地球温暖化が国際的な課題となる中、国内の建設業界でも「省エネ」への関心が高まっています。この記事では平成27年(2015年)に制定され、令和3年(2021年)に改正された「建築物省エネ法」について解説していきます。
建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)とは、建築物の省エネ性能を向上させるために設けられた建物建築に関するルールです。
建築物省エネ法は、
の2種類で構成されています。
現代社会で消費されるエネルギーのうち、3分の1を占めるのは建築物によって消費されるエネルギーです。
そこで日本政府は温室効果ガス排出量の削減を目的とする「パリ協定」(2016年11月発効)と、自ら掲げた「2030年度に向けて、家庭・業務における消費エネルギーを40%減らす」という目標達成に向けて、建築物のエネルギー消費性能の向上に力を入れています。
温暖化対策はもちろん、東日本大震災以降ひっ迫する日本のエネルギー需給を安定させるためにも、今後一層、官民を挙げて積極的な省エネへの取り組みが求められていくことでしょう。
建築物省エネ法について理解するには、まず前提となる建物の基準をおさえておく必要があります。
まず建物の種類は「住宅・非住宅」で区別されます。このうち非住宅とはオフィスビルやテナントビルなど、住居以外の目的で使用される建物のことです。
次に建物の規模は「小規模・中規模・大規模」の3段階に分けられます。小規模は300㎡未満、中規模は300㎡以上2,000㎡未満、大規模は2,000㎡以上です。
建築物省エネ法では、一定規模以上の建物を「省エネ基準」に適合させることを義務付けています。この省エネ基準は住宅と非住宅で次のように分けられます。
建築物省エネ法の2本柱のひとつ「規制措置」は、建設業者などに対する「義務」規定です。対象となるのは原則としてすべての建物ですが、種類(住宅・非住宅)や規模によって、
のいずれかに分けられています(ここでは令和3年4月に施行された改正省エネ法について説明していきます)。
適合義務とは、「中規模以上の非住宅」の新築や増改築時に、建築物省エネ法の基準に適合させることです。具体的には「建築確認(省エネ適判)」や完了検査の際に、省エネ基準への適合等の審査を受ける必要があります。
もし省エネ基準に適合していないと判断されたり、必要な手続きや書面の整備等を怠った場合は、確認済証や完了検査済証が発行されず着工や開業が遅延する可能性があります。
届出義務とは、「中規模以上の住宅」の新築や増改築時に、省エネ計画の届出を義務付けるものです。もし提出された計画が省エネ基準に適合しない場合は、所管行政庁は計画の変更を指示、もしくは命令できます。
省エネ計画の届出は「着工の21日前」までに行う必要がありますが、届出の際に民間審査機関による評価書を提出する場合は「着工の3日前」までに短縮されます。
説明義務とは「小規模の住宅・非住宅」の新築や増改築時に、建築士から建築主(施主)に対して省エネ基準への適否(適合しない場合は省エネ性能確保のための措置)に関する書面での説明を義務付けるものです。
なお建築主に交付した書面は、建築士事務所の保存図書に追加されます。
建築物省エネ法には、ハウスメーカーや工務店など建築戸建住宅を販売する事業主に省エネ基準よりも高い水準を求める「住宅トップランナー制度」が設けられています。
住宅トップランナー制度の対象となる事業者と、それぞれの要求水準は以下の通りです。
対象:年間300戸以上供給する事業者
外皮基準:全ての住戸が省エネ基準に適合
1次エネ基準:省エネ基準−25%(当面は−20%)
対象:年間1,000戸以上供給する事業者
外皮基準:全ての住戸が省エネ基準に適合
1次エネ基準:省エネ基準−10%
対象:年間150戸以上供給する事業者
外皮基準:全ての住戸が省エネ基準に適合
1次エネ基準:省エネ基準−15%
建築物省エネ法のもう一つの柱「誘導措置」は「任意」規定です。新築や増改築を含むすべての建物を対象に、また建築物への空気調和設備等の設置・改修を対象に、
を適用します。
省エネ向上計画の認定制度とは、所管行政庁が設計図書や認定申請書、第三者の省エネ判定機関による技術的審査適合証・設計住宅性能評価書などで書類審査を行い、建物の省エネ性能を評価・認定する制度です。
審査は任意ですが、受ける場合は着工前に書類を提出する必要があります。
省エネ性能が優れていると認められた建物については「容積率の特例」を受けられるほか、2016年4月1日以降に建築された住宅が建築物省エネ法の「エネルギー消費性能に係る誘導基準」と「熱性能基準」を満たした場合は、一定期間金利が引き下げられる【フラット35】S(金利Aプラン)を利用できます。
エネルギー消費性能の表示制度とは、エネルギー消費性能基準に適合していることを「マーク」で建築物や広告に表示できる制度です。
表示(マーク)には、大きく分けて2種類あります。
省エネ法第7条に基づくもので、対象となる建物が国が定める基準以上の省エネ性能を持っていることをアピールします。
国土交通省のガイドラインでは自己評価と第三者認証の両方が認められていますが、このうち第三者認証として例示されているのが「BELS」です。「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」とは、一般社団法人住宅性能評価・表示協会による認証制度で、建築物の省エネルギー性能を5段階の星マークで表示します。
省エネ法第36条に基づくもので、対象となる新築の建物が国が定める省エネ基準を満たしていることをアピールします。
表示できるマークは「eマーク(省エネ基準適合認定マーク)」です。eマークはあくまで「基準を満たしている」ことを証明するものなので、BELSのような段階評価(ランク分け)はありません。
BELSもeマークも、取得することで省エネ性能を客観的に表示できるため、将来売却する際に有利な材料になると期待できます。
建築物省エネ法には他にも、
などの制度が用意されています。特に後者については、いくつかの自治体で「気候風土適応住宅」への認定制度(補助金制度)も始まっており、今後ますます注目が高まると予想されます。ハウスメーカーなどにとっても、大きなビジネスチャンスになっていく可能性があるでしょう。
建築物省エネ法は、住宅・非住宅を手掛ける事業者にとって非常に重要な制度です。特に「適合・届け出・説明」の3つの義務規定をしっかり守ることは、建築主はもちろん国や社会に対する責任とされています。環境問題やエネルギー問題がこれまでにないほど関心を集めている今日、自社の企業価値を守るためにも建築物省エネ法の内容や、国や業界の動きに注目していきましょう。