国や自治体が公共工事や物品発注などを行う場合、通常は「入札(一般競争入札)」が行われます。しかし一定の条件下では、入札の代わりに「随意契約(特命随意契約)」が行われることもあります。
今回はその「特命随意契約」にスポットを当てて、他の随意契約との違いや法令上の根拠、契約を結ぶ際に作成する「随意契約理由書」などについて説明します。
特命随意契約は、随意契約と呼ばれる契約方式のひとつです。
なお随意契約には「特命随意契約」「少額随意契約」「不落随意契約」という3つの種類があり、単に随意契約という場合は特命随意契約を指します。
随意契約とは、国や自治体が競争入札をせずに事業者と契約を結ぶことです。
公共工事などを行う場合、発注者は原則として競争入札(一般競争入札)を行わなくてはなりません。しかし法令に定められた一定の条件の下では随意契約が認められます。
法令というのは、具体的には「予算決算及び会計令」と「地方自治法施行令」です。前者は国が発注者となる場合、後者は自治体が発注者となる場合に適用されます。どちらも非常に長い条文なので、それぞれ冒頭の部分のみ紹介します。
※引用部分は金額に関する内容が中心ですが、随意契約の条件は金額だけに限りません
予算決算及び会計令 第99条
会計法第29条の3第5項の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
1 国の行為を秘密にする必要があるとき。
2 予定価格が250万円を超えない工事又は製造をさせるとき。
3 予定価格が160万円を超えない財産を買い入れるとき。
4 予定賃借料の年額又は総額が80万円を超えない物件を借り入れるとき。
5 予定価格が50万円を超えない財産を売り払うとき。
6 予定賃貸料の年額又は総額が30万円を超えない物件を貸し付けるとき。
7 工事又は製造の請負、財産の売買及び物件の貸借以外の契約でその予定価格が100万円を超えないものをするとき。
(以下省略)
地方自治法施行令 第167条の2
地方自治法第234条第2項の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
1 売買、貸借、請負その他の契約でその予定価格(貸借の契約にあつては、予定賃貸借料の年額又は総額)が別表第5上欄に掲げる契約の種類に応じ同表下欄に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき。
2 不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。
(以下省略)
別表第5(第167条の2関係)
1 工事又は製造の請負 | 都道府県及び指定都市 250万円 |
市町村(指定都市を除く。以下この表において同じ。) 130万円 | |
2 財産の買入れ | 都道府県及び指定都市 160万円 |
市町村 80万円 | |
3 物件の借入れ | 都道府県及び指定都市 80万円 |
市町村 40万円 | |
4 財産の売払い | 都道府県及び指定都市 50万円 |
市町村 30万円 | |
5 物件の貸付け | 30万円 |
6 前各号に掲げるもの以外のもの | 都道府県及び指定都市 100万円 |
市町村 50万円 |
特命随意契約というのは、国や自治体が特定の事業者を指名して「競争入札を行わずに」契約を結ぶことです。主に契約の「性質」や「目的」が競争入札に適さない場合や、緊急の必要があるため競争入札が不可能な場合に利用されます。
特命随意契約は、競争入札よりも手続きがシンプルなため契約に時間がかかりません。
一方で複数事業者による競争がないため、事業者の選定プロセスや契約内容が不透明になりがちなのが難点です。
特命随意契約(随意契約)の根拠となるのは「会計法」と「予算決算及び会計令(予決令)」です。まずはそれぞれの条文を紹介します。
会計法第29条の3
契約担当官及び支出負担行為担当官(以下「契約担当官等」という。)は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、第3項及び第4項に規定する場合を除き、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならない。
4 契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合及び競争に付することが不利と認められる場合においては、政令の定めるところにより、随意契約によるものとする。
予決令 第102条の4
各省各庁の長は、契約担当官等が指名競争に付し又は随意契約によろうとする場合においては、あらかじめ、財務大臣に協議しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
3 契約の性質若しくは目的が競争を許さない場合又は緊急の必要により競争に付することができない場合において、随意契約によろうとするとき。
どちらの条文にも「(契約の性質や目的が)競争を許さない場合」という言葉が出てきますが、これは結果的に競争入札できなかったということではなく、最初から明確な意図を持って競争入札をしないことを指します。
これに当てはまるのは、たとえば「特別な技術を持っている」「特許を持っている」事業者がひとつしかないために、その会社としか契約ができないといった場合です。
同じ随意契約のひとつである「少額随意契約」とは、複数、つまり2社以上の事業者から見積書を提出させる「見積もり合わせ」を行った上で契約相手を決める方法です。
なお法令によると、随意契約を行う場合はできるだけ少額随意契約にすることが求められています。
予決令 第99条の6
契約担当官等は、随意契約によろうとするときは、なるべく2人以上の者から見積書を徴さなければならない。
不落随意契約とは、競争入札を行っても落札者が現れない場合や落札が行われなかった場合、あるいは落札者が契約を結ばなかった場合に、あらかじめ定めた「最低価格」や「条件」で契約を行うことです。
予決令 第99条の2
契約担当官等は、競争に付しても入札者がないとき、又は再度の入札をしても落札者がないときは、随意契約によることができる。この場合においては、契約保証金及び履行期限を除くほか、最初競争に付するときに定めた予定価格その他の条件を変更することができない。
予決令 第99条の3
契約担当官等は、落札者が契約を結ばないときは、その落札金額の制限内で随意契約によることができる。この場合においては、履行期限を除くほか、最初競争に付するときに定めた条件を変更することができない。
特命随意契約は、国や自治体にとってあくまで例外的な契約方法であり、制度を厳格に運用しなければなりません。このため自治体の中には、わざわざ特命随意契約や随意契約のためのガイドラインを公表しているケースもあります。
立川市では、Web上で「特命随意契約のガイドライン」を公開しています。このガイドラインで規定されているのは以下の4項目に関する内容です。
特に②から④では、特命随意契約の対象となるかどうかの判断基準や具体的な内容が明記されているため、市と契約を結びたい事業者にとっても非常に参考になります。
さいたま市が公開しているガイドラインは「随意契約ガイドライン」という名前で、特命随意契約だけでなく少額随意契約や不落随意契約に関する内容も含まれるものです。全体的にページ数が多く記載項目も多いため、ここでは「目次」だけ引用します。
目次
1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2 ガイドラインの対象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
3 随意契約とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
4 留意すべき事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
5 随意契約ができる場合(特定調達契約以外) ・・・・・・・・・4
(1)少額の契約
(2)その性質又は目的が競争入札に適しない契約をするとき
(3)特定の施設等から物品を買入れ又は役務の提供を受ける契約をするとき
(4)新規事業分野の開拓事業者からの新商品の買入契約をするとき
(5)緊急の必要によるもの
(6)競争入札に付することが不利なもの
(7)時価に比して著しく有利な価格で契約ができるもの
(8)競争入札に付し入札者又は落札者がないとき
(9)落札者が契約を締結しないとき
6 特定調達契約に関する事項・・・・・・・・・・・・・・・・・18
7 契約内容の公表について・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
8 関係法令等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
このガイドラインには随意契約の対象となる「金額」なども細かく書かれているため、事業者にとっても必読です。
国や自治体は、特命随意契約を結ぶ際に「随意契約理由書」を作成しなければなりません。
随意契約理由書とは随意契約の理由を明らかにする書類のことです。なおこの呼び名は便宜的なもので、実際には国や自治体によってさまざまな呼び名(意契約理由書、選定理由書、業者選定理由書、特命契約理由書など)があります。
随意契約理由書に記載される項目も国の機関や自治体によって多少異なりますが、少なくとも「なぜその機材を購入するのか」「なぜその業者を選定するのか」という理由は記載しなければなりません。これらの項目は「機種選定理由書」や「業者選定理由書」とも呼ばれます。
機種選定理由書とは、物品購入で特命随意契約を行う場合に作成する理由書です。主に以下の3点について記載します。
なぜ購入する必要があるのかという、そもそもの理由を記載します。
目的を達成するために必要な性能と、その根拠を記載します。
実際に選定した物品が、目的や求められる性能に合致していると判断した根拠を記載します。複数の物品から選定した場合、カタログなどから数値を転記した「性能比較表」を付けることもあります。
業者選定理由書とは「なぜその業者を選んだのか?」を記載する理由書です。たとえば特定の物品を扱う販売会社が1社しかない場合には、その理由(メーカーと独占販売契約を結んでいるなど)を記載します。
ここでは随意契約理由書の具体例として、千代田区が公開している「特命随意契約理由書:特命随意契約理由書(4月公表分-4)」から一部抜粋して引用します。
件名 | 保育園入園選考システム運用保守業務 |
種類 | 委託 |
概要 | 保育園入園選考システムが正常に稼働するよう、運用と保守を行う。 |
選考理由 | システム導入年度 令和2年度保育園入園選考システムは、下記業者が、開発・導入したものである。 保育園入園選考システムに関する保守・運用サポート業務であり、既存の機器、設備、情報処理システム等と密接不可分の関係にあり、同一の者以外では責任区分が不明確になり、また、故障発生時の原因究明・故障修理など対応が困難になる等、業務の履行を達成できないものである。 以上の理由より、下記業者を契約相手方に指定することとする |
契約の相手方 | 名称 (省略) 住所 (省略) |
契約年月日 | 令和3年4月1日 |
契約金額 | 1,452,000円(消費税を含む) |
契約期間 | 令和3年4月1日から令和4年3月31日まで |
担当課 | 子ども部 子ども支援課 |
根拠規定 | 地方自治法施行令第167条の2第1項第2号 |
今回は「特命随意契約」について詳しく説明しました。特命随意契約は国や自治体にとって例外的な発注方法ですが、他にライバルがいない特別な技術を持っていたり、特殊な物品を扱っているような場合は受注のチャンスがあります。該当する事業者の方は、ぜひ参考にしてみてください。