建設業は日本経済を支える基幹産業の一つですが、近年は、2024年問題、人手不足、資材の高騰など、多くの課題に直面しています。一方、建設投資額は増加傾向にあり、DX化やSDGsへの取り組みなど、変化の兆しも見えています。
本記事では、建設業界の現状と課題、そして未来に向けての取り組みについて解説します。
建設業界を取り巻く環境は大きく変化しています。ここでは今まさに注目を集める2024年問題をはじめ、少子高齢化などに伴う人手不足や資材の高騰といった問題と、公共・民間それぞれの建設投資額の増加について触れていきます。
2024年に入り、建設業界では「2024年問題」が本格化しています。これは2019年4月1日施行の「働き方改革関連法」に伴い発生する労働環境問題のことです。
働き方改革関連法では、労働者の残業時間を以下の範囲に収めることが義務化されています。
働き方改革関連法は、大企業では2019年4月1日から、中小企業でも2020年4月1日から順次適用されてきました。建設業界や運送業界などでは5年間の猶予期間が設定されていましたが、いよいよ2024年4月1日より完全適用となりました。
長時間労働が常態化している建設業界では、規制の範囲内で工事を進めるために人材の確保や最新技術の導入といった工夫や努力が必要です。
2024年問題の背景には「人手不足」という課題があります。その主な原因といえるのが、「少子高齢化」です。
国土交通省がまとめた「建設業の働き方改革の現状と課題」によると、2020年時点の建設業就業者のうち、55歳以上が全体の約36%を占め、29歳以下は約12%にとどまっています。2019年との比較では55歳以上が約1万人増える一方、29歳以下には増減は見られません。
いわゆる「団塊ジュニア世代」の大量退職も間近に控えていることから、少子高齢化による人手不足は、今後一層深刻になることでしょう。
「建設資材の高騰」が続いているのも特徴です。建設物価調査会の調べによると、建設資材物価指数(建設総合)は2021年ごろから上昇が続いており、2024年3月時点では135.8(2015年平均=100として算出)となっています。
建設物価調査会「建設物価 建設資材物価指数【2024年3月分】」より引用
建設資材が高騰する背景には、ウクライナ危機による世界的な資材価格の高騰や、記録的な円安による輸入資材価格の高騰が挙げられます。ウクライナ情勢と円安はどちらも落ち着く気配が見えないため、建設資材価格の高騰も、しばらくはこのまま続いていくことでしょう。
一方、建設投資額は政府投資、民間投資ともに増加傾向です。国土交通省が発表した「令和5年度(2023年度)建設投資見通し」によると、2023年度の建設投資は前年度比2.2%増の70兆3,200億円と見込まれています。このうち政府投資は前年度比4.5%増の25兆3,400億円、民間投資は同1.0%増の44兆9,800億円です。
建設投資額は2015年度より増加が続いています。2024年度も、大阪・関西万博や能登半島の震災復興に伴う建設需要が大きいことから、引き続き増加していくことでしょう。
国土交通省「令和5年度(2023年度)建設投資見通し」より引用
東京商工リサーチの調べによると、建設業界の倒産件数は2023年まで2年連続で前年を上回る状況が続いています。2023年の倒産件数は1,693件(前年比41.7%増)でしたが、倒産件数が1,600件台に乗るのは2016年以来7年ぶり、増加率が40%を超えるのも32年ぶりとなりました。
ここ数年で倒産件数が増加した背景には、新型コロナウイルス感染拡大による需要の低迷があると考えられます。2023年には新型コロナが5類に移行したことで建設需要も回復しましたが、これまで見送られていた分を含め受注が一気に増えたことで、今度は資材の高騰や人手不足に拍車がかかりました。
この結果、特に1千万円未満の中小企業や零細企業の倒産が増えています(2023年度は1,244件件)。2024年4月には2024年問題に加え、新型コロナ関連のゼロゼロ融資(中小企業、零細企業、個人事業主向けの無利子・無担保融資)の民間返済がピークを迎えることもあり、建設業界の倒産件数は引き続き増え続ける可能性が大きいでしょう。
なお、2024年問題に取り組む中小企業に対して助成金等の制度を設けている自治体もあります。たとえば東京都の「設備投資緊急支援事業」はその一例です。この制度では、人材不足等の対策に必要となる機械設備を新たに導入する中小企業に対し、最大1億円(助成率は5分の4以内)の助成を行います。
こうした制度を建設会社がうまく活用できるかどうかは、2024年度の倒産件数にもある程度の影響を与えると考えられます。
建設業界は、2024年問題をはじめとする課題がいくつも重なり合った状態です。こうした課題に対処するため、建設会社ごとに、あるいは業界全体としていくつもの取り組みが行われています。
数ある取り組みのなかでも、特に緊急性が高いのが「働き方改革」です。残業時間の上限を超えないように労働時間を適正管理するのはもちろん、賃金体系や下請け構造の改善などを通して人材確保にも力を入れています。また女性の活躍推進も大きなテーマです。業界全体として、多様な人材が活躍できる環境作りが求められています。
人手不足を補うため、DX化による作業の効率化も進められています。たとえばドローンを使った測量やBIM/CIMの導入、AIやIoTの活用などは、これまで人の手で行っていた作業を大幅にスピードアップし、質や精度を向上させる取り組みです。
建設DX関連については、以下の記事もご覧ください。
ドローン測量のメリット・デメリットとは?従来の測量との違いも解説 | 入札成功のための基礎知識
今話題の建設DXとは?建設業者のメリットや具体事例について解説 | 入札成功のための基礎知識
企業イメージの向上や新しいビジネスチャンスの創出に向けて、脱炭素化に向けた取り組みも進められています。そのひとつが「グリーンインフラ」です。グリーンインフラとは、自然が持つ機能をさまざまな課題解決に活用する手法のことで、たとえば遊水池の整備による治水対策、屋上緑化や壁面緑化によるヒートアイランド対策などが挙げられます。
また「持続可能な社会」の実現に向けて、建物のエネルギー消費を実質ゼロにする「ZEB」も注目を集める取り組みのひとつです。
グリーンインフラやZEBについては、以下の記事もご覧ください。
注目度が高まる「グリーンインフラ」とは?建設業界との関係や具体的な取り組みを紹介!
グリーンインフラの最新事例4選!取り組みのメリット・デメリットもご紹介
ZEBとはどのようなもの?ビジネス上のメリットや利用できる補助金についても解説
建設業界は2024年問題や深刻な人手不足、資材の高騰などさまざまな課題に直面していますが、一方で政府投資や民間投資の増加が見込まれるなど、需要面では明るい材料もあります。建設会社にとっては、国・自治体による支援制度を効果的に活用し、課題解決に向けた各取り組みを積極的に進めることで、継続的な成長を実現していくことが重要といえるでしょう。