慢性的な人材不足に悩まされている建設業。しかし意外なことに、建設業には労働者派遣が禁止されている業務が存在します。
この記事では派遣が禁止される理由と具体的な派遣禁止業務、そして派遣の活用が認められる業務について解説します。
労働者派遣とは派遣元の会社に雇用される労働者が、派遣先の指揮命令を受けて勤務する労働形態です。
派遣先の企業にとっては即戦力の確保やコスト削減などのメリットがあるため、多くの業種で活用されています。
しかし労働者派遣はすべての業種で利用できるわけではありません。
労働者派遣法第4条第1項には「労働者派遣事業をおこなってはならない」業務(労働者派遣事業の適用除外業務)が列挙されています。そのうちのひとつが「建設業務」です。
建設業で労働者派遣の活用が禁止される理由は大きく分けて2つです。
建設現場では元請け会社の労働者のほかに、下請けや孫請けなどさまざまな会社に雇用される労働者が働いています。
ここに(派遣元の会社に所属する)派遣労働者が加わると指揮命令系統があいまいになり、労働災害のリスクが高まると考えられています。
万一労働災害が発生した場合も責任の所在があいまいなため、労働者本人が不利益を被ることになりかねません。
建設業界は「受注生産」が基本で、労働力の需要は不安定です。このため労働者派遣が認められれば、業務量の少ない時期に「派遣切り」などで仕事を失う労働者が大勢発生することでしょう。
このような不安定な雇用を防ぐことが派遣禁止の理由となっています。
なお建設業界では派遣を禁止する代わりに「建設業務有料職業紹介事業」や「建設業務労働者就業機会確保事業制度」という制度が設けられています。
実施計画の認定を受けた事業主団体が、「職を求める労働者」と「労働力を必要とする事業主」を有料でマッチングさせる制度です。ただし契約期間が定められる派遣と違い「期間の定めのない労働契約」が対象となります。 (参考:厚生労働省ホームページ『建設業務有料職業紹介事業』) |
実施計画の認定を受けた事業主団体の構成事業主が、自社で雇用している労働者を、同じ事業主団体に所属する他の構成事業主の建設業務に一時的に送り出す制度です。この際、労働者は元の会社との雇用関係を維持したまま、送り出し先の事業主の指揮命令を受けます。 (参考:厚生労働省ホームページ建設業務労働者就業機会確保事業) |
労働者派遣の禁止規定に違反した場合、派遣元(派遣会社)には「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」や「労働者派遣の事業停止命令」などの罰則が科されます。
一方、派遣先(労働者派遣を利用した建設会社)にも是正勧告が出され、従わない場合には企業名の公表というペナルティが与えられます。
建設業の労働者派遣は禁止ですが、建設業で行われる業務のすべてが禁止されているわけではありません。
ここでは「派遣が禁止される業務」と「禁止されない業務」のそれぞれについて、具体例を挙げていきます。
労働者派遣法では、労働者派遣の適用除外となる建設業務について「土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの作業の準備の作業に係る業務」と明記しています。
これらの具体的な事例としては、以下のような業務が考えられます(参考:一般社団法人日本人材派遣協会『建設業務 | 労働者派遣の禁止業務』)。
禁止業務 | 備考 | |
---|---|---|
① | ビル・家屋等の建築現場で資材の運搬・組み立て等を行う業務 | 施工計画の作成や工程管理・品質管理などは禁止されない |
② | 道路・河川・橋・鉄道・港湾・空港等の開設・修築などの工事現場で掘削・埋め立て・資材の運搬・組み立て等を行う業務 | 施工計画の作成や工程管理・品質管理などは禁止されない |
③ | 建築・土木工事において、コンクリートを合成したり、建材を加工したりする業務 | 建築・土木工事現場での準備作業全般も含む |
④ | 建築・土木工事現場内で資材・機材を配送する業務 | 現場外からの資材の搬入は含まない |
⑤ | 壁や天井・床の塗装や補修をする業務 | |
⑥ | 建具類等を壁や天井・床に固定、もしくは撤去する業務 | |
⑦ | 外壁に電飾版や看板などを設置、もしくは撤去する業務 | |
⑧ | 建築・土木工事現場内において、配電・配管工事や機器の設置をする業務 | |
⑨ | 建築・土木工事後の現場の整理・清掃、内装仕上げをする業務 | |
⑩ | イベントなどを行う大型仮設テントや大型仮設舞台の設置をする業務 | 簡易テントの設営やパーティションの設置、椅子の搬入、舞台装置・大道具・小道具の設置等は含まない |
⑪ | 仮設住宅(プレハブ住宅等)の組み立てを行う業務 | |
⑫ | 建造物や家屋を解体する業務 |
建設業界で行われる業務はさまざまで、その中には「土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの作業の準備の作業に係る業務」に含まれないものもあります。
建設業にも事務作業は必要です。建設会社の建物の中(オフィス内)はもちろん、ときには工事現場の仮設事務所で電話応対をしたり、書類チェックをすることもあるでしょう。
こうした事務作業全般は禁止業務に含まれないため、労働者派遣の利用が可能です。
とはいえ工事現場で事務作業と現場作業を兼ねる場合、現場作業が軽度のもの(たとえば道具の整理や清掃など)であっても派遣の利用は禁止されます。
建設業の中には、コンピュータ上で特殊なソフトを操作するオペレーターもいます。たとえば2次元の図面を作成する「CADオペレーター」、図面に基づいて3次元モデルを作る「BIMオペレーター」や「CIMオペレーター」などです。
これらの作業(コンピュータ操作)は工事現場で建設作業に直接従事しているわけではないため、労働者派遣の利用が可能です。
施工管理業務とは、建設の施工計画を立てて、その通りに工事が行われるように、また施工順序や施工手段が適正に行われるよう管理監督する業務です。
工事に使われる部材の品質管理や工事現場の安全管理なども担当する建設工事のキーマンですが、「労働者派遣事業関係業務取扱要領」には「建設業務に該当せず労働者派遣の対象となる」と明記されています。
もちろん派遣労働者が施工管理業務を担当する場合、工事現場の作業(軽作業を含む)は一切行えないため注意が必要です。
建設業では労働者派遣が禁止されていますが、建設業にかかわるすべての業務が禁止されているわけではありません。それどころか、派遣業界には建設業向けの人材派遣を行っている会社もあります。人材不足の解消や業務の生産性を上げるためにも、業務内容に注意しながら上手に派遣を利用してみてください。