工事現場には原則として「主任技術者」の設置が必要です。
この記事では主任技術者が工事現場で果たす役割と、主任技術者になるための要件、そして例外的に主任技術者の設置義務が緩和される「専門工事一括管理施工制度」について開設します。
一般的な建設工事現場には、元請け・下請けにかかわらず主任技術者の設置が義務付けられています。建築業法第26条第1項の規定は次の通りです。
建設業者は、その請け負つた建設工事を施工するときは、当該建設工事に関し第七条第二号イ、ロ又はハに該当する者で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「主任技術者」という。)を置かなければならない。 |
条文の中にある「当該建設工事に関し第七条第二号イ、ロ又はハに該当する者」については、後ほど『主任技術者の要件の項目』で説明します。
主任技術者の具体的な役割については、建設業法第26条の4に書かれています。
主任技術者及び監理技術者は、工事現場における建設工事を適正に実施するため、当該建設工事の施工計画の作成、工程管理、品質管理その他の技術上の管理及び当該建設工事の施工に従事する者の技術上の指導監督の職務を誠実に行わなければならない。工事現場における建設工事の施工に従事する者は、主任技術者又は監理技術者がその職務として行う指導に従わなければならない。 |
役割の具体的な内容は次の4つです。
このうち①の施工計画を作成する際は、以下の5項目を検討しなければなりません。
主任技術者は作成した計画に従い、工事の工程や品質・安全の確保を行います。
主任技術者とよく似ているのが管理技術者です。この2つの技術者は、原則としてすべての工事に主任技術者を置き、工事が一定条件を満たす場合のみ主任技術者に代えて監理技術者を置くという関係にあります。
それぞれの役割や制限・義務、必要資格(国家資格)の違いは以下の通りです。
主任技術者 | 監理技術者 | |
---|---|---|
役割 | ・施工計画の策定・実行 ・工事の工程監理 ・工事の品質管理 ・工事の安全監理 | ・施工計画の策定・実行 ・工事の工程監理 ・工事の品質管理 ・工事の安全監理 ・下請の指導監督 |
制限・義務 | ・直接雇用の正社員であること ・一つの工事現場に専任であること ※例外あり(※1、※3) | ・直接雇用の正社員であること ・一つの工事現場に専任であること ※例外あり(※2、※3) |
国家資格 | ・2級土木施工管理技士 ・2級建築施工管理技士 ・2級建築士等の有資格者 | ・1級土木施工管理技士 ・1級建築施工管理技士 ・1級建築士等の有資格者 ・監理技術者講習修了者 |
※1:公共性のある重要な工事で、同一の建設業者が請け負い、工事現場が同じ(もしくは近接する)工事は兼任可能
※2:監理技術者補佐を専任で置く工事現場は兼任可能(最大2件)
※3:工期が重なり、工事対象に一体性が認められる複数の工事は兼任可能(まとめて1つの工事として扱う)
関連記事『主任技術者・監理技術者とは?資格・要件・役割などの違いのわかりやすいまとめ』
先ほど引用した建築業法第26条第1項の中では主任技術者になることができる者として「当該建設工事に関し第七条第二号イ、ロ又はハに該当する者」と書かれていました。実は、この「第七条第二号イ、ロ又はハ」は建設業許可に必要な「専任技術者」になるための要件の一部です。
関連記事『建設業許可とは?取得要件や種類、申請の流れなどを解説します』
具体的に説明すると、まず「イ」は高校か中学校を卒業して5年以上の実務経験がある人、もしくは大学(短大を含む)か高等専門学校を卒業して3年以上の実務経験がある人を指します。つまり「学歴+実務経験」です。
次に「ロ」に該当するのは、10年以上の実務経験がある人です。この場合は「実務経験のみ」でOKとなります。
最後の「ハ」は国土交通大臣が認定した人のことです。これには「1級および2級の国家資格等」に合格した人(一部の資格は実務経験も必要)と「登録基幹技能者」が含まれます。
それぞれについてもう少し詳しくみていきましょう。
学歴と実務経験の組み合わせは次の通りです。
学歴 | 実務経験(年数) |
---|---|
高校の指定学科を卒業 | 5年以上 |
高等専門学校の指定学科を卒業 | 3年以上 |
大学の指定学科を卒業 | 3年以上 |
上記以外の学歴 | 10年以上 |
なお「指定学科」は建設業の種類ごとに指定されています。
許可を受ける建設業 | 指定学科 |
---|---|
土木工事業 舗装工事業 | 土木工学(農業土木、鉱山土木、森林土木、砂防、治山、緑地または造園に関する学科を含む。以下同じ)都市工学、衛生工学または交通工学に関する学科 |
建築工事業 大工工事業 ガラス工事業 内装仕上工事業 | 建築学または都市工学に関する学科 |
左官工事業 とび・土工工事業 石工事業 屋根工事業 タイル・れんが・ブロック工事業 塗装工事業 解体工事業 | 土木工学または建築学に関する学科 |
電気工事業 電気通信工事業 | 電気工学または電気通信工学に関する学科 |
管工事業 水道施設工事業 清掃施設工事業 | 土木工学、建築学、機械工学、都市工学または衛生工学に関する学科 |
鋼構造物工事業 鉄筋工事業 | 土木工学、建築学または機械工学に関する学科 |
しゅんせつ工事業 | 土木工学または機械工学に関する学科 |
板金工事業 | 建築学または機械工学に関する学科 |
防水工事業 | 土木工学または建築学に関する学科 |
機械器具設置工事業 消防施設工事業 | 建築学、機械工学または電気工学に関する学科 |
熱絶縁工事業 | 土木工学、建築学または機械工学に関する学科 |
造園工事業 | 土木工学、建築学、都市工学または林学に関する学科 |
さく井工事業 | 土木工学、鉱山学、機械工学または衛生工学に関する学科 |
建具工事業 | 建築学または機械工学に関する学科 |
学歴や資格がなくても、工事現場で10年間の実務経験があれば主任技術者になることができます。
1級および2級の国家資格、たとえば「一級建築士」や「二級施工管理技士」といった資格を持っていれば、実務経験がなくても主任技術者に認められます。
ちなみに「技能検定」や一部の民間資格でも主任技術者になれますが、その場合は1年、もしくは3年以上の実務経験が必要です。
資格にはさまざまな種類があります。詳しくは国土交通省の『営業所専任技術者となり得る国家資格等一覧』をご覧ください。
登録基幹技能者とは、国土交通大臣が登録した機関が実施する登録基幹技能者講習を修了した人のことです。登録基幹技能者講習の受講には、以下の要件のいずれかが必要とされています。
要件を満たした人を主任技術者として工事現場に置く場合、以下の点に注意が必要です。
主任技術者は、工事を担当する事業者と「直接的かつ恒常的な雇用関係」がなくてはなりません。わかりやすくいうと「直接雇用された正社員である」ということです。
なお次に説明する「専任」の主任技術者の場合、「3か月以上」の雇用関係が必要とされています。
主任技術者は、公共性のある工事で、工事1件の請負金額が3,500万円(建築一式は7,000万円)以上のものについては専任が必要です。つまり工事現場の兼任(掛け持ち)はできません。
ここでいう「公共性のある工事」には、公共工事をはじめさまざまな工事が含まれます。実際には個人の住宅等を除くほぼすべての工事がこれに当てはまるといえるでしょう。
なお公共性のある工事であっても、「同一の建設業者が請け負い、工事現場が同じ(もしくは近接する)工事」は例外的に兼任が認められます。
また「工期が重なる」「工事対象に一体性が認められる」複数の工事は「まとめて一つの工事」とみなされるため、やはり兼任が可能です。
専門工事一括管理施工制度とは、一言でいうと「下請の主任技術者の配置が不要になる」特例です。不要になる要件は「建設業法第26条の3」と「建設業法施行令第30条」に書かれていますが、簡単にまとめると以下のようになります。
これらの要件をすべて満たす場合、下請業者は主任技術者を置く必要がありません。この制度についての詳しい情報は『主任技術者の設置が不要なケースとは?専門工事一括管理施工制度の要件を解説』もお読みください。
建設業者として工事に参加する以上、主任技術者は必要不可欠な存在です。ぜひこの記事の内容を参考にして、必要な人材を確保してください。