落札者を決める際に、入札価格以外の要素を総合的に判断する「総合評価落札方式」。工事の品質アップやコスト削減、環境保護などさまざまなメリットがあるとされる新しい落札方式です。今回の記事では、総合評価落札方式の特徴と仕組みについてわかりやすく解説していきます。
総合評価落札方式とは、入札価格だけでなく技術提案(工事の質や内容など)も評価対象にする入札方式です。
総合評価落札方式では入札金額の一番低い事業者が落札者になるとは限らず、むしろ技術力の高い事業者ほど高く評価され、入札競争において有利となります。
総合評価落札方式の採用が始まったのは1990年代からです。当初はスーパーコンピュータの購入など高度な技術力が求められる物品調達案件で導入され、その後、建設省(国土交通省)の公共工事で試験的に採用されるようになりました。
この背景にあるのが、公共工事の品質確保への懸念です。従来のように入札価格だけを評価する入札方式では、価格競争が工事の品質低下や環境破壊を招くと懸念され、それを未然に防ぐために総合評価落札方式が導入されたのです。
当初は法律上の裏付けがないまま試行的に行われていた総合評価落札方式ですが、2005年に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が制定されてからは、国や自治体によって本格的に採用されています。
総合評価落札方式では、主に以下のような項目が評価されます(国土交通省「総合評価落札方式パンフレット」より抜粋)。
上記の項目と関連して、事業を実施するための組織体制や担当者のスキル、過去の実績、独自の創意工夫なども評価対象となります。
評価基準について詳しく解説した『総合評価落札方式の評価基準とは?2022年度からの新制度についても解説』の記事もぜひご覧ください。
総合評価落札方式で評価されるポイントのひとつに、NETIS(New Technology Information System:新技術情報提供システム)の活用があります。
NETISとは国土交通省が運用しているデータベースシステムのことで、公共工事に活用できるさまざまな新技術についての情報をインターネット上で閲覧できます。NETISに登録された新技術を提案して有用と認められた場合、その事業者は加点の対象となります。
総合評価落札方式には「除算方式」と「加点方式」があります。
入札価格以外の要素を数値化した技術評価点を、入札価格で割る評価方式です(技術評価点÷入札価格)。計算結果の数字(評価値)が大きい事業者ほど高く評価され、落札者となります。
この技術評価点とは、要求要件を満たすことで与えられる「基礎点」と、プラスアルファの項目を評価する「加算点」の合計です。
入札価格以外の要素を数値化した技術評価点と、入札価格を数値化した価格評価点を合計する評価方式です(技術評価点+価格評価点)。ちなみに価格評価点は、入札価格が低いほど大きくなります。
なお一般的に使用されているのは除算方式の方で、加算方式は国土交通省の一部案件で試行的に採用されています。
プロポーザル方式も、入札価格以外の提案内容を評価する入札方法です。プロポーザル方式と総合評価落札方式の違いは以下の通りです。
プロポーザル方式 | 企画提案書(必要に応じてヒアリング)の内容を評価項目ごとに点数化し、その合計点で落札者を決定する |
総合評価落札方式 | 企画提案書(必要に応じてヒアリング)の内容を点数化し、それを入札価格で除算した結果で落札者を決定する ※除算方式の場合 |
総合評価落札方式にはいくつものメリットがあります。ここでは代表的なメリットを中心に説明していきます。
発注者である国や自治体にとってのメリットは、公共工事の品質を向上させつつ、ムダなコストを抑えられるという点です。
総合評価落札方式では入札価格と提案内容(特にコスト削減の工夫や性能・機能向上に関する技術)の両方が評価対象となるため、「低価格・低品質」「高品質・高価格」のどちらにも偏りません。
能力の低い事業者が公共工事を落札して、結果として工期が遅れたり工事の品質が低下することも避けられます。
事業者にとってのメリットは、企業規模に関係なく落札のチャンスがあることです。
総合評価落札方式では技術力や提案力の高い提案が評価されます。体力のある大企業と価格競争をする必要がないため、特に独自技術を持つ中小企業にとって魅力的な入札方式といえるでしょう。
また新しい技術や工法ほどより高く評価されるため、新技術の開発や人材育成に向けたモチベーションアップにもつながります。
地域にとってのメリットは、工事による住環境の悪化や不便が少ないことです。
総合評価落札方式では、工期の短さや地域に負荷をかけない工法も評価対象となるため、工事中の渋滞緩和や騒音の軽減などが期待できます。
加えて、自然環境への悪影響が少なくなるのも総合評価落札方式のメリットです。案件によっては気候変動対策や自然環境保護策を重視するものもあるため、結果として事業者の環境保護意識や技術の進歩を促すことにつながります。
上記のようなさまざまなメリットがあるにもかかわらず、総合評価落札方式の導入はあまり進んでいません。その理由は、発注者と事業者の双方に以下のようなデメリットがあるためです。
①公平な評価が難しい(発注者にとってのデメリット)
総合評価落札方式では、あらかじめ設定した評価項目ごとに評価を点数化します。しかし(工事の質や内容のような)数字で表現されない項目を公平に点数化するのは簡単ではありません。発注者はあらかじめ提案内容のどこを評価するか、どのように数値化するかをしっかり決めておく必要があるため、手間がかかります。
②人材確保が難しい(発注者にとってのデメリット)
事業者の提案内容を検討し、数値化する際は透明性の高い評価プロセスの確保が必要です。一般には技術者や外部の学識経験者による第三者委員会を設置しますが、特に小規模な自治体では必要な人材確保が困難なことも少なくありません。
③受注者の確定に時間がかかる(発注者にとってのデメリット)
公平な審査を行うには時間が必要です。このため総合評価落札方式では、入札公告から受注者の確定までに時間がかかります。たとえば国土交通省の場合、入札日から1か月以上経って受注者を発表するケースが多いようです。
④提出書類が多い(事業者にとってのデメリット)
入札に参加する事業者にとっては、提出書類の多さがネックです。工事の内容だけでなく、事業を実施するための組織体制や担当者のスキル、過去の実績、独自の技術や創意工夫といったさまざまな項目をアピールするため、申請書類一式を揃えるのに時間と手間がかかります。
総合評価落札方式の対象は、基本的にすべての公共工事です。
ただし工事の性質や目的によっては従来タイプ(価格競争のみ)の入札が行われます。具体的には、総合評価落札方式を採用するメリットが少ない「技術工夫の余地が特に小さい工事」などの場合です。
また総合評価落札方式の対象となる工事でも、工事の性質・目的によって3つのタイプの総合評価落札方式が使い分けられます。
簡易型の総合評価落札方式は、技術工夫の余地が小さく、仕様に基づく適切で確実な施工が求められる工事に適用されます。主な評価ポイントは、施工手順や工期などの施工計画、品質管理の頻度や方法、事業者の経験や過去の実績などの技術面です。
標準型の総合評価落札方式は、技術的工夫の余地が大きい工事のうち、安全対策や工期の短縮、環境への影響軽減など、施工上の工夫に関する技術的提案を求める工事に適用されます。
発注者が提示する仕様に基づいた上で、より高い品質の工事を提案できるかどうかが評価のポイントとなります。
高度技術提案型の総合評価落札方式は、技術的工夫の余地が大きい工事のうち、構造物の品質向上につながる高度な技術提案が求められる工事に適用されます。
事業者が持つ高度な技術力や工夫により、目的物の強度や耐久性、供用性、ライフサイクルコストなどで高い品質を提案できるかがどうかがポイントです。
総合評価落札方式の流れは、発注者や案件によって多少異なります。ここでは標準的な入札の流れについて説明します。
繰り返しになりますが、上記の流れはあくまで標準的なものです。国の各省庁や自治体によっては独自の要件や流れを設定していることもあります。入札に参加する場合は、それぞれが公表するガイドラインを事前にしっかり確認することが重要です。
参考までに、インターネット上で公開されているガイドラインを一部ご紹介します(具体的な入札を検討している場合は、発注者がガイドラインを用意しているか確認することをお勧めします)。
総合評価落札方式を採用する入札案件は、特に技術力のある中小企業にとって大きなチャンスとなります。入札参加を検討している事業者の方は、それぞれの発注者や案件ごとに設定された評価ポイントを見定めた上で自社の技術や経験、工夫をしっかりアピールできるようにしてください。