建設業の許可を受けるためには「専任技術者」の設置が必要です。この記事では専任技術者になるための要件に加え、建設業と関わりの深い他の技術者(主任技術者・監理技術者)との違いについてもわかりやすく解説していきます。
専任技術者とは「建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有する者」(建設業法第7条第1号)として設置を義務付けられた技術者のことです。
専任技術者の設置は、すべての建設業者に求められているわけではありません。一定規模以上の工事を行うため、あるいは公共工事の入札参加のため「建設業許可」を取得する場合に必要となります。
国土交通省のホームページ(建設産業・不動産業:許可の要件)によると、建設業の許可を受けるための要件は次の5つです。
この記事では②の専任技術者について説明しますが、それ以外の要件や建設業許可そのものについては『建設業許可とは?取得要件や種類、申請の流れなどを解説します』をご覧ください。
専任技術者の主な役割は「請負契約の適正な締結」と「その履行」です。
具体的には、専任技術者は建設業許可を受けた営業所に常駐して工事見積書の作成や契約書の取り交わし、発注者との技術的なやりとりなどを行います。
専任技術者は営業所に常駐して仕事を行うため、「その営業所ごとに」(建設業法第7条第2号、第15条第2号)設置する必要があります。仮に何らかの事情で営業所から専任技術者がいなくなった場合、その営業所は建設業許可を維持できません。
専任技術者になるためには、大きく分けて二つの要件を満たす必要があります。
専任技術者の資格要件(一定水準以上の知識、および実務経験)は「建設業許可の種類」と「許可を受ける建設業の業種」ごとに異なります。
まず建設業許可の種類とは、一般建設業許可と特定建設業許可のことです。
種類 | 資格要件 |
一般建設業許可 | 1)指定学科修了者で高卒後5年以上もしくは大卒後3年以上の実務の経験 2)指定学科修了者で専門学校卒業後5年以上実務の経験、もしくは専門学校卒業後3年以上実務の経験に加えて専門士か高度専門士の称号 3)許可を受けようとする建設業に係る建設工事で10年以上実務の経験 4)国家資格者 5)複数業種に係る実務経験 |
特定建設業許可 | 1)国家資格者 2)一般建設業許可の専任技術者に該当し、さらに許可を受けようとする建設業で発注者から直接請け負う4,500万円以上の工事で2年以上の指導監督的な実務経験 3)大臣特別認定者(特別認定講習を受けて効果評定に合格、もしくは国土交通大臣が定める考査に合格) ※指定建設業(土木工事業・建築工事業・電気工事業・管工事業・鋼構造物工事業・舗装工事業・造園工事業)については、上記1もしくは3のいずれかを満たすこと |
加えて、それぞれの要件にある「実務の経験」や「国家資格」は許可を受ける建設業の業種(以下の29種類)に応じたものが必要となります。
一式工事 | 複数の専門工事を組み合わせた総合的な工事 | 1)土木一式工事 2)建築一式工事 |
専門工事 | 専門分野ごとの個別工事 | 3)大工工事 4)左官工事 5)とび・土木・コンクリート工事 6)石工事 7)屋根工事 8)電気工事 9)管工事 10)タイル・れんが・ブロック工事 11)鋼構造物工事 12)鉄筋工事 13)舗装工事 14)しゅんせつ工事 15)板金工事 16)ガラス工事 17)塗装工事 18)防水工事 19)内装仕上工事 20)機械器具設置工事 21)熱絶縁工事 22)電気通信工事 23)造園工事 24)さく井工事 25)建具工事 26)水道施設工事 27)消防施設工事 28)清掃施設工事 29)解体工事 |
具体的な国家資格や実務経験の内容については、国土交通省ホームページの『営業所専任技術者となり得る国家資格等一覧』や『指定学科一覧』をご覧ください。
専任技術者は、建設業許可を受けている営業所に専任で勤務する人、つまり「常勤」であることが条件です。このため他の営業所の専任技術者を兼務したり、他社の社員を兼務することはできません(他社からの出向は認められます)。
もし退職などで専任技術者が不在となった場合、代わりの専任技術者を確保しない限り、その営業所は建設業許可の取消し対象になります。
専任技術者とよく混同されるのが主任技術者と管理技術者です。ここではそれぞれの違いについて簡単に説明します。
主任技術者とは「工事現場における施工の技術上の管理をつかさどる者」(建設業法第26条)です。具体的には以下の業務を行います。
これに対し専任技術者は営業所内に配置され、請負契約の適正な締結や履行を行います。現場に出るのが主任技術者、内勤をするのが専任技術者というわけです。
主任技術者は工事を行う建設事業者の「直接雇用の正社員」であることが条件です。パートやアルバイト、他社からの出向は認められません。専任技術者は(常勤である限り)他社からの出向が可能でしたから、この点も大きな違いといえるでしょう。
主任技術者は原則として他の工事現場との兼任はできませんが、「公共性のある重要な工事で、同一の建設業者が請け負い、工事現場が同じ(もしくは近接する)工事」については例外として兼任が認められます。
また以下の条件を満たす工事については主任技術者と専任技術者の兼任も可能です。
・専任技術者として常駐している営業所で契約した工事であること ・営業所と工事現場が近い距離にあり、常時連絡を取ることができること ・「技術者の専任が必要な工事」以外の工事(1件の請負金額が3,500万円(建築一式は7,000万円)以上)であること |
主任技術者の詳しい業務内容や資格については『主任技術者・監理技術者とは?資格・要件・役割などの違いのわかりやすいまとめ』『主任技術者の設置が不要なケースとは?専門工事一括管理施工制度の要件を解説』もお読みください。
監理技術者も主任技術者と同様、「工事現場における施工の技術上の管理をつかさどる者」です。ただし主任技術者が原則としてすべての工事現場に配置されるのに対し、監理技術者は以下の条件に当てはまる工事現場で、主任技術者の代わりに配置されます。
監理技術者の業務内容は、主任技術者の業務内容に「下請業者の指導監督」を加えたものです。直接雇用の社員であることや、他の工事現場との兼任が禁止される点は主任技術者と同様です(ただし監理技術者に例外規定が適用されません)。
監理技術者の詳しい業務内容や資格等については『主任技術者・監理技術者とは?資格・要件・役割などの違いのわかりやすいまとめ』『監理技術者を更新するには?有効期限が切れた場合についても解説』『専任義務があった「監理技術者」が兼任OKに緩和!変更点や条件を詳しく解説』もお読みください。
建設業許可の取得を目指すのであれば専任技術者は必ず必要になります。この記事や関連記事の内容を参考に、専任技術者の役割や他の技術者との違いをしっかり理解するようにしましょう。