今年、建設業界で大きな話題となっているニュースのひとつに「建設業の2024年問題」があります。労働者一人ひとりの働き方から事業の経営、業界全体の取り組みにまで影響を与える2024年問題とはいったいどのようなものか、背景にある課題から官民の取り組みまでわかりやすく解説していきます。
建設業の2024年問題とは、2024年4月に建設業で適用された「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」を巡る諸問題の総称です。
ここではまず、2024年問題の概要と、それが建設業界に与える影響についてみていきましょう。
2024年問題とは、2024年4月から適用される「時間外労働の上限規制」や「割増賃金の引き上げ」「違反者への罰則」などのことです。これらは建設業だけに限った問題ではありません。
そもそも2024年問題の元となった働き方改革関連法は、すべての業種に適用されます。この法律は「労働基準法」や「労働安全衛生法」など労働に関係する8つの法律を改正することで、労働環境の改善を目指すものです。
働き方改革関連法は2018年6月29日に国会で成立しました。その翌年(2019年)4月1日から順次施行(適用)されていますが、以下の4つの業種・事業については長時間労働が常態化しているといった業界の慣習や、業務の特殊性を考慮して「5年間の猶予期間」が設けられています。
工作物の建設の事業(建設業)
自動車運転の業務(運送業)
医業に従事する医師
鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
引用:建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制|厚生労働省
この猶予期間が満了し、上記4業種(事業)に働き方改革関連法が適用されるのが「2024年4月1日」です。なお建設業では2024年4月1日以降も、「災害時における復旧及び復興の事業」に限り一部の規制が緩和されています。
建設業に働き方改革関連法が適用されたことで、業界内のすべての事業者が労働時間の上限規制を受けることになりました。ここではその具体的な内容と罰則について説明します。
建設業界では、これまで長時間労働や休日労働が慣習となっていました。しかし2024年4月1日以降は法定労働時間(1日8時間・1週間40時間)を超える時間外労働時間について、以下の規制が適用されます。
原則 | 月45時間、年360時間まで ※36協定を提出していても適用対象となる |
臨時的な特別の事情によって、労使が合意した場合 | 年720時間まで時間外労働と休日労働を合わせて月100時間未満時間外労働と休日労働を合わせた複数月(2~6か月)の平均が80時間以内月45時間を上回る時間外労働は年6回が上限 |
災害時における復旧及び復興の事業の場合 | 以下の2点のみ適用年720時間まで月45時間を上回る時間外労働は年6回が上限 |
参考:厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」
上限を超えて時間外労働をさせた事業者には、「6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金」が科されます。
働き方改革関連法では、上で紹介した時間外労働の上限規制以外にも、以下の規定が適用されています。
時間外労働の割増賃金率について、これまで中小企業
は「25%」とされていましたが、これが「50%」へと引き上げられます。
ちなみに大企業では、2010年4月から50%に引き上げられていました。
参考:厚生労働省「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、基準日(有給休暇を付与した日)から1年以内に、時季を指定して5日の年次有給休暇を取得させることが義務づけられました。時季指定の方法などは就業規則に記載し、労働者ごとの年次有給休暇管理簿も作成しなければなりません。
※この規定についての猶予措置はありません。
労使協定によりフレックスタイム制を導入する場合、これまで1か月としていた清算期間の上限が、最長で3か月に延長されています。これにともない、1か月を超える清算期間を設定する場合は所轄の労働基準監督署長へ労使協定を届け出ることが義務づけられました。
※この規定についての猶予措置はありません。
参考:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
一定の長時間労働や休日労働を行った労働者について、医師の面接指導を受けさせることが義務づけられました。長時間労働の基準は以下の通りです。
一般労働者 | 月80時間超 |
研究開発業務の従事者 | 月100時間超 |
高度プロフェッショナル制度の従事者 | 事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間との合計が1週間で40時間を超え、超えた分が月100時間超 |
なお建設業の場合、研究開発業務の従事者についての規定が最大で2025年3月31日まで猶予されています。
参考:厚生労働省「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されます」
建設業の2024年問題、特に「時間外労働の上限規制」が問題とされる背景には、業界特有の課題があります。ここでは以下の3つの課題についてみていきましょう。
少子高齢化は日本全体の問題です。ただし建設業では他業種よりもさらに労働者の高齢化が進んでいます。国土交通省がまとめた資料によると、55歳以上の建設業就業者は2001年以降にほぼ右肩上がりで増加しており、2022年には全体の35.9%に達しました(全産業の平均は31.5%)。一方で29歳以下の若手労働者の割合は全体の11.7%で、こちらも全産業の平均(16.4%)を大きく下回っています。
引用:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」より
建設業全体の就業者数も1997年をピークにほぼ右肩下がりの減少を続けており、人手不足は深刻です。
長時間労働の常態化も、建設業界全体に共通する課題です。国土交通省の資料によると、2021年度の「年間出勤日数」は全産業の平均と比べて12日多く、「年間実労働時間」は90時間も長くなっています。
休みがとりにくく残業が多いという特徴は、ひとつ上で紹介した人手不足の原因にもなっていると考えられます。
一般的な工事現場では下請け・孫請けといった「重層下請構造」がめずらしくありません。重層下請構造の現場では作業員同士の連絡調整がスムーズにいかなかったり、責任の所在があいまいになったりすることが多く、また下請けや孫請け業者が、元請けや上位の下請け業者から不利な条件を飲まされて無理をすいるケースもあります。
こうした不合理な構造が残業の多さや、ひいては人手不足の原因になってきました。
2024年問題を解消するため、官民でさまざまな取り組みが行われています。ここではその代表的なものとして以下の4つを紹介します。
安全で働きやすい職場環境を作るうえで重要な取り組みが、適正な工期設定です。十分に余裕を持った工期を設定することで、「不当に短い工期での発注」や「作業の遅れを取り戻すための長時間労働や休日労働」といった事態を防ぐことができます。
国土交通省が策定した「適正な工期設定等のためのガイドライン」も、こうした動きを後押しするものです。
参考:国土交通省「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドラインについて(平成30年7月2日改訂)」
また公共工事についても、施工時期の平準化や週休2日制確保工事に取り組むことで、労働者の処遇改善や建設業者の経営の健全化等をサポートしています。
参考:国土交通省「施工時期の平準化について-建設産業・不動産業」
参考:国土交通省「技術調査:働き方改革・建設現場の週休2日応援サイト」
サービス残業をなくすために必要な取り組みとして、適正な時間管理も重要です。そのためには勤務時間の正確な把握が欠かせません。このため2019年4月には労働安全衛生法の改正により、「労働時間の客観的な把握」が法的な義務となりました。
新しいルールでは原則として自己申告が認められず、タイムカードやパソコンなどを利用して労働時間を管理する必要があります。
参考:厚生労働省「客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました」
給与の見直しをはじめとした労働者の待遇改善も重要です。特に働き方改革関連法による時間外労働の制限は、日給月給制の労働者にとって収入の減少につながるため、(実績や能力に応じた)客観的な評価に基づく賃金設定などが欠かせません。
国土交通省が推進する「建設キャリアアップシステム(CCUS)」は、技能者一人ひとりの就業実績や資格を登録することで、労働者が客観的な処遇を受けやすくするシステムです。
建設DXとは、さまざまなデジタル技術を導入することで建設業界の業務プロセスを効率化する取り組みです。たとえばドローン測量で作業時間の短縮と作業員の負担軽減を両立することや、BIM/CIMの導入で生産性の向上や情報共有の効率化を実現することが挙げられます。
建設DXの詳細や具体的な事例については、以下の記事もご覧ください。
関連記事:今話題の建設DXとは?建設業者のメリットや具体事例について解説
2024年4月1日から適用された時間外労働の上限規制は、建設業界にとって深刻な問題です。それぞれの建設会社にとっても、働き方改革を実現しつつ持続的に発展することが大きな課題となっています。国のガイドラインやシステムなどを利用して、建設業界全体で真剣に取り組んでいくことが求められています。
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