工事高です。経営事項審査では受注したい工事業種に応じて、請負金額100万円以上の完成工事高を許可業種別に記載します。評価の対象となるのは審査基準日の直近2年または3年分の平均値です。
完成工事高は総合評定値(P)の1/4を占めます。数値(金額)が高いほど評価も高くなりますが、むやみに受注量を増やしたからといって完成工事高が増えるわけではありません。重要なのは、きちんと利益が得られる工事を適切に受注することです。
なお完成工事高の計上基準として工事進行基準を使用すれば、工事全体が完成していなくても、すでに完成している分(施工高)を当期の完成工事高として計上できます。
また申請業種が一式工事なら許可を持っている専門工事の完成工事高を一式工事の完成工事高に含め、申請業種が専門工事であれば許可を持っている専門工事の完成工事高をその専門工事の完成工事高に含める、「振替(積み上げ)」というテクニックもあります。
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完成工事高は建設業関係の統計調査にも利用されます。建設工事統計調査は主に国(国土交通省)が「建設工事及び建設業の実態を明らかにすることを目的」として行うもので、次の3種類が公表されています。
建設工事受注動態統計調査では、
が調査対象になります。把握された完成工事高は各種の経済施策・社会施策のための基礎資料や国の景況判断の指標となり、さらに企業が経営方針策定などを行う際の参考資料として提供されます。
参考:『建設工事関係統計』
建設工事施工統計調査では、
が調査対象になります。把握された完成工事高は国の経済政策や建設行政等に役立てられます。
参考:『建設工事関係統計』
建設総合統計は、建設工事受注動態統計調査と建築着工統計調査を基準に国内の建設工事の出来高を月別・地域別・発注者別・工事種類別等に推計したものです。
参考:国土交通省『情報化:建設総合統計』
完成工事高は建設業独自の勘定科目ですが、内容は一般的な「売上高」とほぼ同じで、特別難しいものではありません。ただし完成工事高は経営事項審査で重要な審査項目となるため、公共工事の受注を検討する場合は少しでも有利になるよう、受注する工事の内容や計上基準を工夫してみてください。