SDGsという言葉をご存じでしょうか?「よりよい世界を目指す」ための共通目標とされているSDGsは、建築の世界とも深い関わりがあります。今回の記事では建設業界や建築会社がSDGsに取り組む意味や、SDGsに向けた政府の取り組みを紹介していきます。
SDGsと建設業の話に入る前に、まずはSDGsについて簡単に説明しましょう。
SDGsとはSustainable Development Goalsの略で、日本語では「持続可能な開発目標」と呼ばれています。SDGsの目標は、2030年までに地球上で「誰一人取り残さない」「持続可能でよりよい世界を目指す」ことです。
SDGsには、世界中の国や団体が目指すべき「17のゴール」が設けられています。
17の目標の下には169のターゲットと232の指標が設けられ、国や団体がそれぞれの立場に応じて具体的なアクションを起こすことが求められています。
日本では政府が「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置し、経団連もSDGs達成に向けた行動を宣言するなど、官民を挙げてSDGsに積極的に取り組む姿勢が見られます。
もちろん、建築の世界もこの動きと無縁ではありません。2020年4月には日本建築学会が「SDGs対応推進特別調査委員会」を設置し、SDGsの推進に向けた具体的な指針と目標を公表しました。後ほど説明しますが、大手ゼネコンをはじめとする建設会社でもさまざまな取り組みを進めているところです。
一方で国際的に見ると日本は決してSDGsの先進国とはいえません。各国の取り組みをまとめた「Sustainable Development Report 2021」によると日本は165か国中の「18位」で、8位のフランスや4位のドイツ、上位3位を占める北欧諸国よりも取り組みが遅れています。
ここからは建設業界とSDGsの関係に絞って説明を進めていきましょう。
生活に欠かせない住宅や都市基盤を作る建設業界は、そもそもSDGsと非常に親和性の高い業界です。建物などの建築会社であれ道路や橋やトンネルを作る土木会社であれ、事業理念そのものがSDGsといっても過言ではありません。
日本がSDGsの各ゴールを達成し、国際的な責任を果たしていく上で、建設業界全体や各事業者による取り組みは必要不可欠といえます。
極論をすれば建設業界はSDGsの17のゴールすべてに関係しています。中でも特に建設業界と関係の深いゴールとしては、以下のものが挙げられるでしょう。
ゴール | ターゲット |
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6.安全な水とトイレを世界中に | 2030年までに、全ての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす。 女性及び女児、並びに脆弱な立場にある人々のニーズに特に注意を払う。 |
7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに | 2030年までに、安価かつ信頼できる現代的エネルギーサービスへの普遍的アクセスを確保する。 |
9.産業と技術革新の基盤をつくろう | 全ての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発する。 |
11.住み続けられるまちづくりを | ・2030年までに、全ての人々の、適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する。 ・2030年までに、包摂的かつ持続可能な都市化を促進し、全ての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する。 ・2030年までに、女性、子供、高齢者及び障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する。 |
12.つくる責任 つかう責任 | 国内の政策や優先事項に従って持続可能な公共調達の慣行を促進する。 |
13.気候変動に具体的な対策を | 全ての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する。 |
SDGsと建設業との関係をめぐって、最近特に注目を集めているのが「グリーンインフラ」です。
グリーンインフラとは「自然環境が有する機能を社会における様々な課題解決に活用しようとする考え方」のことで、たとえば治水対策としての遊水池の整備、津波被害を軽減するための防潮堤の設置、屋上緑化によるヒートアイランド対策などがその一例です。
欧米では30年ほど前から取り組みが進んでいたグリーンインフラですが、日本では東日本大震災をきっかけに注目されました。
近年は「防災・減災」「地域復興」「環境保全」の3分野を中心に本格的な取り組みが進んでおり、SDGsの目標達成への貢献が期待されています。
国土交通省では2020年より「グリーンインフラ大賞」を創設し、先進的な取り組みを表彰するとともに、グリーンインフラについての情報発信を目指しています。
2020年12月に決定した「第1回グリーンインフラ大賞」の優秀賞は以下の通りです(国土交通省ホームページ『第1回グリーンインフラ大賞の優秀賞を決定しました!』より)。
雨庭整備事業(四条堀川交差点) | 京都市建設局みどり政策推進室 |
公民連携による水田貯留事業の推進 | 安城市 |
調整池を兼ねた景観緑地(大宮聖苑) | 株式会社日本設計 |
仙台ふるさとの杜再生プロジェクト | 仙台市 |
旧河川敷を活用したグリーンインフラの取組み | 横浜市環境創造局 |
カナドコロ | 工学院大学建築学部 遠藤新研究室 |
茨城県守谷市における官民連携による戦略的グリーンインフラ 推進プロジェクト ~守谷版グリーンインフラの取り組み~ | 茨城県守谷市、(株)福山コンサルタント |
中間支援組織がつなぐ狭山丘陵広域連携事業 | 特定非営利活動法人 NPObirth |
民有林と街を紡ぐ新たなコモン;フットパスという戦略 | 上牧里山づくり・信州大学社会基盤研究所 |
深大寺ガーデン | 株式会社グリーン・ワイズ |
千年続く棚田インフラの再生プロジェクト | NPO法人英田上山棚田団 |
キリンビール横浜工場の緑地を活用した魅力あるまちづくりへの貢献 | キリンビール株式会社 横浜工場 |
東京ポートシティ竹芝 | 東急不動産、KAJIMADESIGN、ランドスケープデザイン |
南町田グランベリーパーク | 南町田グランベリーパーク |
Marunouchi Street Park 2020~都心部のグリーンインフラのあり方提案に向けたエリアとしての取組~ | Marunouchi Street Park実行委員会 |
バスあいのり3丁目TERRACE 都心部の未利用地を活用し、グリーンなライフスタイルを発信 | 東邦レオ株式会社 |
高校生の手でできる身近な川の自然再生の実践研究 | 岐阜県立多治見高等学校 |
「コウノトリ野生復帰」をシンボルとした自然再生 | 豊岡市 |
地下水涵養プロジェクト | 公益財団法人 肥後の水とみどりの愛護基金 |
足尾荒廃地における官民協働による緑化活動 | 特定非営利活動法人 足尾に緑を育てる会 |
横浜ブルーカーボン・オフセット制度 | 八千代エンジニヤリング株式会社 |
シャレール荻窪の環境共生(生物多様性ネットワークと温熱環境の改善) | 独立行政法人都市再生機構 東日本賃貸住宅本部 |
グリーンインフラの活用に向けた国の取り組みや「グリーンインフラ大賞」についての詳しい情報は、国土交通省の『グリーンインフラポータルサイト』をご覧ください。
また、弊社コーポレートサイトに、滋賀県立大学 瀧健太郎准教授の監修のもとグリーンインフラ特集を掲載中です。
特集ページでは、朝日国土交通大臣政務官のインタビュー、グリーンインフラの旗振り役である国土交通省の最新動向を取材。第1回グリーンインフラ大賞の最優秀賞に輝いた宮城県仙台市、横断的な連携を強みとする神奈川県横浜市の取り組みも紹介します。
学識者の見解、建設団体や民間企業の取り組み、大学生の想いなどそれぞれの立場からの声も取り上げております。グリーンインフラ特集を是非ご覧ください。
建設業界や建築会社・土木会社などが日本や世界のSDGsに貢献できることはわかりましたが、逆に業界や各事業者にとって、SDGsへの取り組みにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
SDGsへの取り組みにはある程度のコストがかかります。それでも多くの事業者がSDGsに興味を持ち、実際に取り組みを進めているのは、以下に挙げる3つのメリットがあるためです。
SDGsに取り組んでいる、あるいはもっと具体的に「SDGsの○番に●●という方法で取り組んでいる」とアピールすることで、その事業者の企業イメージは向上します。
先進的で将来的に有望な企業というイメージが付くことで、優秀な人材の採用や新規取引先の開拓にもつながるでしょう。
環境負荷の低減を目指すSDGsの取り組みは短期的にはコストがかかるものの、資源の削減やエネルギー効率の向上などにより、長期的にはコストカットにつながります。
SDGsという新たな視点は、これまでにない新しいサービスや製品を生み出すことがあります。自社にとっては未知のまったく新しい分野に事業参入することで、事業や利益の幅が広がることも珍しくありません。
建設業界ではSDGsに参入する事業者が相次いでいます。特にここ数年は、スーパーゼネコンの5社はもちろん中堅・主要ゼネコンや地場の中小事業者までが、それぞれの得意分野や地域のニーズに応じて新たな取り組みを進めているところです。
主な取り組み内容 | SDGsのゴール | |||||||||
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③ | ⑦ | ⑧ | ⑨ | ⑩ | ⑪ | ⑫ | ⑬ | ⑭ | ⑮ | |
強靭な社会インフラを作る「八ツ場ダムの建設」 | ○ | ○ | ||||||||
築90年の建物を強化する「ホテルニューグランドの改修」 | ○ | ○ | ||||||||
人に優しいまちづくりを目指す「豊洲六丁目4-2街区・4-3街区」 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||||
すべての人が快適に使える「ユニバーサルデザイン」 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||||
利用する人の健康に配慮した「WELL認証」のオフィス | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||||
バリアフリー・ストレスフリーなまちづくりに向けた「高精度音声ナビゲーション・システムのサービス実装」(日本橋室町地区) | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||||
年間エネルギー消費量を実質ゼロとする建築物「ZEB(ゼブ:ゼロ・エネルギー・ビル)」 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||
平常時の省エネルギー運用と非常時の医療継続を両立させる「公立病院初のエネルギー・サービス事業」 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||
建物付帯型水素エネルギー利用システム「Hydro Q-BiC」 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||
グリーンインフラの推進 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
主な取り組み内容 | SDGsのゴール | ||||||||
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⑤ | ⑦ | ⑧ | ⑨ | ⑪ | ⑫ | ⑬ | ⑯ | ⑯ | |
先端と文化を融合させた「HANEDA INNOVATION CITY」の整備・運営 | ○ | ○ | |||||||
あらゆる人にとって「使いやすく」「わかりやすい」ユニバーサルでサイン | ○ | ||||||||
既存のダムを有効活用する「ダム再生」 | ○ | ||||||||
超高層ビルの制震性能不足や長周期地震動への不安を解決する技術「D3SKY」 | ○ | ||||||||
災害リスクの可視化と避難・復旧を支援するBCP・リスクマネジメントチーム | ○ | ||||||||
ドローン・WebカメラなどのICTツールを積極活用した災害復旧工事(千曲川) | ○ | ○ | |||||||
国内最大規模の風力発電「秋田港・能代港洋上風力発電施設建設工事」の着工 | ○ | ○ | |||||||
CO2排出量をゼロ以下にする環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOM」 | ○ | ○ | |||||||
ICTを活用した次世代の生産システムを推進する「鹿島スマート生産ビジョン」 | ○ | ○ | |||||||
AIやICTを活用した次世代建設生産システム「A4CSEL(クワッドアクセル)」 | ○ | ○ | |||||||
協力会社の人材育成を目的とした「鹿島パートナーカレッジ」 | ○ | ||||||||
女性活躍推進に積極的に取り組む「ダイバーシティ&インクルージョン」 | ○ | ||||||||
公正な事業慣行、コンプライアンス、人権の尊重に取り組む企業行動規範 | ○ | ○ |
主な取り組み内容 | SDGsのゴール | |||||||||||
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③ | ⑤ | ⑥ | ⑦ | ⑧ | ⑨ | ⑪ | ⑫ | ⑬ | ⑭ | ⑮ | ⑰ | |
省エネルギー設計と再生可能エネルギーの利用による「ZEB(ゼロエネルギー・ビル)」 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||||
木材利用による森林保全と地域経済活性化に貢献する「森林グランドサイクル」 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||||
地域資源を生かして地域課題を解決する実証実験「MACHIInnovation」 | ○ | ○ | ||||||||||
築90年を超える国の重要文化財「聴竹居」の保護・保全・公開 | ○ | |||||||||||
事業活動全体を包含した「CO2削減長期目標」の策定 | ○ | ○ | ||||||||||
TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)の提言への賛同と事業計画への反映 | ○ | ○ | ||||||||||
廃石綿を無害化・再利用する仕組みの構築を含む建設廃棄物のリサイクル推進 | ○ | ○ | ○ | |||||||||
生物多様性活動に取り組む「竹中生物多様性促進プログラム」の策定 | ○ | ○ | ||||||||||
最新機械化施工技術や生産BMIの積極的な推進・活用 | ○ | ○ | ||||||||||
ドローン撮影による溶接品質判定など先端技術開発とイノベーションの推進 | ○ | ○ | ||||||||||
ワークライフバランスとダイバーシティの推進 | ○ | ○ | ||||||||||
設計段階から生産部門や主要協力会社が品質確保のための作り込みに参加 | ○ | ○ |
その他、業界団体である「一般社団法人日本建設業連合会」も、グリーンインフラの調査や会員向け・一般向けの情報発信を行うとともに、グリーンインフラ官民連携プラットフォームの運営委員、技術部会幹事としてノウハウを生かすなど、SDGsの推進に向けた取り組みを行っています。
建設業界と深い関わりがあるSDGs。各事業者の取り組みは、日本や世界のSDGs推進に大きな影響を与えます。SDGsへの取り組みは事業者自身にとっても「イメージ向上」や「コスト削減」「新規事業分野の開拓」といったメリットになるため、他企業の取り組みも参考にしながら、ぜひ自社ならではのSDGsを推進してみてください。