ここ数年、国や業界の垣根を越えて環境への意識が高まっています。自治体や建設業界と関わりの深い「グリーンインフラ」も、そうした取り組みのひとつです。この記事ではグリーンインフラについての基礎知識と、2023年に公表された「第3回グリーンインフラ大賞」の受賞事例を紹介していきます。
公共工事などを受注する建設業者にとって、グリーンインフラは重要な取り組みのひとつです。ここではまず、グリーンインフラとはどのようなものか、なぜ注目されているのかを説明します。
グリーンインフラとは、自然そのものが持つ機能をさまざまな課題の解決手段として取り入れ活用する手法のことです。たとえばヒートアイランド現象を防ぐため、ビルの屋上を緑化するのもそのひとつ。また東北地方では古来よりイグネ(エグネ)という屋敷林が家屋を風雪から守ってきましたが、これも一種のグリーンインフラといえます。
イグネ(エグネ)の例からもわかる通り、グリーンインフラは決して新しい考え方ではありません。しかし温室効果ガスによる気候変動などが世界的に問題視され、サステナビリティ(持続可能性)の必要性が意識されるようになったことで、あらためてグリーンインフラに注目が集まっています。
グリーンインフラの手法はさまざまです。対象となるエリア(都市部、郊外部、農山漁村部)ごとに、それぞれの地域やそこで暮らす人々のニーズに合わせた工夫が行われます。
たとえば都市部なら、ヒートアイランド現象の緩和やゲリラ豪雨による水害の抑制、生物多様性の確保を目的とした「緑地空間の形成」を行う、といった具合です。
参考:国土交通省総合政策局環境政策課「グリーンインフラ実践ガイド」
日本で「グリーンインフラ」という言葉が使われるようになったのは、およそ10年ほど前からです。2015年に政府がとりまとめた「第二次国土形成計画」でも、自然環境の保全・再生・活用に向けた「グリーンインフラの取組の推進」が取り上げられました。
日本では現在、「防災・減災」「生活空間」「都市空間」「生態系保全」の4分野でグリーンインフラへの取り組みが行われています。政府はそれぞれの分野ごとに優秀な取り組みを表彰(グリーンインフラ大賞)し、グリーンインフラに対する意識を高めてきました。
ここからは、2023年2月に公表された「第3回グリーンインフラ大賞」の受賞事例を紹介します。
※第1回グリーンインフラ大賞の受賞事例を取り上げた記事もお読みください。
注目度が高まる「グリーンインフラ」とは?建設業界との関係や具体的な取り組みを紹介!
防災・減災部門では、国土交通大臣賞が1件、優秀賞が4件選ばれました。ここでは国土交通大臣賞を受賞した宮城県石巻市の事例を紹介します。
東日本大震災後の「防災集団移転促進事業」によって荒廃したかつての集落跡地を、美しく心地よい場所として再生し、今後の防災、減災対策につなげる取り組みです。一般社団法人が中心となり、造園設計事務所やNPO法人、地元住民などが一体になって事業を実施しました。
具体的な内容は、集落跡地で「小さな杜づくり」を行うとともに、ワークショップや体験学習ツアーなど人が集まる仕組みを作り、さらに「広葉樹育苗や有機資材の製造事業」や「廃棄資源の再活用」といった事業を育成することです。結果として地域に新たな交流が生まれ、サステナブルな資源の活用を通してSDGsの達成にも貢献しています。
リンク:https://green-infra-pdf.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/poster1-1.pdf
生活空間部門では、国土交通大臣賞が1件、優秀賞が4件選ばれました。ここでは国土交通大臣賞を受賞した東京都世田谷区の事例を紹介します。
小田急小田原線の地下化によって生まれた線路跡地の一部を活用して、地域の緑化や交通事情の改善、快適な住空間を作り出す取り組みです。世田谷区と鉄道事業者、地域住民が一体になって事業を実施しました。
具体的には、東北沢、下北沢、世田谷代田の3駅間の線路跡地に「雨庭のある広場」などの施設や、1.7kmに及ぶみどりの通路や広場を整備。その際、区と事業者だけでなく、地元住民も情報共有や意見交換ができる仕組み作りをしています。結果として地域に緑豊かな環境が増えただけでなく、透水性舗装や樹木などの効果で下水道への負担が軽減し、地下水の涵養につながりました。
リンク:https://green-infra-pdf.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/poster2-1.pdf
都市空間部門では、国土交通大臣賞が1件、優秀賞が4件選ばれました。ここでは国土交通大臣賞を受賞した東京都港区の事例を紹介します。
老朽化した芝浦水再生センター(東京都港区)の再整備に伴い、オフィスを主体とした複合ビル(品川シーズンテラス)と、3.5haに及ぶ緑のオープンスペースを創出する取り組みです。東京都がコンペを実施し、NTT都市開発株式会社や大成建設株式会社などが工事を受注しました。
品川シーズンテラスの北側には広大な芝生が広がる「ノースガーデン」を整備し、東京湾から都心に向かう風の道を形成。また品川方面の玄関口となる南側には「サウスガーデン」として、クールウォールや保水性舗装を利用した通路を設置しました。こうした取り組みは、住民やオフィスワーカーに快適な空間を提供するとともに、東京湾から都心に向かう風の道を確保することでヒートアイランドの緩和にも貢献しています。
リンク:https://green-infra-pdf.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/poster3-5.pdf
都市空間部門では、国土交通大臣賞が1件、優秀賞が3件選ばれました。ここでは国土交通大臣賞を受賞した佐賀県鹿島市の事例を紹介します。
豪雨による土砂災害や浸水、流木の被害を防ぐためにグリーンインフラによる防災・減災を目指し、同時に有明海干潟などの生態系の保全を行う取り組みです。鹿島市が中心となり、地元の企業や団体などが参加して実施されました。
具体的な内容は、地域環境課題にグリーンインフラなどの手法で取り組む企業を行政が支援する仕組み作り(鹿島モデル)と、土砂災害や水害の軽減、耕作放棄地の利活用につなげる事業作り、生き物の観察、環境教育といった住民参加型の保全活動です。取り組みの結果、市内では環境保全の取り組みに賛同して協定を結ぶ企業・団体が72団体まで増え(前年度は39団体)、グリーンインフラについて市民の認知も広がっています。
リンク:https://green-infra-pdf.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/poster4-1.pdf
グリーンインフラは、工事に携わる建設業者にとってどのような意味を持つのでしょうか。ここではグリーンインフラに取り組むメリットとデメリットを簡単に紹介します。
グリーンインフラへの取り組みは、イメージ向上に役立ちます。
上で紹介した4つの事例は、いずれも設計事務所や建設業者といった企業・団体の熱意や創意工夫が感じられるものです。社会課題の解決に向けて取り組む姿勢は、取引先や株主、投資家へのアピールになります。世の中に貢献している企業というイメージが高まることで、優秀な人材確保にも役立つでしょう。
グリーンインフラに関連して、新しいビジネスが生まれる可能性があることも大きなメリットといえます。
グリーンインフラの取り組みには、コストがかかる可能性があります。
従来の安価な工法に変えて新たな技術を開発・採用する場合、それなりのコストが発生することは否めません。ただしコスト増はあくまで一時的なものです。新たな技術を自社の強みにできれば、むしろ大きな利益を生み出してくれるでしょう。
グリーンインフラのニーズや注目度は、今後ますます高くなると予想されます。また社会貢献や他社との差別化においても、グリーンインフラは有効です。「グリーンインフラ大賞」受賞事例などの先進的な取り組みを参考に、自社ならではの取り組みに挑戦してみてはいかがでしょうか?