入札に関連する課題のひとつが「談合」です。談合は犯罪行為とされており、厳しい処罰の対象となります。
今回は発注者側である国や地方自治体の職員が関わる「官製談合」と、それを規制する「官製談合防止法」について解説していきます。
官製談合防止法とは、入札参加者の談合に発注者側が関与することを防止する目的で制定された法律です。施行されたのは2003年ですが、2006年の改正によって罰則が追加されました。
ちなみに正式名称は「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」です。
官製談合防止法では発注機関が関わる一定の行為を「入札談合関与行為」と定義しています。それに該当する行為が認められた場合、公正取引委員会が発注機関に改善措置を求めるとともに、談合に関わった職員に罰則が適用されます。
改善措置を求められた発注機関は調査内容や改善措置の内容を公正取引委員会に通知しなければなりません。また談合に関与した職員に故意や重過失があれば損害賠償を求めます。
官製談合防止法の対象となる発注機関は以下の3者です。
なお3番目の特殊法人とは、
のことで、たとえば「日本郵政株式会社」などが該当します。
官製談合防止法によって禁止される「入札談合等関与行為」は、以下の4パターンのいずれかです。
これらの行為は、一般競争入札や指名競争入札だけでなく、指名見積合せ(複数の事業者を指名して見積りを徴収し、示された金額を比較して契約先を決定する随時契約の一種)においても禁止されます。
官製談合防止法の規定に違反した「職員」には、『5年以下の懲役』または『250万円以下の罰金』が科されます。
入札談合等関与行為が確認された場合、公正取引委員会は発注機関に「改善措置」を要求できます。改善措置を求められた発注機関は、自ら事実関係を調査したうえで必要な改善措置を講じなければなりません。そして改善措置の内容を公表し、公正取引委員会に通知を行います。
改善措置の内容については、法律上に具体的な規定はありません。ちなみに過去の違反事例では以下のような措置が講じられています。
官製談合防止法が制定されるきっかけとなったのは、1999年に摘発された北海道上川支庁発注の農業土木工事等談合事件です。この事件は業者同士の談合に発注機関である北海道が関与するという「官製談合」でしたが、当時の独占禁止法では事業者に対する処分(排除勧告)しか行うことができず、北海道に対しては「改善要請」をするにとどまりました。
こうした「不公平」を受けて官製談合への社会的批判が高まった結果、議員立法として法律案がまとめられ、2002年に成立したのが「入札談合等関与行為の排除及び防止に関する法律」です(施行は2003年)。
しかし施行後も官製談合事件は後を絶たず、2006年に職員に対する罰則を設けてより強制力を持たせた改正法が「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」として成立しました(施行は2007年)。
官製談合防止法が規制するのは「官製談合」ですが、そもそも談合という言葉には「話し合い」という意味もあります。
では事業者同士が話し合う入札談合や、それに発注機関が関与する官製談合は、なぜ規制されなければならないのでしょうか。
談合という行為は、一面では入札手続をスムーズにします。このため厳しく制限されるほど「悪いことではない」と考える人もいるかもしれませんが、実際には談合は公正な競争を妨げ、税金の無駄づかいにつながる悪質な行為です。
そもそも談合行為の目的は、特定の事業者が「できるだけ高額で落札する」ことです。談合に加わる事業者は持ち回りで落札者を決め、発注者が決めた最低落札価格よりも「大幅に上乗せした金額」で入札するように取り決めます。
結果として「入札」本来の目的である競争がなくなり、技術向上やコストの削減といった経営努力が行われなくなるばかりか、税金がムダに使われることになるのです。
つまり談合は「業界の発展を阻害」し、「公共のメリットを損なう」非常に悪質なルール違反といえます。
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事業者同士の談合や官製談合を規制する法律や「罪名」にはさまざまなものがあります。ここでは官製談合防止法以外について紹介します。
独占禁止法第3条は、事業者同士の入札談合を処罰する規定です。談合が行われた場合、担当者個人には「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」、法人に対しては「5億円以下の罰金」が科されます。
「公正な価格を害し、または不正な利益を得る目的で談合した者」は談合罪で処罰されます。ちなみに「公正な価格」とは談合がなかった場合の落札価格、「不正な利益」とは談合によって得られる、社会通念上不当に高額な経済的利益のことです。
談合罪は談合(話し合い)の時点で成立し、実際の入札で必ずしもその通りの行動が行われる必要はありません。有罪とされた場合は「3年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金、もしくはその両方」が科されます。
公務員が職務に関して賄賂を受け取った場合、公務員側には「収賄罪」が、賄賂を送った側には「贈賄罪」が成立します。もちろん、官製談合に関わった職員が見返りを得ていた場合もこれらの対象です。
収賄罪で有罪となった場合、単純収賄なら「5年以下の懲役」、加重収賄なら「1年以上の有期懲役(最長20年)」が科され、贈賄罪には「3年以下の懲役または250万円以下の罰金」が科されます。
発注機関の職員が入札の予定価格などを漏らした場合は「公契約関係競売等妨害罪」が成立します。なお実際に談合が行われなくても(談合罪が成立しなくても)、公契約関係競売等妨害罪は成立する可能性があるため要注意です。
有罪となった場合は「3年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金、もしくはその両方」が科されます。
残念ながら官製談合防止法が成立した後も、現在にいたるまで官製談合は後を絶ちません。ここでは近年発生した官製談合事件のいくつかを紹介します。
国土交通省の職員が、水門設備工事の落札予定者についての意向を「世話役」等と称する事業者に示していた事件。平成19年3月8に国土交通大臣に対し改善措置を要求。
防衛施設庁の職員が、入札の執行前に落札予定者の割り振りを行い、その結果を窓口役の同庁OBに伝達していた事件。平成19年6月20日に防衛施設庁に対して通知。
国土交通省の職員が、指名競争入札に係る指名通知の前に当該入札に係る指名業者の名称又は当該入札の実施を予定する事務所等の名称等を教示していた事件。平成21年6月23日に国土交通大臣に対し改善措置を要求。
防衛省の職員が、防衛省航空自衛隊が発注する什器類について納入予定メーカーについての意向を事業者に漏洩した事件。平成22年3月30日に防衛大臣に対し改善措置を要求。
国土交通省(土佐国道事務所)の職員が総合評価落札方式によって発注する特定一般土木工事の入札参加業者の名称、入札参加業者の評価点、予定価格等の未公表情報を漏洩した事件。平成24年10月17日に国土交通大臣に対し改善措置を要求。
岩見沢市の職員が、建設工事の落札予定者の名称と工事の設計金額等を業界団体の役員などに漏洩した事件。平成15年1月30日に岩見沢市長に対し改善措置を要求。
新潟市の職員が、建設工事の設計金額を入札前に漏洩していた事件。平成16年7月28日に新潟市長に対し改善措置を要求。
札幌市の職員が、下水処理施設に係る特定電気設備工事の「落札予定者についての意向」を落札予定者に漏洩していた事件。平成20年10月29日に札幌市長に改善措置を要求。
青森市の特別理事が、特定土木一式工事について事業者から提示された「組み合わせ案」を青森市契約課に示し、指名業者の組合せを指示していた事件。平成22年4月22日に青森市長に対し改善措置を要求。
茨城県の職員が、特定土木一式工事の「落札予定者についての意向」を建設業協会の支部長に漏洩した事件。および特定の事業者からの要望を受けて、特定舗装工事についてあらかじめ定められた順番で指名業者を選定していた事件。平成23年8月4日に茨城県知事に対し改善措置を要求。
東京都の職員が、見積り合わせ参加業者のうち特定の事業者の従業者に対して予定単価に関する情報を漏洩した事件。令和元年7月11日に東京都知事に対し改善措置を要求。
日本道路公団の役員が、同公団OBから受けた落札予定者の「割付表」を承認し、またOBの要請を受けて工事の発注基準を「15億円以上」から「10億円以上」に引き下げていた事件。平成17年9月29日に日本道路公団総裁に対し改善措置を要求。
緑資源機構の職員が、林道調査測量設計業務の落札予定者をあらかじめ選定し、入札前に落札予定者に伝えていた事件。平成19年12月27日に緑資源機構に対して通知。
鉄道建設・運輸施設整備支援機構の職員が、入札参加を予定していた事業者の一部に、予定価格に関する情報を漏洩していた事件。平成26年3月19日に鉄道建設・運輸施設整備支援機構理事長に対し改善措置を要求。
官製談合はいまだに後を絶ちません。しかし談合が発覚すれば、発注機関の職員だけでなく、談合に参加した事業者も談合罪などで厳しく処罰されます。自社と業界の健全な発展のためにも、ルールに則った入札参加を心がけていきましょう。