監理技術者制度を適切に運用するため、国土交通省が作成している「監理技術者制度運用マニュアル」。行政側の指針として使われるだけでなく、建設業者にとっても参考にすべき内容となっています。
今回は監理技術者制度運用マニュアルの要点を「事業者目線」で説明します。
本マニュアルは、建設業法上重要な柱の一つである監理技術者制度を的確に運用するため、行政担当部局が指導を行う際の指針となるとともに建設業者が業務を遂行する際の参考となるものである。 |
監理技術者制度運用マニュアル(以下、マニュアル)には2つの役割が与えられています。
一般的な建設工事では工事現場に主任技術者を、さらに一定要件を満たした工事については主任技術者に代えて監理技術者を配置することが義務付けられています。
マニュアルはそのような建設事業者にとっての重要な指針です。なお主任技術者と監理技術者の違いやそれぞれの設置要件については『主任技術者・監理技術者とは?資格・要件・役割などの違いのわかりやすいまとめ』をご覧ください。
それではさっそく、マニュアルの各項目のポイントを見ていきましょう。
発注者から直接建設工事を請け負った建設業者(以下「元請」という)は、施工体制の整備及び監理技術者等の設置の要否の判断等を行うため、専門工事業者等への工事外注の計画(工事外注計画)を立案し、下請契約の請負代金の予定額を的確に把握しておく必要がある。 |
元請として工事を請け負う際は、あらかじめ工事外注計画を立案して「外注する範囲」と「下請金額の合計」を割り出しておく必要があります。これは監理技術者の設置が必要になるかどうかを判断するためです。
発注者から直接建設工事を請け負った特定建設業者は、下請契約の予定額を的確に把握して監理技術者を置くべきか否かの判断を行うとともに、工事内容、工事規模及び施工体制等を考慮し、適正に技術者を設置する必要がある。 |
工事外注計画で監理技術者が必要と判断された場合はもちろん、条件が流動的で判断が難しい場合も「工事途中の技術者の変更が生じないよう」監理技術者の資格を持つ技術者を配置しておくべきです。
また工事の規模や難易度によっては下請契約の金額に関係なく、高度な技術力を持つ技術者(監理技術者の有資格者)の配置が望ましいでしょう。
なお主任技術者や監理技術者(特例監理技術者、監理技術者補佐を含む)の配置は1現場あたり1名が望ましいとされています。
関連記事『専任義務があった「監理技術者」が兼任OKに緩和!変更点や条件を詳しく解説』
共同企業体(JV)であっても、金額の要件を満たす限り監理技術者の設置が必要です(公共工事については金額に関係なく、原則として「特定建設業者たる代表者」が監理技術者を設置します)。
JVを構成する各企業がそれぞれ技術者を派遣する場合は、以下の点に留意が必要です。
当初は主任技術者を配置していたものの、工事の途中で下請契約の金額が一定額(4000万円。建築一式工事の場合は6000万円)以上となった場合は監理技術者の設置(変更)が必要です。またこのような変更があらかじめ予想できていた場合は、はじめから監理技術者の資格を持った技術者の配置が必要です。
主任技術者や監理技術者の途中交代は「慎重かつ必要最小限」にする必要があります。たとえば、技術者の死亡、傷病、出産、育児、介護または退職等といった「真にやむを得ない場合」や、
などは途中交代が認められ可能性が高いでしょう。
ちなみに監理技術者から特例監理技術者への変更あるいは特例監理技術者から監理技術者への変更は、工期途中での途中交代には該当しません(ただし事前に発注者の理解を得ておくことが重要です)。
専任の技術者は「営業所で勤務」している必要があります。
ただし工事現場と営業所が近接していて「当該営業所と常時連絡をとりうる体制にある」場合、特例としてその技術者は「専任を要しない監理技術者等」になれます(ただし所属建設業者と直接的かつ恒常的な雇用関係にある場合に限る)。
主任技術者、監理技術者又は特例監理技術者は、建設工事を適正に実施するため、施工計画の作成、工程管理、品質管理その他の技術上の管理及び施工に従事する者の技術上の指導監督の職務を誠実に行わなければならない。 |
監理技術者には「工事の施工に関する総合的な企画、指導等の職務」が与えられます。このため監理技術者にはより高度な技術力が求められますし、さらに特例監理技術者であれば監理技術者補佐を適切に指導することが必要です。
建設工事の適正な施工を確保するため、監理技術者等については、当該建設業者と直接的かつ恒常的な雇用関係にある者であることが必要であり、このような雇用関係は、資格者証又は健康保険被保険者証等に記載された所属建設業者名及び交付日により確認できることが必要である。 |
主任技術者や監理技術者には「所属建設業者と直接的かつ恒常的な雇用関係にある」ことが必要です。
技術者が建設業者と直接的な雇用関係にあるかどうかは、資格者証、健康保険被保険者証、市区町村が作成する住民税特別徴収税額通知書等で確認します。
なお在籍出向者や派遣社員は直接的な雇用関係があるとは認められません。
恒常的な雇用関係とは、具体的には「3ヶ月以上の雇用関係」のことです。3ヶ月以上の雇用関係があるかどうかは「資格者証の交付年月日や変更履歴」「健康保険被保険者証の交付年月日」等で確認します
建設業者に以下のような事情がある場合は、恒常的な雇用(3ヶ月以上の雇用関係)の取り扱いに特例が認められます。
主任技術者又は監理技術者は、公共性のある工作物に関する重要な工事に設置される場合には、工事現場ごとに専任の者でなければならない。特例監理技術者を設置する場合は、当該工事現場に設置する監理技術者補佐は専任の者でなければならない。法第二十六条の三の規定を利用して設置する特定専門工事の元請等の主任技術者は、専任の者でなければならない。専任とは、他の工事現場に係る職務を兼務せず、常時継続的に当該工事現場に係る職務にのみ従事していることをいう。元請については、施工における品質確保、安全確保等を図る観点から、主任技術者、監理技術者又は監理技術者補佐を専任で設置すべき期間が、発注者と建設業者の間で設計図書もしくは打合せ記録等の書面により明確となっていることが必要である。 |
主任技術者や監理技術者は「工事現場ごとに専任」であることが必要です。
ただし建設業者には、建設業におけるワーク・ライフ・バランスの推進や女性の一層の活躍の観点から監理技術者等が育児等のために短時間現場を離れることが可能な体制を確保するといった配慮が求められます。
専任の期間は「契約工期」が基本です。ただし契約工期中であっても、
については専任である必要はありません(ただしそのことを設計図書もしくは打合せ記録等の書面で明らかにしておきます)。
専任の監理技術者又は特例監理技術者は、資格者証の交付を受けている者であって、監理技術者講習を過去五年以内に受講したもののうちから、これを選任しなければならない。また、当該監理技術者又は特例監理技術者は、発注者等から請求があったときは資格者証を提示しなければならず、当該建設工事に係る職務に従事しているときは、常時これらを携帯している必要がある。また、監理技術者講習修了履歴(以下、「修了履歴」という。)についても、発注者等から提示を求められることがあるため、監理技術者講習修了後、修了履歴のラベルを資格者証の裏面に貼付することとしている。 |
専任の監理技術者(または特例監理技術者)は、「資格者証」の交付を受けており、さらに「監理技術者講習」を受講している技術者の中から選びます。
監理技術者・特例監理技術者は、発注者等から請求があった場合に資格者証を提示しなければなりません。資格者証の新規交付や更新を行っているのは、指定資格者証交付機関の「一般財団法人建設業技術者センター」です。
資格者証には技術者の顔写真に加え、以下の事項が記載されます。
監理技術者講習の有効期限は5年です(従来は受講日から5年でしたが、令和3年1月1日以降は「講習を受講した日の属する年の翌年の1月1日から5年後の12月31日まで」が有効期限になります)。
関連記事『監理技術者を更新するには?有効期限が切れた場合についても解説』
監理技術者補佐は監理技術者講習の受講が義務付けられていませんが、「受講が望ましい」とされています。
監理技術者講習を実施するのは国土交通大臣の登録を受けた登録講習機関です。登録講習機関の内訳や講習の内容については『監理技術者の役割と要件とは?特例監理技術者・監理技術者補佐についても解説』をお読みください。
発注者から直接建設工事を請け負った特定建設業者は、その工事を施工するために締結した下請金額の総額が四千万円(建築一式工事の場合は六千万円)以上となる場合には、工事現場ごとに監理技術者、特例監理技術者又は監理技術者補佐(特例監理技術者を設置する場合)を設置するとともに、建設工事を適正に施工するため、建設業法により義務付けられている施工体制台帳の整備及び施工体系図の作成を行うこと等により、建設工事の施工体制を的確に把握する必要がある。 |
特定建設業者は下請業者に対して「再下請負を行う場合は再下請負通知を行わなければならない」旨を通知し、通知内容を掲示しなければなりません。
下請業者から再下請通知書が提出されたら、それに基づいて施工体制台帳を作成し、工事現場ごとに備え付けます。また発注者から請求に応じて、施工体制台帳を閲覧できるようにします(公共工事の場合は閲覧ではなく写しを提出)。
また、施工体制が施工体制台帳の記載と合致しているかどうかを点検するよう発注者から求められた場合、それを拒否できません。
特定建設業者は「工事に関係するすべての建設業者名と技術者名等」を記載し、工事現場における施工の分担関係を明示した施工体系図を作成します。
施工体系図は工事現場の見やすい場所(公共工事の場合は工事関係者の見やすい場所と公衆の見やすい場所)に掲示しなければなりません。
建設工事の責任の所在を明確にすること等のため、発注者から直接建設工事を請け負った建設業者は、建設工事の現場ごとに、建設業許可に関する事項のほか、監理技術者等の氏名、専任の有無、資格名、資格者証交付番号等を記載した標識を、公衆の見やすい場所に掲げなければならない |
元請の建設業者は、建設工事の現場ごとに、公衆の見やすい場所に標識を掲示します。掲示内容は以下の通りです。
建設業法は、建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによって、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発展を促進し、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的に定められたものである。したがって、建設業者は、この法律を遵守すべきことは言うまでもないが、行政担当部局は、建設業法の遵守について、適切に指導を行う必要がある。 |
建設業法第1条には次のように規定されています。
この法律は、建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによつて、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進し、もつて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。 |
建設業者にはこの目的に留意し、建設業法の内容を守る義務があります。
この記事ではマニュアルの要点を、事業者目線で簡潔にピックアップしました。実際に主任技術者や監理技術者を置く場合は、この記事を手がかりにして「マニュアル本体」にも目を通してみることをおすすめいたします。