国や自治体、独立行政法人などが発注する公共工事。建築・土木事業者にとって多くのメリットがある一方で、受注するには入札が必要となり、入札そのものにもさまざまな参加条件が設けられています。この記事では公共工事の受注に必要な資格や工事案件の見つけ方、入札の流れなどについて説明していきます。公共工事に興味をお持ちの方は、ぜひ参考にしてみてください。
公共工事の入札資格や入札の流れを知る前に、まずは公共工事とはどのようなものか確認していきましょう。
「公共工事」にはさまざまな法令が関係しています。たとえばそのうちのひとつ「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」には、公共工事の定義についてこのように書かれています。
“この法律において「公共工事」とは、国、特殊法人等又は地方公共団体が発注する建設工事をいう。”(第二条第二項)
この中にある通り、公共工事の発注者は「国・特殊法人等・地方公共団体」です。「特殊法人等」という表現は少しわかりにくいですが、他の法令、たとえば法人税法に規定された「公共法人」や、建設業施行規則に規定された「国土交通省令で定める法人」などがこれに相当します。少し長くなりますが、それぞれ確認してみましょう。
※「法人税法 別表第一」より引用
※「建設業施行規則 第十八条」より引用
これらの特殊法人等は、いわゆる「財団法人」と名のつく法人や民営化された「元・国営法人」など、公共性の高い事業を行う法人です。
公共工事発注者の内訳としては、国と地方自自治体が全体の8割近く、残りを特殊法人等が占めています。
国土交通省の資料によれば、公共工事の具体例は次のようになっています。
※国土交通省「建設業法等における定義」より引用
公共工事に含まれるもの | 公共工事に含まれないもの |
---|---|
○国から発注されたダムの築造作業 ○地方自治体から発注された公民館の建築作業 ○維持管理(委託)として行われる、道路の補修作業 | ○土木工作物の建設に用いるプレキャスト製品製造 ○PFIで発注される運営業務(場合による) ○維持管理として行われる、除草作業、除雪作業 ○設計業務、監理業務 |
上記の表の通り建築・土木工事に関連していても、「建設工事」でないものは公共工事とならないケースが多いため注意してください。
東日本大震災からの復興事業や2020年に開催予定されていた東京オリンピック需要の影響もあり、国内の建設工事はここ数年高水準で推移してきました。たとえば2020年度の建設投資額(見通し)は63兆1,600億円で、2017年度から4年連続で60兆円台となっています。
このうち政府投資額は全体の41%を占める25兆 6,200億円で、さらにその中の16兆9,300億円が公共事業です。
建築・土木事業者が公共工事に参加するには「入札」が必要です。以前は発注者側が特定の事業者を指名する「指名競争入札」が中心でしたが、現在では国の方針により、より公平性を保てる「一般競争入札」が増えています。
公共工事を受託するには、事業者側にも一定のコストが発生します。一例としては以下のものが挙げられます。
どのようなコストが必要になるかは、発注者や公共工事の内容、入札参加の方法(自分でやるか、行政書士に依頼するかどうか)によっても変わってきます。入札参加を検討する際は事前に確認しておく必要があるでしょう。
公共工事の入札には参加資格が必要です。代表的なものとしては「建設業許可」が挙げられますが、この許可も「土木一式工事」や「建築一式工事」など、工事の内容に応じて計29種類の中から必要なものを取得しなければなりません。なお建築業許可を取得するには「経営業務の管理責任者」や「専任技術者」を用意する、一定額(500万円)以上の資産を確保するといった要件を満たす必要があります。
もうひとつ、忘れてはならないのが「経営事項審査(経審)」です。経審とは国交省の認可を受けた経営状況分析機関が行う財務諸表審査で、これによって事業者の「経営状況」や「経営規模」「技術力」「その他の審査項目(社会性等)」が数値化されます。
国土交通省の場合は企業の「財産的基礎」つまり経営力に応じて参加できる工事規模を決定しているため、公共工事を受託したい事業者にとって「経営事項審査」は、公共工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者が必ず受けなければならない審査です。
これらの必要条件を満たしたら、発注者ごとに作成する「有資格者名簿」への登録申請を行う(名簿に登録される)ことで入札に参加できるようになります。(『入札参加資格とは何か?種類や取得のための要件、等級についてわかりやすく解説します』も参照してください)。
なおこのような参加資格は、国や地方公共団体、特殊法人等によっても異なります。公共工事経験のない事業者が独力で入札に参加するのは困難ですので、必要に応じて行政書士などのサポートを受けたほうが安心でしょう。
必要な資格を満たしたら、いよいよ入札です。とはいえ公共工事は非常に多く、東京都内だけでも1日あたり1000件以上の入札案件が公告されると言われています。
このため建築・土木事業者が自分ですべての公告に目を通し、自社に合った入札案件を見つけるというのは現実的ではありません。オンラインの公共工事入札情報サイト(「入札ネット+α」など)を活用して、システムによって入札可能案件を探す方が効率的です。
なおシステムを利用する際は、以下のような要素を軸にすると良いでしょう。
いちばん重要な要素です。まずは29種類の建設業許可のうち必要な許可を取得しているか、経営規模の基準をクリアしているか、といった点を確認する必要があります。
公共工事の行われる地域が、自社の対応できる範囲かどうかも重要な要素です。出張対応で問題ないという場合も多いですが、中には地元企業を優遇する入札案件もあるため注意が必要でしょう。
意外と重要な要素が、支払いのタイミングです。特に中小規模の公共工事では「全額後払い」というケースも少なくないため、自社の資金繰り状況とも相談しながら入札案件を探す必要があります。
公共工事の入札は、下の図のように大きく分けて「資格審査→入札・契約→施工」という流れで行われます。ここではそれぞれのプロセスについて簡単に説明します。
建設業許可の取得 | 29種類からなる建設業許可のうち必要なものを取得します。資格の取得には資格や一定の経験(実績)が必要です |
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経営事項審査(経審) | 設業法施行規則で指定された財務諸表を提出し、経営規模等について審査を受けます |
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有資格者名簿への登録申請 | 有資格者名簿に登録を受けるため「競争入札参加資格申請」を指定の様式で作成・提出します(郵送、もしくはインターネットによる申請など)。原則として、参加申請は官公庁や自治体など、発注者ごとに行います。 ※参考①:国土交通省「国土交通省地方整備局等 建設工事競争参加資格審査申請書作成の手引-令和3・4年度版-」 |
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企業の格付け | 審査結果に基づいて入札の「有資格者名簿」に登録されます |
公告 | 発注者が公共工事の公募を行います |
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参加資格確認 | 発注者に「入札参加資格確認申請書」を提出し、 |
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通知 | 発注者から確認の結果が通知されます※企業評価のプロセスの一部 |
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入札 | 発注者に「入札書」と添付資料を提出します |
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契約 | 発注者と工事の受託契約を交わします |
詳しくは「一般競争入札とは?他の入札との違いや流れ、落札のコツまで解説」をご覧ください。
掲示等 | 発注者が公共工事の公募を行います |
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技術審査 | 発注者に「競争参加資格確認申請書」を提出し、競争参加資格の確認を受けます※企業評価のプロセスの一部 |
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指名基準 | 発注者が入札参加者の指名基準を決定します※企業評価のプロセスの一部 |
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指名業者の選定 | 発注者が指名基準に基づき、入札に参加する事業者を選定します※企業評価のプロセスの一部 |
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入札 | 発注者に「入札書」と添付資料を提出します |
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契約 | 発注者と工事の受託契約を交わします |
なお「通常指名競争入札」の場合、上記「工事希望型指名競争入札」の「指名基準」以降と同じプロセスになります。
監督 | 「契約の適正な履行を確保する」ため、発注者によって工事の監督が行われます |
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検査 | あらかじめ作成された「チェックポイント」に基づき、発注者が工事の内容を検査します |
↓
工事成績評定 | 工事の完成後、発注者が工事ごとの施工状況や出来ばえ、技術提案などを採点します |
公共工事の入札では、一般に「入札価格」で落札者が決まります。ただし入札価格が低ければ低いほうが良いというわけではなく、発注者が決めた「予定価格と最低制限価格の範囲内」で、最も低い価格で入札した「最低価格自動落札」が一般的です。
あらかじめ設定された調査基準価格を下回る入札があった場合に、その入札価格で適正な履行が可能であるか否かについて調査した上で落札者を決定する「低入札価格調査」という制度もあります 。
これらの他にも、価格のほかに「技術力」を評価対象に加えて工事の品質や施工方法を総合的に判断する「総合評価落札方式」という落札方式もあります。国が推奨する制度ですが、総合評価を行う技術者が足りないことなどから、数はそれほど多くないのが現状です。
※参考:国土交通省「公共工事発注にあたっての総合評価落札方式活用ガイド」
今回は公共工事の概要や発注者、公共工事に入札するコストや入札資格、入札案件の見つけ方、そして入札の流れについて説明しました。膨大な入札案件の中から、自社に合った公共工事を見つけることは簡単ではありません。効率的な情報収集のためにも、「入札ネット+α」を上手に活用してください。