道路やトンネル、上下水道など、生活を支えるインフラの老朽化が問題になっています。この記事では日本のインフラ老朽化の背景と現状、社会問題として注目を集めた事例、インフラ老朽化の解決を目指す官民の取り組みについて紹介します。
過去10年ほどのあいだに、日本各地でインフラの老朽化が大きな社会問題となってきました。まずはその背景について見ていきましょう。
インフラとはインフラストラクチャー(infrastructure)の略語です。社会の基盤となる施設、たとえば道路やトンネル、ダム、鉄道、上下水道、送電線、携帯電話の基地局などはインフラの典型例といえるでしょう。ほかにも病院や学校、港、空港、公園など公共性の高い施設もインフラの一部です。
インフラの多くは国や自治体が整備しますが、民間企業がインフラの設置や管理を行うケースもあります。たとえば日本の場合、送電線は電力会社、携帯電話の基地局は4大キャリア(ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)の所有です。
日本では、道路や上下水道、橋といった主要なインフラの多くが高度成長期(1960年代)に整備されました。国土交通省の統計によると、設置から50年以上が経過する施設の割合は、これから加速度的に増加すると予測されています。
国土交通省「国土交通省における インフラメンテナンスの取組」より引用
老朽化したインフラは、コンクリートのひび割れや鉄骨のサビなどによって強度が低下します。そのまま放置すれば破損や崩壊の危険が高まり、人命にかかわる重大事故にもつながりかねません。実際2010年代に入ってからはインフラ老朽化が原因と見られる事故が各地で報告されています。
インフラの老朽化は避けられません。しかし適切に管理・整備されている限り、インフラ老朽化による事故の多くは未然に防ぐことが可能です。ではなぜ、重大事故が現に発生しているのでしょうか。
理由のひとつとして挙げられるのは、インフラ整備に使える予算(土木費)の減少です。国土交通省の統計によると、土木費のピークは1993年の11兆4973億円でした。しかし重要インフラの多くが設置後50年を迎え始めた2011年には、土木費は6兆465億円にまで減少します。その後も土木費はほぼ横ばい状態です。
国土交通省「国土交通省における インフラメンテナンスの取組」より引用
予算の減少に加え、人手不足も深刻な課題となっています。多くの市町村では土木部門の職員が減少傾向にあり、技術系職員が5人以下の市町村の割合は全体の約半分です。技術系職員が「0名」という市町村も4分の1に上ります。
国土交通省「国土交通省における インフラメンテナンスの取組」より引用
ここからは、インフラ老朽化により発生したと見られる重大事故の事例をいくつか紹介していきます。
2012年12月2日に発生した中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故は、インフラ老朽化が社会的に大きな注目を集めるきっかけとなった事故のひとつです。
トンネルの上部に吊り下げられていた天井板が約140mにわたって崩落し、走行中の車を巻き込み9人の命が失われるという衝撃的な事故でした。吊り下げに使われていたアンカーボルトの劣化調査を、12年にわたり目視だけで済ませていたことが事故の原因とされています。
2018年7月4日には、東京都北区で地下に埋設されていた水道管が破裂しました。この事故では水道管上の道路が陥没したほか、周辺の約20戸が浸水被害に遭っています。
事故の原因は水道管の劣化と見られています。現場の水道管が設置されたのは1968年で、2018年度内に交換が予定されていたそうです。
2018年7月6日に広島県で発生した、砂防ダムの決壊事故。ダムの下流にあたる坂町では人口約1,800人の小屋浦地区が土石流に巻き込まれ、災害関連死を含め10人以上の方が亡くなりました。
直接の原因となったのは西日本を襲った記録的な豪雨(平成30年7月豪雨)でしたが、決壊した砂防ダムは1947年に建設されたもので、事故の前から老朽化を懸念する声が上がっていたそうです。
2021年10月3日には、和歌山市の紀の川にかかる六十谷水管橋(むそたすいかんきょう)の一部が崩落しました。この事故により約6万世帯が断水し、約13万8,000人に影響が出ています。
事故の原因は、水道橋のアーチと水道管をつなぐ吊り材が老朽化により腐食したためと見られています。
2022年5月17日には愛知県の矢作川に設置された明治用水頭首工で大規模な漏水が発生。これにより河川の水位が低下し、農業用水や工業用水、水道用水の取水が停止し、トヨタ自動車の工場が一時操業停止するなど、住民の生活や企業の経済活動などに大きな影響が出ました。
明治用水頭首工が完成したのは1958年だったことから、この事故もインフラの老朽化が原因と見られています。
インフラ老朽化は今後ますます進行していくため、事故を防ぐための対策が急がれています。ここでは官民の取り組みや、インフラのメンテナンスに活用されている最新技術について紹介します。
国などが中心となってインフラ老朽化に取り組んでいる事例としては「インフラ長寿命化計画」「インフラメンテナンス国民会議」「インフラDX 総合推進室」が挙げられます。
国土交通省の「インフラ長寿命化計画」は、インフラのライフサイクル(寿命)を延長するための各種行動計画です。最初の行動計画は2014年5月にとりまとめられ、その後の取組状況等を踏まえて2021年6月に第2次インフラ長寿命化計画が策定されました。
行動計画では、これまで未成熟だったメンテナンス技術の基盤強化や最新技術の開発・導入、将来にわたりインフラを維持・確保するためのシステム構築を目指しています。
「インフラメンテナンス国民会議」は、未来によりよいインフラを引き継ぐために産学官民の連携を促すプラットフォームです。具体的には、以下の5つの目標に向けて企業や研究機関、施設管理者、市民団体等の自主的な活動をサポートします。
リンク:インフラメンテナンス国民会議
「インフラDX 総合推進室」は、インフラ分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するため国土交通省内部に置かれた機関です。国土交通本省が中心となり、国土技術政策総合研究所、土木研究所、建築研究所、地方整備局などが連携して、環境整備や新技術の開発・導入促進、人材育成などを行います。
インフラ老朽化への対策には、インフラメンテナンスの効率化や高精度化が欠かせません。最先端のIT技術を活用したインフラDXは、そのための切り札になると期待されています。
インフラメンテナンスの効率化において、特に注目されているIT技術がドローンです。作業員が近づきにくい高所や危険な場所にあるインフラなども、ドローンを使用すれば簡単に確認できます。作業にかかる人員も最小限に抑えられることから、効率的なメンテナンスが可能です。
RTK測位とは、衛星を利用して高精度の位置情報を取得する技術です。このRTK測位とドローンを組み合わせれば高精度の飛行が可能になるため、点検作業をさらに効率化できるでしょう。
携帯電話の通信規格として耳にすることが多い5G。大容量のデータを高速・低遅延で送受信できるのが特徴です。5Gとドローンを組み合わせれば、高精度の画像をリアルタイムに確認しながら点検作業を行えます。
AI(人工知能)を使った画像診断は、専門家の目に匹敵する精度といわれています。人間のように疲労したり、見落としなどのミスをすることもありません。ドローンで撮影した画像をAIに分析させれば、インフラの劣化状況をより効率的に診断できるでしょう。
モノのインターネット(Internet of Things)と呼ばれるIoT。あらゆるモノをインターネットにつなぎ、細かな情報を収集できます。IoTを活用すれば、インフラに取り付けたセンサー類でリアルタイムのモニタリングが可能になり、インフラの劣化状況を早期に把握できます。
日本の主要インフラの大部分は、数年から十数年のうちに耐用年数の限界を迎えます。これは社会にとって大きな脅威ですが、一方でインフラ整備にかかわる建設業者にとっては新たなビジネスチャンスです。インフラの長寿命化を目指す国や自治体の取り組みに参画し、最新IT技術の導入を検討することで、自社と社会の発展につなげていきましょう。