請負金額が一定以上の工事を行う場合に必要となる「監理技術者」。
この記事では監理技術者の役割と、監理技術者になるための要件、そして2020年の法改正で新設された「特例監理技術者」と「監理技術者補佐」について説明します。
一般的な建設工事では、工事現場に主任技術者の設置が義務付けられています。ただし建設工事が一定の条件を満たす場合は主任技術者に代えて監理技術者の設置が義務付けられています。
この「一定の条件」について、建設業法の規定は次の通りです。
建設業法第26条第2項 発注者から直接建設工事を請け負った特定建設業者は、当該建設工事を施工するために締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が2以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が第3条第1項第2号の政令で定める金額以上になる場合においては、前項の規定にかかわらず、当該建設工事に関し第15条第2号イ、ロまたはハに該当する者(当該建設工事に係る建設業が指定建設業である場合にあっては、同号イに該当する者または同号ハの規定により国土交通大臣が同号イに掲げる者と同等以上の能力を有するものと認定した者)で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「監理技術者」という。)を置かなければならない。 |
わかりやすく説明すると、
のみ、監理技術者が必要になります。③の「第3条第1項第2号の政令で定める金額」とは、具体的には1件あたり4,000万円(建築一式工事の場合は6,000万円)とされています。
監理技術者の役割は次の5つです。
さらに、①の施工計画では以下の5項目について検討を行います。
監理技術者は作成した計画に従って、工事の工程や品質・安全の確保を行わなくてはなりません。
監理技術者とよく似ているのが主任技術者です。基本的にはすべての工事に主任技術者が必要とされていて、工事が一定条件を満たす場合のみ、主任技術者に代えて監理技術者が置かれます。
それぞれの役割や制限・義務、必要(国家)資格の違いは以下の通りです。
監理技術者 | 主任技術者 | |
---|---|---|
役割 | ・施工計画の策定・実行 ・工事の工程監理 ・工事の品質管理 ・工事の安全監理 ・下請の指導監督 | ・施工計画の策定・実行 ・工事の工程監理 ・工事の品質管理 ・工事の安全監理 |
制限・義務 | ・直接雇用の正社員であること ・一つの工事現場に専任であること ※例外あり(※1、※3) | ・直接雇用の正社員であること ・一つの工事現場に専任であること ※例外あり(※2、※3) |
国家資格 | ・1級土木施工管理技士 ・1級建築施工管理技士 ・1級建築士等の有資格者 ・監理技術者講習修了者 | ・2級土木施工管理技士 ・2級建築施工管理技士 ・2級建築士等の有資格者 |
※1:監理技術者補佐を専任で置く工事現場は兼任可能(最大2件)
※2:公共性のある重要な工事で、同一の建設業者が請け負い、工事現場が同じ(もしくは近接する)工事は兼任可能
※3:工期が重なり、工事対象に一体性が認められる複数の工事は兼任可能(まとめて1つの工事として扱う)
関連記事『主任技術者・監理技術者とは?資格・要件・役割などの違いのわかりやすいまとめ』
監理技術者になるためには「資格」が必要です。資格には大きく分けて
①1級国家資格等を取得する
②一定の学歴や資格と実務経験を組み合わせる
のいずれかで、これらに加えて
③監理技術者講習を受講する
必要があります。①と②のどちらが必要かは建設業の「業種」によって変わるため、監理技術者になれる人を雇用する、もしくは社員を監理技術者にする場合は注意してください。
1級国家資格等が必要なのは「指定建設業」と呼ばれる7業種です。指定建設業の7業種で監理技術者になるには、表に示した国家資格のいずれかが必要になります。
土木工事業 | 1級土木施工管理技士、1級建設機械施工技士、技術士 |
建築工事業 | 1級建築施工管理技士、一級建築士 |
電気工事業 | 1級電気工事施工管理技士、第1種電気工事士、1級計装士、技術士 |
管工事業 | 1級管工事施工管理技士、1級計装士、技術士 |
鋼構造物工事業 | 1級土木施工管理技士、1級建築施工管理技士、一級建築士、技術士 |
舗装工事業 | 1級土木施工管理技士、1級建設機械施工技士、技術士 |
造園工事業 | 1級造園施工管理技士、技能検定造園技能士、技術士 |
指定建設業を除く以下の22業種では、一定の学歴や資格と実務経験の組み合わせによって監理技術者になることができます。
大工工事 | 防水工事 |
左官工事 | 内装仕上工事 |
とび・土木・コンクリート工事 | 機械器具設置工事 |
石工事 | 熱絶縁工事 |
屋根工事 | 電気通信工事 |
さく井工事 | タイル・れんが・ブロック工事 |
鉄筋工事 | 建具工事 |
しゅんせつ工事 | 水道施設工事 |
板金工事 | 消防施設工事 |
ガラス工事 | 清掃施設工事 |
塗装工事 | 解体工事 |
具体的な学歴・資格と実務経験の組み合わせは次の通りです。
なお「指導監督的実務経験」とは、「建設工事の設計又は施工の全般について、工事現場主任者又は工事現場監督者のような資格で工事の技術面を総合的に指導監督した経験」を指します。
学歴または資格 | 実務経験 | 指導監督的実務経験 | |
---|---|---|---|
イ | 大学・短期大学・高等専門学校 (5年制)を卒業し、かつ指定学科を履修した者 | 卒業後3年以上 | 2年以上(左記年数と重複可) |
高校を卒業し、かつ指定学科を履修した者 | 卒業後5年以上 | ||
ロ | 技術検定2級または技能検定1級等を有している者※1 | ― | 2年以上 |
平成16年3月31日以前に技能検定2級等を有している者※2 | 合格後1年以上 | 2年以上(左記年数と重複可) | |
平成16年4月1日以降に技能検定2級等を有している者※2 | 合格後3年以上 | ||
電気通信主任技術者資格者証を有している者 | 合格後5年以上 | ||
ハ | 上記イ・ロ以外の者 | 10年以上 | 2年以上(左記年数と重複可) |
※1:2級建築士、消防設備士(甲種乙種)を含む
※2:地すべり防止工事試験合格者、地すべり防止工事士を含む
監理技術者講習とは、監理技術者の職務を行う上で必要な知識や法律制度、建設技術の動向などを学ぶ研修です。監理技術者研修を修了した人には「修了証(講習修了履歴)」を交付されます。
監理技術者になるまでの「流れ」と、監理技術者になった後の「有効期限」を時系列で確認しましょう。
まずは必要資格をクリアする必要があります。自社が行う工事の業種に応じて、「1級国家資格等」か「学歴・資格+実務経験」のいずれかを満たしてください。
次に「一般社団法人建設業技術者センター」に資格者証交付申請を行います(申請は監理技術者講習の受講後でも構いません)。
申請は書面申請とインターネット申請の2種類です。いずれかの方法で提出した書類に問題がなければ「監理技術者資格者証」が交付されます。
なお監理技術者として現場に専任配置される際は、常に監理技術者資格者証を携帯することが義務付けられています。
監理技術者講習は、国土交通大臣の登録を受けた実施機関に申し込んで受講します。2022年8月現在、登録実施機関は次の通りです。
名称 | 所在地 | 電話番号 |
---|---|---|
(一財)全国建設研修センター | 東京都小平市喜平町2-1-2 | 042-300-1741 |
(一財)建設業振興基金 | 東京都港区虎ノ門4-2-12 | 03-5473-1586 |
(一社)全国土木施工管理技士会 | 東京都千代田区五番町6-2 | 03-3262-7423 |
(株)総合資格 | 東京都新宿区西新宿1-26-2 | 03-3340-3081 |
(株)日建学院 | 東京都豊島区池袋2-38-2 | 03-3988-1175 |
(公社)日本建築士会連合会 | 東京都港区芝5-2-20 | 03-3456-2061 |
講習の内容は以下の通りで、すべて1日間(6時間)にまとめて行われます。
なお講習後に交付される「修了証」は、監理技術者資格者証の裏面に貼り付けます。
監理技術者資格証と監理技術者講習には、それぞれ有効期限があります。
どちらの有効期限が切れても監理技術者にはなれないため、有効期間内の更新申請(監理技術者資格証の場合)や再受講(監理技術者講習の場合)を忘れないよう注意が必要です。
詳しくは『監理技術者を更新するには?有効期限が切れた場合についても解説』もお読みください。
これまで「兼任」が認められていなかった監理技術者ですが、法改正により2020年10月1日から条件付きで兼任が認められるようになりました。兼任が認められた監理技術者は「特例監理技術者」と呼ばれます。
関連記事『専任義務があった「監理技術者」が兼任OKに緩和!変更点や条件を詳しく解説』
監理技術者の兼任が認める要件は「監理技術者を補佐する者を当該工事現場に専任で置く」ことです。この「補佐する者」は「監理技術者補佐」といいます。
監理技術者補佐になるためには、以下のいずれかの資格が必要です。
ちなみに1級技士補の資格とは、国土交通省が実施する1級技術検(1級土木施工管理技術検定など)で、第一次検定に合格した人に与えられる資格です。
その他、監理技術者補佐についての詳しい内容は『監理技術者補佐のメリットとは?資格要件や注意点についてわかりやすく解説』をお読みください。
監理技術者になるための「資格」は、簡単に取得できるものではありません。監理技術者の設置が必要な工事の受注を予定している場合は、できるだけ早いうちから採用活動や社員の育成に取り組むことをおすすめいたします。