入札に参加するためには、発注者(国や地方自治体)が指定する「資格」が必要です。資格の種類は発注者や入札案件ごとにさまざまですが、今回取り上げる「全省庁統一資格」はその名の通り、一種類で国の各機関の入札案件に対応できる大変便利な資格です。ここでは全省庁統一資格の特徴や取得手順について、わかりやすく説明していきます。
全省庁統一資格とはその名の通り、国の全省庁の入札案件に参加できる資格です。また国の外郭団体や地方公共団体が管轄する入札案件の中にも、全省庁統一資格で参加できるものがあります。
参加可能な入札案件の種類は、主に「物品の製造・販売」や「役務の提供」です。これに対し建築、建設や土木工事などの入札案件は全省庁統一資格の対象となりません。
全省庁統一資格は一般競争入札の資格ですが、取得することで指名競争入札や随意契約にも「選ばれやすくなる」という効果があります。なお資格の取得は企業に限らず、個人事業主でも可能です。
それでは全省庁統一資格についてもう少し詳しく見ていきましょう。
ここでは全省庁統一資格で入札可能な機関・地域・業種について説明します。
全省庁統一資格で入札できるのは国の「全省庁」が管轄する入札案件です。具体的には以下の機関が対象となります。
衆議院 | 参議院 | 国立国会図書館 |
最高裁判所 | 会計検査院 | 内閣官房 |
内閣法制局 | 人事院 | 内閣府本府 |
宮内庁 | 公正取引委員会 | 警察庁 |
個人情報保護委員会 | 金融庁 | 消費者庁 |
復興庁 | 総務省 | 法務省 |
外務省 | 財務省 | 文部科学省 |
厚生労働省 | 農林水産省 | 経済産業省 |
国土交通省 | 環境省 | 防衛省 |
上記各省庁の外局及び附属機関その他の機関並びに地方支分部局 |
取得した資格は、有効期限内ならどの機関でも有効です。仮に複数の省庁の入札に参加する場合でも資格を取り直す必要はありません。
一部の外郭団体や地方公共団体が管轄する入札案件の中にも、全省庁統一資格で参加できるものがあります(具体的な入札条件については各案件の概要を確認してください)。
全省庁統一資格には「競争参加地域」という地域区分があります。具体的には全国の47都道府県を以下の8つの地域に分け、入札に参加できる地域をあらかじめ指定しておくという仕組みです。
①北海道 | 北海道 |
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②東北 | 青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県 |
③関東甲信越 | 茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県 |
④東海北陸 | 富山県、石川県、福井県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県 |
⑤近畿 | 滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県 |
⑥中国 | 鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県 |
⑦四国 | 徳島県、香川県、愛媛県、高知県 |
⑧九州沖縄 | 福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県 |
競争参加地域の指定は資格の申請時に行います。本社や営業所のある地域以外を指定することもできますし、すべての地域を選択して「全国をカバー」することも可能です。
全省庁統一資格で参加できる入札案件は「物品の製造・販売など」です。「競争参加者の資格に関する公示」によると、入札の対象となる「資格の種類及び調達する物品等の種類」は、それぞれ以下のように区分されています。
物品の製造 | ①衣服・その他繊維製品類、②ゴム・皮革・プラスチック製品類、③窯業・土石製品類、④非鉄金属・金属製品類、⑤フォーム印刷、⑥その他印刷類、⑦図書類、⑧電子出版物類、⑨紙・紙加工品類、⑩車両類、⑪その他輸送・搬送機械器具類、⑫船舶類、⑬燃料類、⑭家具・什器類、⑮一般・産業用機器類、⑯電気・通信用機器類、⑰電子計算機類、⑱精密機器類、⑲医療用機器類、⑳事務用機器類、㉑その他機器類、㉒医薬品・医療用品類、㉓事務用品類、㉔土木・建設・建築材料、㉕警察用装備品類、㉖防衛用装備品類、㉗その他 |
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物品の販売 | ①衣服・その他繊維製品類、②ゴム・皮革・プラスチック製品類、③窯業・土石製品類、④非鉄金属・金属製品類、⑤フォーム印刷、⑥その他印刷類、⑦図書類、⑧電子出版物類、⑨紙・紙加工品類、⑩車両類、⑪その他輸送・搬送機械器具類、⑫船舶類、⑬燃料類、⑭家具・什器類、⑮一般・産業用機器類、⑯電気・通信用機器類、⑰電子計算機類、⑱精密機器類、⑲医療用機器類、⑳事務用機器類、㉑その他機器類、㉒医薬品・医療用品類、㉓事務用品類、㉔土木・建設・建築材料、㉕警察用装備品類、㉖防衛用装備品類、㉗その他 |
役務の提供等 | ①広告・宣伝、②写真・製図、③調査・研究、④情報処理、⑤翻訳・通訳・速記、⑥ソフトウェア開発、⑦会場等の借り上げ、⑧賃貸借、⑨建物管理等各種保守管理、⑩運送、⑪車両整備、⑫船舶整備、⑬電子出版、⑭防衛用装備品類の整備、⑮その他 |
物品の買受け | ①立木竹(ただし、国有林野事業で行う林産物の買受けを除く。)、②その他 |
上記の分類のうち、特に注意が必要なのは「役務の提供等」です。一般に「役務の提供」という言葉には「土木工事」が含まれます(例:国税庁「法令解釈通達 第5節 役務の提供」)。しかし入札資格に関連して「役務の提供」という場合、その中に土木工事は含まれません。
建設工事、測量・建設コンサルタントなど土木工事関連の入札案件では、全省庁統一資格ではなく管轄省庁ごとの資格が必要になります。
全省庁統一資格には有効期間があります。更新は3年に一度、全国一斉に行われるため、期間の長さは最大で3年です(次回の更新は令和4年4月1日)。
申請には「定期申請」と「随時申請」があります。更新される年の1月初旬〜月末に申請するのが定期申請で、有効期間は翌年度の4月1日から3年後の3月31日(満了日)までの3カ年です。一方、それ以外の時期に申請するのが随時申請で、資格取得日から次の満了日までが有効期間となります。
申請のタイミング | 有効期間 | |
---|---|---|
定期申請 | 満了日を迎える年の1月初旬〜月末 | 翌年度の4月1日から3カ年 |
随時申請 | 定期申請の期間外 | 資格付与日から満了日まで |
現在有効な資格を持っている企業の場合、定期申請は「更新申請」になります。これに対し全省庁統一資格を取得したことのない企業や、以前取得した資格の有効期間が切れている企業の場合、定期申請や随時申請は「新規申請」となります。
なお随時申請の場合、全省庁統一資格の申請から取得までの期間は1カ月前後です。タイミングによっては入札に間に合わなくなる可能性もあるため、申請には時間的な余裕を持つことも大切でしょう。
基本的に全省庁統一資格の取得に費用はかかりません。必要なのは申請書類に添付書類する公的書類の取得料金、申請書類送付時の切手代といった実費のみです。
ただし申請書類の作成や提出代行を行政書士に依頼する場合、おおむね8万円程度の費用が発生します(料金設定は行政書士事務所によって異なります)。
全省庁統一資格取得の手順は「必要書類の準備→申請→各省庁による審査→取得」という流れになります。
法人の場合、申請に必要な書類は「申請書」に加えて「登記事項証明書(※)」「納税証明書(※)」「財務諸表(1年分)」などです。更新申請の場合はさらに「資格審査結果通知書」も必要になります。
※公的書類は発行日から3カ月以内のもの
法人の所在地や名称、代表者の名前に外字が含まれる場合は「外字届」、行政書士などに申請を代理させる場合は「委任状」もそれぞれ必要です。
新規申請 | 更新申請 | |
---|---|---|
登記事項証明書 | ◯ | ◯ |
納税証明書 | ◯ | ◯ |
財務諸表(1年分) | ◯ | ◯ |
資格審査結果通知書 | ― | ◯ |
外字届 | ※必要に応じて | ※必要に応じて |
委任状 | ※必要に応じて | ※必要に応じて |
それぞれの書類はコピー(写し)で構いません。全省庁統一資格以外の入札資格でも同様の書類が必要なため、複数の資格取得を考えている場合はあらかじめ各書類をコピーしておいたほうが良いでしょう。
申請方法は「郵送・持参」もしくは「インターネット」のどちらかです。
記入した申請書と添付書類一式を「受付窓口」に郵送または持参します。受付窓口は申請地域にある国の機関になりますが、提出すべき最寄りの窓口がわからない場合は「統一資格審査申請・調達情報検索サイト」の「受付・審査窓口検索」から郵便番号、住所などで検索可能です。
インターネットの場合、「統一資格審査申請・調達情報検索サイト」と「調達ポータル」のどちらかで申請を行います。添付書類については「データでアップロード」するほか「郵送」も可能です(スキャナーなどが手元にない場合は、添付資料一式を申請先の省庁窓口に郵送)。
なおサイトごとに利用方法や資格審査通知書の発行方法が多少異なるため、利用の際は注意が必要です。
統一資格審査申請・調達情報検索サイト | 調達ポータル(ログインして申請する場合) | |
---|---|---|
添付書類の提出方法 | アップロードか郵送 | アップロードか郵送 |
利用者登録 | 不要 | 必要(電子証明書) |
資格審査通知書の発行方法 | 紙(郵送) | 紙かPDFより選択 |
申請書を提出すると、提出先の省庁で審査が行われます。審査内容は「申請内容のチェック」と「添付書類のチェック」が中心なので、申請書への記入漏れや添付書類のミスなどがなければ基本的に心配する必要はありません。
審査期間はおおよそ1カ月前後です。具体的な入札案件が控えている場合は、十分余裕を持って申請する必要があります。
審査に問題がなければ「資格審査結果通知書」が発行され、全省庁統一資格を取得できます。紙で発行された通知書は申請時の住所に郵送されますが、通知書がPDFで発行された場合は申請者側のダウンロードが必要です。
資格審査結果通知書は入札参加の際に必要となります。万一無くすと入札できなくなる恐れもあるので、コピーを取るなどして「控え」を保管しておいたほうが無難でしょう。
ちなみに資格審査結果通知書には入札資格の「等級」が記載されています。等級は企業の業績や規模によって変わりますが、等級次第では入札できる案件が限られるケースも少なくありません。等級については次の見出しで詳しく説明します。
全省庁統一資格の等級は、以下のような流れで判定されます。
まず業種(物品の製造・物品の販売・役務の提供・物品の買受)に応じ、下記の4項目または5項目ごとに点数が割り振られます。
物品の製造 | 物品の販売/役務の提供/物品の買受 |
---|---|
①生産・販売高の年間平均 (前2カ年の平均) | ①生産・販売高の年間平均 (前2カ年の平均) |
②自己資本額の合計 | ②自己資本額の合計 |
③流動比率 | ③流動比率 |
④営業年数 | ④営業年数 |
⑤設備の額 | ― |
次にそれぞれの業種は、点数の合計(最大100点)によって3段階、もしくは4段階に等級分けされます。
物品の製造/物品の販売/役務の提供等 | 物品の買受け |
---|---|
A〜D(4段階) | A〜C(3段階) |
参加できる入札の規模(金額)は等級によって変わります。最も低い等級では予定価格「数百万円」の案件しか参加できないのに対し、最高等級なら「数千万円以上」の案件にも参加可能です。
詳しい等級制度については「統一資格審査申請・調達情報検索サイト」の「付与数値・等級等」をご確認ください。
ここまで全省庁統一資格の内容や取得手順について説明してきました。全省庁統一資格なら国が管轄するさまざまな入札案件に挑戦できます。申請書に必要事項を記入し、添付書類をきちんと用意すれば必ず取得できる資格なので、これから入札を考えている企業はぜひ取得を目指してください。