官公庁などが行う入札は必ずしも常に成立するわけではありません。何らかの事情で落札者を決められない場合、その入札案件は「入札不調」や「入札不落」と呼ばれます。
この記事では入札不調と入札不落の違いや理由、その後の入札の流れについてわかりやすく説明していきます。これから具体的な入札に参加する方はもちろん、入札を検討している方もぜひ参考にしてください。
「入札不調」と「入札不落」は、どちらも入札が成立しない状態のことをいいます。入札が成立していませんから、もちろん業務を受注する事業者も決まっていません。しかし、入札不調と入札不落は別物です。まずはそれぞれの意味を簡単に説明します。
入札に参加する事業者がいないために開札されない(落札者が決まらない)状態のことです。入札者が1社のみの場合については法令上の明確な規定はありませんが、「入札契約制度の競争性が確保できない」として無効とする考え方もあります。
複数の入札があったものの、いずれも入札価格も発注機関があらかじめ決めた落札価格の上限(予定価格)を上回っていて、落札者が決まらない状態のことです。
近年、入札不調と入札不落は増加傾向です。2019年に国土交通省が行ったアンケートによると「都道府県の不調・不落の発生率の平均」は、災害復旧工事の多い都道府県などを中心に2018年度まで3年連続で上昇しています。
なお入札不調や入札不落が発生しても、その後の「再度入札」で契約に至るケースがほとんどです。ただし再度入札をしても予定価格を超えていたり、最初の入札に参加していた企業すべてが再度入札で辞退札を提出した場合などは、「再度公告入札」や「不落随契」が行われます(こちらは後ほど説明します)。
ちなみに入札不調や不落と似た言葉に入札の「取止め」「取消」「中止」がありますが、これらは入札公告資料の不備などを理由に発注機関側が入札手続を取り下げることで、入札不調や不落とは別物であることが多いです。
ただし、発注元によって言葉の使い方が異なる場合があるため、正確な意味については発注元に確認して下さい。
「入札に誰も参加しない」というのは入札不調の原因ですが、こうしたケースは決して珍しくありません。中には指名競争入札で、指名された業者がすべて辞退してしまうこともあります。参加者がいない理由は、主に以下のようなものです。
特に近年は災害復旧工事や国際イベントに関連する工事の需要が急増しており、①および②の理由による入札不調が多いと考えられています。
一方、「再度入札をしても予定価格を超えている」ケースは入札不落の原因となります。この「再度入札」というのは、予算決算及び会計令(予決法)に根拠がある制度です。
予算決算及び会計令 第82条
契約担当官等は、開札をした場合において、各人の入札のうち予定価格の制限に達した価格の入札がないときは、直ちに、再度の入札をすることができる。
最初の入札ですべての入札者が予定価格の範囲を超えた場合、すぐに2回目の入札を行うことができます。3回目までの入札で落札者がいなければ入札不落です。具体的には次のような流れになります。
第1回目入札書(入札価格) 甲社:1億5000万円 乙社:3億円 丙社:2億5000万円 |
第1回目の開札では3社とも予定価格を超えていました。そこで、
をアナウンスして、その場ですぐに再度入札を行います。
第2回目入札書(入札価格) 甲社:1億3000万円 乙社:辞退 丙社:1億4000万円 |
第2回目の開札では乙社が辞退札を提出し、残りの2社が入札額を引き下げました。しかしまだ予定価格を超えています。そこで再び、
をアナウンスして再度入札を行います。もしも第2回目の開札で3社とも辞退札を提出していた場合は、ここで入札を打ち切り、第1回目に最安値を提示した甲社と「随意契約」を結ぶこともできます。
第3回目入札書(入札価格) 甲社:1億2000万円 乙社:辞退 丙社:辞退 |
第3回目の開札では甲社のみ入札を行いましたが、依然として予定価格を超えています。通常は、自治体を中心にこの3回目で入札を打ち切るかどうか判断するのが一般的です。今回のケースでは甲社に対し、
を確認して、その後の流れを決めることが可能です。ただしこの場合も、発注機関の担当者が「予定価格」を甲社に教えることはありません(あくまで予定価格は伏せたままで確認をします)。
ちなみによく似た言葉に「再度公告入札」というものがありますが、こちらは入札手続きを最初(公告)からやり直すことです。詳しくは「再度公告入札」とはをご覧ください。
再度入札が行われる際、「これ以上金額を引き下げると採算が合わない」と判断した場合は、辞退札を提出してその後の入札を辞退します。一般的には、入札書の金額欄に「辞退」と記入して提出します。
先程の事例でいうと、第2回目の入札で乙社が、第3回目の入札で丙社が辞退札を提出しています。
すでに説明した通り、入札不調や入札不落になった場合は「再度公告入札」や「不落随契」が行われます。それぞれの特徴を説明していきます。
再度公告入札とは、入札不調や入札不落になった入札手続きをいったん打ち切って、公告からやり直すことです。再度公告入札の根拠については予決令の中に書かれています。
予算決算及び会計令 第92条
契約担当官等は、入札者若しくは落札者がない場合又は落札者が契約を結ばない場合において、さらに入札に付そうとするときは、第74条の公告の期間を5日までに短縮することができる。
再度公告入札を行う場合、公告期間は通常の入札公告(10日)よりも短い「5日」にすることが認められています。再度公告入札では仕様書や予定価格を一定範囲内で手直しすることも可能ですが、内容を大きく変える場合は、再度公告入札ではなく新規の入札案件となります。
不落随契とは、入札不落の際に行われる随意契約です。不落随契の根拠も予決令の中にあります。
予算決算及び会計令 第99条の2
契約担当官等は、競争に付しても入札者がないとき、又は再度の入札をしても落札者がないときは、随意契約によることができる。この場合においては、契約保証金及び履行期限を除くほか、最初競争に付するときに定めた予定価格その他の条件を変更することができない。
不落随契は、あくまで入札制度の例外です。通常の手順で入札をやり直すには時間がない場合や、煩雑な事務手続きで発注者の業務に支障をきたす場合などに利用されます。
具体的には、3回程度の再度入札でも入札額が予定価格を超えた(入札不落)場合に、その時点の最低価格を提示した事業者と金額交渉を行います。交渉がまとまれば「随意契約」として契約成立が成立します。
今回は入札不調と入札不落について、それぞれの内容について説明しました。特に近年は災害復旧工事やオリンピック関連工事の需要が増えており、人手不足・資材不足を原因とする入札不成立が増加傾向にあります。
公共工事の入札を検討している方であれば、ぜひ発注機関のホームページや「入札ネット+α」を参考にして過去の公共工事の落札価格を把握し、落札に向けた無理のない戦略を立てておくようにしましょう。