近年注目を集めているSDGs(持続可能な開発目標)。建築の分野でSDGsに貢献する取り組みのひとつがZEB(Zero Energy Building)です。この記事ではZEBが具体的にどのようなものか、どのようなメリットや注意点があるのかについて説明します。
建築事業者やビルの建築主の多くは「ZEB」という言葉を聞いたことがあるでしょう。しかしZEBが具体的にどういうものかしっかり説明できる人はあまり多くありません。そこで、まずはZEBの定義について確認していきましょう。
ZEB(ゼブ:Net Zero Energy Building)とは、省エネによる「エネルギー消費量の削減分」と創エネによる「エネルギー供給分」の合計が一次エネルギー消費量を上回ることで、実質的にエネルギー消費がゼロになる建築物のことです。
※一次エネルギーとは、化石燃料や風力・太陽光などの自然に由来するエネルギーのこと
ZEBは「持続可能な社会」を目指していく上で、非常に重要な役割を果たす取り組みとして注目されています。
ZEBとZEH(ゼッチ:Net Zero Energy House)の主な違いは、その適用範囲です。ZEBは一般的な建築物全体(オフィスビル、学校、病院など)を対象としますが、ZEHは主に一般住宅が対象です。
ただしそれぞれの目標は同じで、省エネと創エネにより建物が消費するエネルギーをネット(正味)でゼロにすることを目指します。
ZEBには4つの種類があります。
ZEB Orientedとは、基準となる一次エネルギー消費量を一定程度削減し、自然換気技術や照明のゾーニングなどZEB化に影響する「未評価技術」を導入した「延べ面積10,000㎡以上の建物」です。
他のZEBと違い、ZEB Orientedには創エネ設備が必要ありません。また一次エネルギーの削減率条件も緩やかです(オフィス・学校・工場は40%以上、ホテル・病院・飲食店などは30%以上)。
ZEB Readyとは、一次エネルギーの削減率が50%以上の建物です。創エネ設備は必要ありません。延床面積の要件もないため、比較的達成しやすいZEBとされています。
Nearly ZEBは、省エネと創エネの両方の取り組みにより、一次エネルギーの削減率75%以上を達成する建物です。ここでいう創エネとは、太陽光パネルなどの自己発電設備を指します。
ZEBは、冒頭で紹介したとおり「一次エネルギーの削減率100%」を達成する建物です。ZEBには省エネと創エネ設備の両方が求められるため、実現のハードルはかなり高くなっています。
ZEBを実現する方法について、もう少し具体的に見ていきましょう。
ZEBを実現するための基本は、エネルギーの消費自体を抑えること、つまり省エネです。
これは、エネルギーを必要とする行動や習慣を見直し、効率的なものに変えていくことから始まります。例えば無駄な電気の使用を避ける、適切な温度設定で空調を利用するといった工夫が有効でしょう。
これらの取り組みは、エネルギー消費の削減だけでなく、長期的には運用コストの削減にもつながります。
再生可能エネルギーを活用した創エネも欠かせません。
太陽光、風力、水力、地熱など、自然が提供するエネルギー源にはさまざまなものがあります。化石燃料の使用を減らし、CO2排出を抑制するには、これらの自然エネルギーを電力等に変える、太陽光発電パネルや自家用の風力発電設備といった設備が必要です。
省エネと創エネを支える重要な要素が、エネルギーの効率利用です。
たとえば建物の設計段階でエネルギー効率を考慮して、断熱性能の高い建材を使用したり、自然光を最大限に利用するような設計をすることで、冷暖房や照明によるエネルギー消費を抑えられます。
また最新の省エネルギー機器を使用することも、エネルギー消費量の削減につながるでしょう。
ZEBの導入は、建築物の所有者にとってさまざまなメリットをもたらします。
ZEBを導入する最大のメリットは、光熱費の大幅な削減です。再生可能エネルギーの活用とエネルギーの効率的な使用により、電気やガスなどのエネルギー消費を最小限に抑え、結果的にランニングコストが大幅に軽減されます。
環境に配慮したZEBはテナントにとっても魅力的です。維持費を節約できるだけでなく、企業のCSR活動としても評価されます。その結果、テナントの満足度や維持率を向上させることもできるでしょう。
ZEBは、建物の価値を向上させる要素となります。省エネ性能が高いことは、不動産の売買や賃貸においてプラスの評価を得ることにつながり、投資回収期間を短縮する可能性があります。
ZEBの設計は、室内の快適性と効率性の向上を目指します。自然光の活用や適切な空調管理はビル内で働く人たちの生産性を向上させ、健康の維持にも役立つでしょう。
ZEBの導入は、まちづくりにも寄与します。持続可能なエネルギー管理を行う建物が増えることで地域全体の環境負荷が減り、エコタウンとしての魅力が高まります。
ZEBは、エネルギー価格の変動や供給制約といったリスクに対する抵抗力を高めます。自家発電能力は自然災害や大規模な事故に巻き込まれた際に、エネルギー供給の安定性を確保し、事業の継続性を高めてくれます。
ZEBの導入には、一定のデメリットも存在します。その一つが、建築費や設備費などの初期投資コストの高さです。
エネルギー効率の高い設備や再生可能エネルギーの発電システムを導入するためには、通常の建築に比べて高額な費用が必要です。これは、特に新築時にZEBを目指す場合に大きなハードルとなる可能性があります。
ただし長期的な視点では、ランニングコストの削減により、これらの初期投資は十分に回収できる可能性が高いでしょう。
ZEBを推進する環境省では、ZEB関連の補助金制度や支援制度を用意しています。
レジリエンス強化型ZEB実証事業は、停電時のエネルギー供給を確保することで、建物のレジリエンス(回復力)向上を目指す取り組みを後押しする事業です。
対象者 | 地方公共団体(延床面積制限なし) 民間団体(新築:延床面積10,000㎡未満、既築:2,000㎡未満) |
対象フェーズ | 新築・既築 |
対象設備 | ZEB実現に寄与する設備(空調、換気、給湯、BEMS装置等) |
補助の割合 | 【新築】 ZEB:補助対象経費の2/3 Nearly ZEB:補助対象経費の3/5 ZEB Ready:補助対象経費の1/2 【既築】 ZEB・Nearly ZEB・ZEB Ready:補助対象経費の2/3 |
補助金額の上限 | 5億円 |
ZEB実現に向けた先進的省エネルギー建築物実証事業は、省エネ性能・省CO2性能の高いシステムや設備機器の導入を支援する事業です。
対象者 | 地方公共団体(延床面積制限なし) 民間団体(新築:延床面積10,000㎡未満、既築:2,000㎡未満) |
対象フェーズ | 新築・既築 |
対象設備 | ZEB実現に寄与する設備(空調、換気、給湯、BEMS装置等) |
補助の割合 | 【新築】 ZEB:補助対象経費の3/5 Nearly ZEB:補助対象経費の1/2 ZEB Ready・ZEB Oriented:補助対象経費の1/3 【既築】 ZEB・Nearly ZEB・ZEB Ready・ZEB Oriented:補助対象経費の2/3※延床面積2,000㎡未満のZEB Ready、10,000㎡未満のZEB Orientedは対象外) |
補助金額の上限 | 5億円 |
民間建築物等における省CO2改修支援事業は民間の既存建物を対象に、「CO2排出量の30%以上を削減できる設備」の導入と、運用改善の取り組みを支援する事業です。
対象者 | 建築物を所有する民間企業等 |
対象フェーズ | 既築 |
対象設備 | 空調、換気、給湯、BEMS装置等 |
補助の割合 | 補助対象経費の1/3 |
補助金額の上限 | 5,000万円 |
テナントビルの省CO2改修支援事業は、ビルのオーナーとテナントが協働して省CO2を目指す取り組みを支援する事業です。
対象者 | テナントビルを所有する法人、地方公共団体等 |
対象フェーズ | 既築 |
対象設備 | 空調、換気、給湯、BEMS装置等 |
補助の割合 | 補助対象経費の1/3 |
補助金額の上限 | 4,000万円 |
最後にZEBの事例として、国内初のNearly ZEB庁舎として国の認定を受けた「神奈川県開成町の新庁舎」を紹介します。
2019年に竣工した神奈川県開成町 新庁舎は、設計段階からZEBに向けたさまざまな取り組みを進めてきました。これには以下のものが含まれます。
こうした取り組みにより、神奈川県開成町の新庁舎では、一次エネルギーの削減率81%を達成しました。
ZEBはビルのオーナーや地域にとってさまざまなメリットがあります。一次エネルギーの消費割合を抑えることは決して簡単ではありませんが、国の支援制度などを積極的に活用することで実現に大きく近づくでしょう。