ここ数年、建設業界では資材の高騰が課題になっています。高騰の原因はさまざまな方面にわたり、そのうちのいくつかは2024年現在も解消されていません。この記事では建設資材高騰の現状と原因、今後の見通しに加え、資材高騰による影響を少しでも抑えるための対策について解説していきます。
2021年以降、建設業界では「かつて経験のない」といわれるほどの資材高騰が続いています。一般社団法人 日本建設業連合会がまとめた「建設資材高騰・労務費の上昇等の現状(2024年4月版)」によると、2021年1月以降の建設資材物価はほぼ右肩上がりで、2024年3月の時点では2021年1月と比較して30%以上も上昇しました。
引用:一般社団法人 日本建設業連合会「建設工事を発注する民間事業者・施主の皆様に対するお願い(2024年4月版)」より
現在、建設資材の高騰、および政府の賃上げ方針などによる労務費の上昇により、建設コスト全体が押し上げられています。この結果、仮設費・経費などを含めた全建設コストの平均は38か月間で20〜23%も上昇しました(2024年3月時点)。
建設資材の高騰はあらゆる建設プロジェクトに影響を与えています。大阪万博の会場建設費が、当初想定されていた金額の1.9倍(1250億円→2350億円)に膨らんだのもその一例です。
参考:公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会「2023/10/20 会場建設費:精査結果 報告内容」
建設資材が高騰する理由はひとつではありません。たとえばコロナ禍の2020年から2021年にかけて、世界的な船舶不足や港湾作業等の人手不足によりコンテナ料金が急上昇しました。また、テレワークの急速な普及で家電やモバイル端末の需要が急上昇したことなどが、世界的な半導体不足のきっかけとなっています。
2024年現在、コンテナ料金の上昇や半導体の供給不足は解消に向かっているものの、依然として以下の4つの理由により建設資材の高騰は続いたままです。
一つずつみていきましょう。
理由のひとつは世界的な原材料不足、特に木材や鉄骨・鋼材などの不足です。たとえば木材の場合、2021年ごろから深刻な供給不足となり、「ウッドショック」と呼ばれる急速な価格上昇につながりました。供給不足の主な原因は上で紹介したコンテナ不足や、コロナ禍による移動制限、さらにアメリカの低金利政策にともなう住宅ブームがあると考えられています。
コロナ禍が一段落したことでウッドショックは解消に向かっていますが、それでもコロナ後に建設需要が伸びたことで供給不足が長引き、木材価格も高止まりの状態が続いています。
引用:一般財団法人 日本木材総合情報センター「2024年04月の木材価格・需給動向」
木材と同様、鉄骨・鋼材なども2021年ごろに品薄となり、価格が急騰しました。こちらは「アイアンショック」と呼ばれています。アイアンショックは一時期より落ち着きつつあるものの、日本は鉄鉱石の100%を輸入に頼っていることから、円安による原料コストの高騰が続いています。
ちなみに一般財団法人 日本建設業連合会によると、2024年4月時点の鉄骨・鋼材価格の上昇率は2021年1月比で以下の通りです。
参考:一般社団法人 日本建設業連合会「建設工事を発注する民間事業者・施主の皆様に対するお願い(2024年4月版)」
別の理由として挙げられるのがエネルギー価格の高騰です。コロナ禍が始まった2020年に、原油価格はいったん下落しました。しかし2021年にはコロナワクチンの普及などによって経済活動が回復し、石油需要の上昇から原油価格の高騰も続いています。
ウクライナ危機をきっかけとしたロシアへの経済制裁や、それによる日本とロシアの関係悪化もエネルギー価格に影響を与える要素のひとつです。日本は液化天然ガス(LNG)の約1割をロシアからの輸入に頼っており、ロシア国内のLNG事業にも日本企業が参画しています。ロシアとの関係悪化は日本のエネルギー供給にとって大きな不安要素です。
エネルギー価格が高騰、もしくはエネルギー供給の不安は、建設資材の製造コストや運搬コストを大きく押し上げています。
2024年4月現在、建設資材高騰の原因として最も懸念されているのが記録的な円安です。2021年1月の円相場は1ドル102〜104円台で推移していましたが、2024年4月には1ドルが156円台に達しました。
つまり現在の輸入価格は、2021年当時の約1.5倍です。円安になる理由のひとつは日米の金利差といわれていますが、国際情勢などさまざまな要因も複雑に絡むため、今後の推移は見通せないままです。
建設業では他業種にも増して労働者の高齢化が進んでいます。2022年の時点では建設業就業者のうち55歳以上が全体の35.9%を占め、一方で29歳以下の若手労働者の割合は11.7%にとどまりました。建設業全体の就業者数も1997年以降はほぼ右肩下がりに減少しており、担い手不足は深刻です。
こうした担い手不足によって労働コストが押し上げられ、建設資材を含む建設コスト全体の高騰につながっています。
引用:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」より
引用:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」より
上で説明した4つの理由は、いずれも簡単に解消される問題ではありません。仮に問題が解消されたとしても、それが市場価格に反映されるまでは一定の時間が必要です。
一方、大阪万博や大規模再開発などにより建設需要は拡大を続けています。これに対し建設資材の供給は追いついていないのが現状です。
こうした事情を考え合わせると、建設資材の高騰は「今後もしばらく続く」と考えられるでしょう。
近い将来に建設資材高騰の解消を期待できない以上、建設会社や建設業界には、建設資材の高騰に向けた対策が不可欠です。ここでは代表的なものとして、以下の3点を紹介します。
一つずつみていきましょう。
工事のスケジュールに余裕を持たせることで、価格面を含め、少しでも有利な条件で資材を揃えることができます。特に仕様決定や発注の段階ではできるだけ早めに動くようにしましょう。
逆に、スケジュールに追われている状態では発注もギリギリのタイミングになるため、高い資材をやむなく仕入れることになりかねません。
できるだけまとめて資材や設備の発注を行うことで、仕入れ価格を抑えられる可能性があります。特に事業規模の大きいプロジェクトでは、こうしたスケールメリットが大きな効果を発揮するでしょう。
近年注目を集めている「建設DX」も、建設資材を含む工事のコスト圧縮に役立ちます。ちなみにDXとは、デジタル技術による業務プロセスの改善などを指す言葉です。
建設DXの代表的なものとしては、ドローンやBIM/CIM、AI、IoTなどの活用が挙げられます。詳しい内容や具体的な事例については、以下の記事もぜひお読みください。
関連記事:今話題の建設DXとは?建設業者のメリットや具体事例について解説
建設資材の高騰は、建設業界全体に共通する課題です。その背景には国際問題などさまざまな要因があるため、根本的な解決は容易ではありません。建設工事に携わるすべての事業者は、余裕のある工事やスケールメリット、建設DXなど「自社にできる対策」を行っていきましょう。そのためには最新の情報収集が欠かせません。公共工事の場合、入札情報を漏れなく、効率よく、そして迅速に集めることが重要です。入札情報の収集には、ぜひ「入札ネット+α」をご活用ください。入札ネット+αは、関東甲信越内における公共工事の入札情報が検索できるデータベースサービスです。まずは無料でお試しできますので、お気軽にお申し込みください。