多くの一般企業で当たり前のように採用されている「週休2日制」。しかし建設業界では週休2日制が十分に広まっているとはいえません。
この記事では週休2日が建設業界に与えるメリットと、週休2日制の導入促進に向けた国の取り組みについて解説します。
近年、建設業界では週休2日制に注目が集まってきました。国や自治体はもちろん、業界団体の日本建設業連合会(日建連)などもそれぞれの立場から独自の取り組みを進めており、数年以内の週休2日制導入を目指しています。
20221年の時点で、週休2日、つまり「4週8閉所」を達成できている現場は全体の4割弱(37.9% )にとどまります(日建連『週休二日実現行動計画 2021 年度通期 フォローアップ報告書』より)。
2019年の26.3%よりは大きく進歩しましたが、それでも他業種では週休2日が標準であることを考えると、まだまだ取り組みが遅れていると言えそうです。
建設業界で週休2日制が注目される背景には「深刻な人手不足」があります。
先進国の中でも特に少子高齢化が進む日本では多くの業界で労働力が不足しています。とりわけ「3K(きつい、危険、汚い)」というイメージが根強い建設業界は若者から敬遠されがちで、人手不足は特に深刻です。
建設業界では人手不足対策としてデジタル技術の導入なども進められていますが、週休2日制を導入して、働きやすい環境を作ることも有効な対策のひとつと考えられています。
それにもかかわらず、建設業界では週休2日制の導入がなかなか進みません。その理由として挙げられるのが以下の3点です。
ほとんどの建設事業には「工期」が設定されています。
もちろん事業を開始する際はしっかり計画を立てますが、屋外作業の多い建設現場では天候によって作業が中断することもしばしばで、予定通りに工事が進むとは限りません。
このため工事の進捗状況次第では週休2日を確保することは困難です。
建設工事ではトラックや重機、プレハブのレンタルなどさまざまなコストがかかります。
週休2日制を導入したことで工期が伸びればそのぶんコストも増え続けるため、建設会社としては積極的な週休2日制に取り組みにくいというわけです。
事情は労働者の側にもあります。日給で働く労働者の場合、週休2日制というのは(週休1日より)収入が減ることを意味します。
このため古くから建設業界にいる人の中には、週休2日を望まないという人も少なくありません。
平成31年4月1日に施行された改正労働基準法により、建設業でも令和6年4月1日から時間外労働の上限規制が適用されることになりました。
これに合わせて「週休2日対象の公共工事を拡大することで建設業界の週休2日制を推進していく」という発表もあったため、これが「週休2日の義務化」を意味するのでは?と考える人が増えているようです。
新たに適用される「罰則付きの時間外労働の上限規制」は、週休2日制とはまったく別の話です。
労働基準法では「1日に8時間、1週間に40時間」が労働時間の上限とされていますが、従来は「36協定」を結ぶことで事実上無制限の時間外労働が可能でした。
これに対し「罰則付きの時間外労働の上限規制」では、たとえ36協定を結んでも「月に45時間、年間360時間」が上限となり、違反者には「6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金」が適用されます。
もうひとつの「週休2日対象の公共工事の拡大」も、民間工事に週休2日制を義務付けるものではありません。
国の狙いは、国自身や自治体が率先して「手本」となるモデル工事を行うことで、建設業界全体が週休2日制を導入しやすくすることです(取り組みの具体的な事例については、この記事の最後で紹介します)。
現時点で週休2日制が義務化される予定はありませんが、それでも週休2日制の導入は時代の流れですし、建設業界の将来のためにも重要なことと言えます。
では建設業界が週休2日制を取り入れるため、事業者はどのような点に注意すればよいのでしょうか。
1つ目のポイントは「適正な工期設定」です。
あらかじめ週休2日を考慮したスケジュールを組むことで、天候不順などの影響による工期へのしわよせを最小限に抑えることができます。
もちろん、これには発注者側の理解も欠かせません。事業者は契約時にしっかり説明を行い、適正な工期を設定するよう務める必要があるでしょう。
2つ目のポイントは「賃金制度の見直し」です。
週休2日制が日給労働者にとって不利になることがないよう、日給制から月給制へ雇用形態を変更するのがベストでしょう。あるいは労働単価(日給)の見直しや、収入減に対する補填制度の設定なども効果的です。
3つ目のポイントは「経費を請負代金に反映させる(請負代金の見直し)」です。
工期が延びることで各種レンタルコストなどが増える場合、その増加分もあらかじめ見込んだうえで請負代金を設定する必要があるでしょう。
4つめのポイントは「建設DXの推進」です。
建設DXとはデジタル技術を使って建設業の仕組みや仕事のやり方を変革することで、生産性の向上や省人化といった効果を期待できます。たとえば遠隔操作の重機やドローンを導入して工事の効率を上げ、工期を短縮するといった具合です。
関連記事『今話題の建設DXとは?建設業者のメリットや具体事例について解説』
最後に、建設業界への週休2日制導入に向けた国や地方自治体の取り組みを紹介します。
国土交通省では、各地方整備局ごとに「完全週休2日」などを達成したモデル工事を紹介しています。
たとえば関東地方整備局の「週休2日チャレンジサイト」では、平成29年から毎年試行している「週休2日制適用工事」の概要を紹介するとともに、数十もの「モデル工事の取組み状況や現場の技術者の声」が紹介されていました。以下はその中のごく一部です。
工事名称 | 東関道築地地区改良他工事 |
工事期間 | 平成30年1月23日~平成30年10月12日 |
達成内容 | 土日を現場閉所とした4週8休を実施 |
工夫点 | ・掘削工(ICT技術)施工で行い、丁張による手間を削減し出戻りを無くした。 ・クラウドシステムを利用し、施工進捗を日々管理した。 |
工事名称 | H29多摩川古市場築堤護岸外工事 |
工事期間 | 平成29年11月15日~平成30年7月31日 |
達成内容 | 土日を現場閉所とした4週8休を基本として実施 |
工夫点 | ・天候にあまり影響されない作業を事前に洗い出ししておき、気象状況に応じて作業内容・工程の見直しが行えるように準備した。 ・仮設ヤード(仮置場)を広く・効率良く使用できるように計画。 ・場内運搬は増えることになるが、資材の早期搬入を行い、運搬車両等不足による工程の逼迫を回避できるようにした。 |
工事名称 | H30稲戸井土砂整正工事 |
工事期間 | 平成30年9月20日~平成31年2月1日 |
達成内容 | 土日を現場閉所とした4週8休を基本として、平日が雨天等で作業できない場合は、平日に閉所とし、土日に作業を実施 |
工夫点 | ・生産性を向上するため12tダンプを活用(全台数の25%)し運搬日数を削減。 ・生産性を向上する工夫 (新技術の活用MCブルドーザー活用、2セット積込実施、荷下ろし箇所を一度に6台確保し時間の短縮等) ・第三者へ週休2日の取組を掲示し情報発信を行った。 (看板の設置、YouTube公開、チャレンジサイト等) |
国土交通省の取り組みを受けて、全国の地方自治体でも週休2日制を導入したモデル工事の試行を進めています。一例として挙げた以下のサイトでは次々に新しい事例が追加されているため、ぜひご自身の目で確認してみてください。
建設業の週休2日制は、日本の将来を支える建設業界にとって必要不可欠な取り組みです。制度の導入を予定している事業者はもちろん「うちではムリ」と考えている事業者も、この記事で紹介した事例を参考に、どうすれば週休2日制を実現できるか検討してみてはいかがでしょうか。