建設業界で働く人のために用意された退職金制度、「建退共(建設業退職金共済制度)」。名前くらいは知っていても、「どのような制度かよくわからない」という方も少なくないでしょう。
この記事では建退共の仕組みや事業者にとってのメリットなどについて、わかりやすく解説していきます。
建退共(正式名称:建設業退職金共済制度)とは、中小企業退職金共済法という法律に基づいて国が用意した建設業向けの退職金制度です。
建退共は「独立行政法人勤労者退職金共済機構」という国が設置した機関によって運営されています。
建設事業者がこの機構と退職金共済契約を結び、労働者が働いた日数に応じた掛金を納付することで、労働者が「建設業界から退職」する際に機構から直接退職金が支払われます(退職金の申請には10ヶ月以上の加入期間が必要)。
特に注目すべきポイントは、共済の掛金は特定の会社で働いた期間(日数)ではなく、建設業界の労働者として働いた期間すべてについて支払うことができる点です。たとえ途中で勤務する会社が変わっても、建設業界内での転職であれば転職前前後の労働日数を通算できます。
建退共はいわば、個々の民間企業(建設事業者)ではなく「建設業界が支払う退職金」ということができるでしょう。
労働者が建退共に加入すると「建設業退職金共済手帳(建退共手帳)」という手帳が発行されます。掛金は事業者が「建設業退職金共済証紙(建退共証紙)」を購入し、労働者が提出する建退共手帳に日数分の証紙を貼り付けることによって支払われます。
建退共には、加入する労働者はもちろん、労働者を雇用する事業者にとってもメリットがあります。
まず最初に挙げられるメリットは「簡単・確実」という点です。建退共は労者退職金共済機構によって運営されるため、事業者の側で複雑な手続きを行う必要がありません。
また退職金の支払いは国の基準によって行われるため、透明性が高く、確実な支払いが期待できます。これは主に労働者にとってのメリットですが、そのぶん建退共に加入できる(機構と退職金共済契約を結んでいる)事業者は労働者にとって魅力的となるため、人材確保の面で有利です。
すでに説明しましたが、建退共は民間企業単位ではなく、建設業界として労働者に退職金を支払う制度です。つまり労働者が雇用される事業者が変わったとしても(転勤しても)、次に働く業界が建設業界なら加入期間が通算されます。
これは労働者にとって、より良い条件の雇用のために「転職しやすくなる」というメリットとなり、一方の事業者にとっては「退職金共済契約を結ぶことで労働者から選ばれやすくなる」というメリットになります。
建退共の掛け金は「建退共証紙の購入」という形で事業者がまとめて支払いますが、労働者が新たに加入する際(「建設業退職金共済手帳」が最初に交付される際)に国から50日分の証紙(総額16,000円分)が補助されます。
事業者が支払う掛金はすべて、法人の場合は「損金」、個人事業主では「必要経費」として扱われます。上記③と合わせて、事業者にとって大きな負担にならない点がメリットといえるでしょう。
公共工事を行う企業にとっては、特に大きなメリットとして「工事を受注しやすくなる」点が挙げられます。
まず、公共工事の入札に参加するには「経営事項審査(経審)」が必要です。経審では「経営規模・経営状態・技術力・その他の項目」の4項目が点数化されますが、特に「その他の項目」では建退共に加入しているだけで「21点の加点」となります。
ただし単に機構と共済契約を結んでいるだけでは不十分で、実際に証紙の購入や手帳の更新、毎年の契約更改などを行うことが必要です。
なお経審の仕組みと点数化の基準(加点評価を受ける方法)については、以下の関連記事もお読みください。
関連記事:経営事項審査(経審)とは?取得の流れから結果の見方、点数の仕組みまで解説
関連記事:経審の点数をアップさせるには?5つの評点を上げるコツや資格について解説
労働者向けのメリットとなりますが、建退共の加入者はレンタカーやホテルなどで割引を受けることができます。
事業者にとっては、こうした福利厚生制度があることで労働者から選ばれやすくなるでしょう。
建退共に加入するには、まず建設事業者が各都道府県にある勤労者退職金共済機構の建退共支部で加入手続を行います。手続きは対象となる労働者について「建設業退職金共済契約申込書」と「建設業退職金共済手帳申込書」を記入・提出するだけです。
なお手続時に費用は発生しません。費用が発生するのは建退共証紙の購入時になります。
従来は事業者が証紙を購入し、労働者の持つ手帳にそれを貼り付けることで掛金の納付が行われてきました(証紙貼付方式)。しかし2020年10月1日からはこれに加えて、「電子申請方式」も選べるようになっています。
電子申請方式の場合は事業者があらかじめ「退職金ポイント(電子掛金)」を購入しておき、月に一度、就労日数を電子申請専用サイトに報告することで就労日数に応じた掛金が納付されます。
電子申請方式を利用したい場合は、あらかじめ「電子申請方式申込書」の提出が必要です。
建退共の掛金は、労働者一人につき1日あたり320円です(2022年6月現在)。
証紙貼付方式の場合、事業者はあらかじめ建退共証紙を購入しておき、少なくとも月に一回、労働者が働いた日数に応じて証紙を手帳に貼り付け消印を押すことで納付の証明となります。
なお証紙には赤色のもの(労働者が300人以下又は資本金が3億円以下の中小事業主に雇われる労働者のための証紙)と青色のもの(労働者が300人を超え、かつ、資本金が3億円を超える大手事業主に雇われる労働者のための証紙)があり、それぞれに1日券と10日券があります。
電子申請方式の場合はペイジーまたは口座振替で退職金ポイントをまとめて購入し、専用サイトから手続きをすることで納付が行われます。
建退共の契約を行うのは、建設業を営む事業者です。総合職や専門職、元請・下請の区別はありません。また建設業が専業でなくても(兼業であっても)契約できますし、建設業許可を受けていない事業者でも契約可能です。
なお建設事業者が外国法人の場合、日本国内で建設業を営んでいれば加入できます。
建退共に加入できる労働者に制限はありません。建設事業者が機構と退職金共済契約を結んでさえいれば、大工・左官・とび・土木・電工・配管工・塗装工といった職種にかかわらず、また日払労働者か月給労働者かにも関係なく、すべての労働者が加入できます。もちろん外国人労働者でも国籍を問わず加入できますし、現場で働く事務員やガードマン、炊事婦、運転手の加入も可能です。
なお加入はあくまで事業者経由で行うため、共済契約を結んでいない事業者の下で、労働者個人が直接加入申請を行うことはできません。
いわゆる一人親方でも建退共の加入は可能です。ただし個人として加入することはできないため、任意組合を作るか任意組合への加入が必要になります。
この場合は任意組合が「事業主」として共済契約を結び、組合員である一人親方はその組合の「労働者」として建退共に加入します。
今回は建退共という制度の特徴やメリット、加入方法を説明しました。特に建設事業者にとって、建退共は手続きがシンプルで負担が少なく、「事業者としての魅力向上」と「公共工事の契約に有利」という大きなメリットがありました。これから建設業に参入する事業者はもちろん、まだ建退共の契約をしていない建設事業者も、ぜひ制度の利用を検討してみてください。